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第四百八十四話 グズランの提案

 

「それで、グズランよ」

「はっ!」

「一体どのような方法をもってこの者達の実力を確認しようと思っているのだ?」


 刺すような眼差しでグズランを射抜いているローファス。しかしグズランは怯むことなくローファス王をしっかりと見つめ返していた。


「いえ、それほどたいしたことではございません。我が第六中隊を用いようかと考えております」

「第六中隊をか?」

「はっ! 僭越ながら意見を申させて頂きますと、私も含め、所属している騎士達も後悔と心残りがあるというのが率直な気持ちであります」


 僅かに視線を落とすグズランは部下を失った悔しさを露わにさせる。


「第一中隊に任務を任せるというのは至極当然の判断かと。確かに未知の脅威であればこそ、第一中隊が適任だということは理解しております」


 騎士団の中でも精鋭揃いの第一中隊。しかしその言葉を聞いて溜息を吐いているのはアマルガス大隊長。


(よく言う。どうせ同行したところで第一中隊の、いや、アーサーの足を引っ張ることしか考えておらんだろうに)


 グズランの後ろ盾である貴族は四大侯爵家であるブルスタン家。ランスレイ家とは水面下で敵対関係であることは貴族家と繋がりがあれば誰もが知るところ。


「ふむ。それで?」

「まだ学生である子供にこれまで自分たちが行っていた任務を持って行かれたとなるといくらかの不満もあることでしょう。仲間達の敵は自分達で取りたい所存であります」

「言いたいことはわかるが、それとこいつらがどう関係する?」

「ですので、それが叶わないのであれば、それを託せる者達に預けたいということであります。生半可な力の者には預けられないというのが私達の心情、本音であります」

「……なるほどな。では、第六中隊の残りの騎士でこいつらの実力を確認したい、そういうことでいいのだな?」

「はっ! お許しを頂けるのであれば!」

「わかった。許可しよう」

「え?」


 迷いのないローファスの返答を受けたグズランは一瞬だけ呆気に取られる。


「よ、よろしいので?」

「かまわんと言ったのだが聞こえなかったか?」

「は、はっ! 誠にありがとうございます!」

「それで良いな。アマルガス?」


 端にいるアマルガス大隊長に目線を向けると、アマルガスは軽く頷いた。


「国王の意のままに」

「で、では、これより詰所に戻り、すぐに騎士の選抜をして参ります」


 背を向け、謁見の間を出ようとするグズラン。


「ちょっと待て」

「はい?」


 立ち止まるグズランはローファスに正面を向く。


「方式はどうするつもりだ?」

「え? ですので、この冒険者達は六人ですので実力者を六人程見繕ってこようかと……?」

「やはりな」


 大きな溜息を吐くローファスを見てグズランは疑問が浮かんだ。


(これは、国王もやはり人の親、というわけか)


 チラリと視界に捉えるエレナの姿。その類い稀な力量は聞き及んでいたのだがグズランは直接目にしたことはない。主にエレナの教育係は近衛隊長とその周辺の人物で行っていたと聞いている。実力者をあてがわれることに不安を覚えているのだろうかと。その辺りは差し障りのないように手配するつもりだったのだが。


「ぬるいな」

「え? ぬるい?」


 ローファスの口から発された言葉の意味が理解できない。


「ぬるすぎると言っているのだ。こういってはなんだが、お前達では物足りん。俺が考えなしに今回の依頼を出そうとしているとでも思っているのか?」

「め、滅相もございません」

「それに、いくら娘がいるからといって、実力の足りん者を呼び付けてまで依頼を出すとでも思っているのか?」

「い、いえ……」


 ローファスが何を言おうとしているのか、グズランだけに留まらずその場にいる全員が理解できなかった。


「第六中隊、残っている全員でこいつらの相手をしてみろ」

「なっ!?」


 その口から発された言葉にグズランは目を見開く。ヨハン達も驚き、ローファスの顔を見るのだが笑みを浮かべていた。唯一反応が少なかったのは第一中隊長であるアーサー・ランスレイのみ。眉をピクリと動かすのみ。


「ほ、本気でございましょうか!?」

「さっきも言ったぞ。俺がこの場で冗談を言うと思うか?」

「い、いえ……」

「だいたい、お前がこいつらの実力を確かめたいと言ったのだろう?」

「わ、わかりました。仰せのままに」

「うむ。では準備をしてこい」

「はっ!」


 動揺をひた隠しにするグズランは鎧の音を響かせながら謁見の間を出ていく。


「あ、あの、王様?」

「そういうわけだ。お前達も思う存分やるといい」

「お父様。よろしいのでしょうか?」

「ああ。構わんなアマルガス?」

「国王の……意のままに」


 アマルガスは平静を装い、その心情は外見上図れない。しかし内心穏やかではなかった。


(まさかここまでのことをされるとは)


 アマルガスが知るのはヨハンとエレナの実力のみ。あとはそれに比肩するやもしれないという仲間達のことなのだが、そこにはカサンド帝国の皇女もいる。不安が募る。


(なるほど、これはやはり噂通りだね。面白くなった)


 居合わせるアーサーはヨハン達を視界に捉えながら、自身の隊で小隊長を務めているスフィアの言葉を思い出していた。


『先にキミに伝えておくが、今回の任務、恐らくエレナ様達との共同任務になるだろう』

『えっ!? いったいどうして?』

『まだ詳細は私も聞いていないが、キミも既に聞き及んでいるだろう』

『もしや、サンナーガの遺跡、でしょうか?』

『ああ。アスタロッテ君達に先に向かってもらっているが、恐らくね』


 グズランの中隊が半壊状態に陥ったので、周辺の警備に第一中隊所属の騎士が駆り出されている。そして今回の招集。その場にはエレナ王女と噂の竜殺し達が同席すると聞かされていた。


 アーサーが思わず感心を示すのは、確かにヨハン達はローファス王の提案に驚きを見せていたのだが、その驚きは困惑であり、あくまでもそれでいいのかという確認。恐怖や怖気の一切を感じさせていない。


「さて、あとは決行の日程だが、それはまた追って伝える」

「国王。私からも一つよろしいでしょうか?」

「なんだ?」


 挟むように口を開いたのはそれまでほとんど無言を貫いていたアーサー。


「私もその場に同席させて頂いてもよろしいのでしょうか?」

「無論かまわん。こいつらがどういう者達なのかということをその眼でしっかりと見ておくことだな」

「はっ。ありがとうございます。では私もこれにて失礼します」


 そうしてマントを翻してアーサーも謁見の間を出ていく。


「まぁ、そういうわけだ。頑張れよ」


 ローファス王はあっけらかんとしてヨハン達に言い放った。


「はぁ。何がそういうことですか」


 呆れるように溜息を吐くのはエレナ。全く以て想定外の展開。


「まぁそう怒るな」

「これで怒るなという方に無理がありますわ」

「王様。そんな事態に僕たちが参加してもいいのですか?」

「ん?」

「いえ、騎士団が壊滅するような事態に、僕たちのような学生が、と」

「そういうことか。それは逆だな」

「逆?」

「ああ。騎士団が壊滅するような事態だからこそ、学生だろうとそうでなかろうとなりふり構っていられないということだ。実力ある者を正当に評価して臨む必要がある。それにお前達だけではない。他にも声は掛けてあるからな」


 その評価自体は素直に嬉しいものなのだが、過分な評価ではなかろうかとレインには内心過っている。


(っつか、それかなり危険なんじゃねぇの?)


 同時にそれだけの事態に身を乗り出すことに対して僅かに怖気を抱いていた。


(いったい、何が起きてるんだろう?)


 ヨハンにしても考えて答えのでるような疑問ではない。まだその任務に就いたわけでもない。


「必要ないと思うが、一応言っておく。油断はするなよ?」

「はい。もちろんです。僕たちもそんなつもりはありません」


 そうしてグズラン率いる第六中隊とサンナーガの遺跡調査を巡って選考試合をすることとなった。



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