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第五百十三 話 地上に向けて

 

「さて、どうやら第六中隊が壊滅した原因の魔物、新種はアレに間違いはなさそうだね」


 周辺を騎士達が警戒する中、広場の中央ではアーサーを中心にここまでの経過報告を行っている。

 広場でもこれまでと同様に魔物による襲撃を受けていたのだが、新種のような魔物の集合体ではない。行き止まりであった通路から現れていることもあるので、魔素の濃度により新たに生まれ落ちている様子が見られている。新種の魔物の対応時にはスフィアやカレンの活躍により、幸いいくらか負傷者は出ているものの死者は出ていない。


「で、これからどうするのだ?」

「そうですね。ヨハンくん達が見つけたという扉の検証はもちろんですけど、他の二つの道の奥に何があるのか調べないといけませんね。あとはここの浄化と。これに関しては相当に時間がかかりそうですけどね」

「……それだけか?」


 射抜くような視線をアーサーに向けるキリュウ。


「それだけとは?」


 対して、アーサーは何食わぬ顔で笑顔を返す。


「いやなに、お前が良からぬことを考えているように見えてな」


 その様子。雰囲気。以前から良く知る間柄だからこその表情。


「さすがはキリュウさん。別に個人的な事情ですよ」

「個人的な事情?」

「ええ。ではそろそろ地上へ戻りましょうか。こちらは色々とキリがいいですし。恐らく地上もそろそろでしょう。少しばかりの被害は出ているでしょうがロズウェルなら上手くやっていることでしょうしね」


 もう地下に潜って少なくとも半日以上の時間は経過している。

 地上に戻る頃には日も暮れかかる頃。

 アーサーが下す判断に対して共同任務に当たっている冒険者側、ヨハン達が否定する理由もないので一緒になって地上へと戻ることになった。


「ったく。にしても結局何もわからなかったじゃねぇかよ」


 レインの言う通り、今のところ成果と言える成果は扉があったことと魔獣の複合体を討伐したこと。それだけでも十分と言えば十分なのだが、奥がどうなっているのか気にもなる。


 そうして地上に戻るまでの帰り道、帰路にて生まれる魔物に対しては第一中隊の騎士達が率先して討伐を買って出ていた。自分達の不甲斐なさを感じているのでその意を汲んでくれとスフィアの言葉を受けて最後尾を歩いている。


「…………」

「どうかしたのヨハンくん?」


 その間、ヨハンは考えを巡らせていた。ここがどういう場所なのかということよりも、扉の先にどうやったら入れるのかということを。


「ねぇサナ? サナのお父さんって木彫り細工の職人なんだよね?」


 そうして行き着いた結論、可能性は隣を歩く少女が持っている繋がり。


「そうだけど、それがどうかしたの?」


 問い掛けの意図がわからないサナは首を傾げる。


「これ、なんだかわかる?」

「これって……――」


 そうして手渡すのは行き止まりの扉の近くに落ちていた木片。


「――……さぁ? お父さんならもしかしたらわかるかもしれないけど、私にはちょっと」


 ジッと見たものの、見た感じにはただの木片にしか見えない。知識もなければ目利きもできないので鑑定のしようがなかった。


「ヨハンさんはやはりそれが関係していると考えているのでしょうか?」

「うん」


 魔獣の集合体が発生した要因。アーサーやキリュウはこれだけ濃度の高い魔素が充満したことによって生まれた変異種ではないのかという見解を抱いていたのだが、ヨハンは違っている。正確にはそれ自体は否定しないのだが、詳細はまた異なるのだと。

 魔石を拾ったことは報告してあるのだが、アーサーからは拾得物は拾った冒険者のものだと言われていた。当然ながら調べた結果それがなんらかの重要品であれば王国として適正な値段で買い取ると。


「例えば、の話だけど、その魔石を魔物が食べたらあんな奴が生まれたりするの?」

「はっきりとした前例はありませんが、その可能性は十分にあり得るかと」


 魔物の発生の要因は魔素によるものだということしかわかっていない。魔物を討伐したことにより生み出される魔石はその魔物が体内に持つ魔素が凝縮したものだと。魔物が先で魔石が後。これが一般論で常識。


「ってかそんなもん、考えてもわからないものはどうにもならねぇっつの。偉い学者に任せればいいんじゃね?」

「そういうことを言っているからレインはバカなのですわ」

「おいおい、お前なぁ」

「わたくしはヨハンのその意見に賛同しますわ」


 怒るレインをそっちのけにするマリンはエレナの顔をジッと見る。


「これだけの場所。常識の枠外の原因が存在したとしても何も不思議ではないもの」

「そうですわね。それに関してはわたくしも同意しますわ」


 魔素や魔法に関する造詣の深い二人の見解の一致。若干の不快感がマリンの胸中へと訪れるものの以前の比ではない。随分と和らいでいる自覚はあった。


「それよりエレナ、聞いていますのよね?」

「ええ。もちろんですわ。結果はもうすぐそこにあるので今さら気を揉んでも仕方ないですわよ」


 先程までの話の流れとは明らかに別の内容の話。


「なにかあるの?」


 ヨハンの問いかけに対して嘆息するマリンと苦笑いするエレナ。


「本当にしょうもないことよ」

「これから地上に戻りますが、もし地上で異変が起きていようとも驚かないでくださいませ」


 間もなく地上へと戻る階段に着く頃。

 エレナのその苦笑いがどういうことなのか理解できないまま地上への階段を上っていった。



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