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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
学年末試験 二学年編
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第四百七十一話 カレンのローブ

 

 ミライから連絡が来たのはそれから一週間後。


「こんにちは」

「あっ、いらっしゃいっす。仕上がってますよぉ」


 仕立ててもらったローブを受け取りに再びドルドの鍛冶屋を訪れていた。


「ちょっと待っててくださいっすね」


 そうしてすぐさま店の奥に姿を消していく。


「お待たせしました」


 両手に抱えて持ってきたのは白いローブ。貴重品を扱うようにしてそっと机の上に置いた。


「採寸はしっかりしているから問題はないと思いますけど念のため一度試着してくれないっすか?」

「ええ、それぐらいなら」


 そうして机の上のローブに向かってゆっくりと手を伸ばすカレン。


(それにしても……――)


 綺麗に編み込まれた繊維は滑らかでありきめ細かい。素直に感心するほどに美しい仕上がり。


(――……こんなの作れるのね)


 先日の言動からはおよそ連想できないほどのその技術。


「どうかしたっすか?」

「いえ、なんでもないわ。それにしても、思ったよりも軽いのね」


 見た目以上だと感じるのはその軽さ。


「そうっすね。頂いたあの素材、ほんと凄いっすよ」


 シーサーペントの鱗によって金属とはまた違った意味で頑丈に作ることができている。そのおかげで耐久力を損なわずに重量をぎりぎりまで引き下げることができていた。


「その辺りに関しては信用してもらってかまわん」

「ドルドさん」


 工房の奥から笑みを浮かべたドルドが姿を見せる。


「あれだけの素材だ。むしろこちらが金を支払わねばならんほどだ」


 熟練の鍛冶師であるドルドを以てしてもシーサーペントの鱗は素材として最高級だった。


「というわけで、今回のお代は無料でいいらしいっすよ」

「え? いいんですか?」

「うっ、いや、まぁ…………」

「お師さん。さすがにアレだけの素材を受け取っておきながらこの上お金はもらえないっすよ」

「た、確かにな」


 諦めて大きく息を吐くドルド。


「ありがとうございます」


 満面の笑みをドルドに向けるカレン。


「じゃあ、早速着てみるわね」


 ゆっくりと袖に手を通していく。胸の前にある留め具をしっかりと止めてヨハン達に向けて振り返った。


「どう、かな?」


 若干の恥じらいを滲ませながら微笑む。


「やっべぇ、すっげぇ可愛いっす!」

「そうね。確かによく似合ってるわ」

「ええ。悔しいですがこれは褒めるしかありませんわね」


 レインとモニカとエレナがそれぞれ口々に感想を述べるのだが、その綺麗な白のローブは元々のカレンの美しさに加えてその透き通る様な銀髪と相まって思わず目を惹く程。


「ありがと」


 笑顔を向け、立て続けに掛けられる賛辞に視線を彷徨わせるも、上目づかいでチラリとヨハンを見た。


「本当によく似合っていますよカレンさん」

「そ、そう? あ、アリガト」


 微妙に頬を赤らめる姿を見るモニカとエレナは途端にムスッとさせている。


「どうやら気に入って頂けたようっすね」

「ええ、これならまたお願いさせてもらうかもしれないわ」

「いやいや、そもそもうちの本業は鍛冶っすからね? 次の時はさすがに特別料金を頂戴するっす」

「何言ってるのよ。これだけの物が作れるのに鍛冶見習いだなんて勿体ないわよ。これならすぐにでもお店を開けるわよ」


 仮に帝都であれば瞬く間に人気店になるであろうと断言出来た。


「いいんすよ。うちははうちの作りたい物を作るだけっすから」


 ニマッとするミライ。その頭をドルドが撫でる。


「まったく。こいつはこういうところで変に頑固だからな」

「お師さんにそっくりっすね」

「よく言うわ」


 それだけで仲の良さを十分に窺わせる二人の関係性。


「今回はこういう形になったが、また何か手に入れば是非とも持って来てくれ」

「わかりました」

「それと、お主」


 ジッとモニカを見るドルド。


「私?」


 一体どうしたのかと思い、モニカは自身の顔を指差す。


「お主の剣、その由来はわかったのか?」

「ううん。お母さんから何も連絡がないの。おかげで私には過分なあだ名まで付けられたわよ」

「言い得て妙だとは思うが、それよりどうなのだ?」


 剣姫という二つ名で呼ばれることを以前ドルドに話した際、ドルドは大笑いしていた。


「連絡があればまた教えるわ」

「なにかあったの?」

「ヨハンが帝国に行ってる時にドルドさんから頼まれたの。私の剣をどうやって手に入れたのか教えて欲しいって」

「そういえばモニカの剣はドルドさんが打ったんだよね。それがどうかしたの?」

「……少し気になることがあっての」


 僅かに言葉に重みを含める。


「気になること?」

「お主等には関係ないわ」


 それ以上の追及を許さないというばかりのドルドの眼差し。普段は見せない真剣な表情。


「わかりました。今回はありがとうございました」


 ドルドにはドルドの事情はあるのは理解している。国を出て人知れず鍛冶の技術を磨いている程なのだから。


「いや、こちらこそすまん。無理をいうわけではないからな」

「いえ、大丈夫です」


 そうしていくらか軽く会話を交わして店を出るのだが、レインはチラリとミライに目配せしていた。


「あの?」


 ヨハン達が先に店を出た頃、レインがミライにそっと耳打ちする。


「アレ、どうっすか?」

「大丈夫っすよ、出来てるっす。いつでも取りに来ていいっすよ」


 その返答を受けたレインはぱあッと表情を明るくさせた。


「ありがとうございます!」

「レイン? どうかした?」

「なんでもねぇ。すぐいくよ」


 軽快な足取りでヨハン達に付いて店を出ていく。


「何か良いことでもあったのレイン? 妙に嬉しそうだけど?」

「いんや、何もねぇよ」


 否定はするものの、ヨハンに限らずモニカとエレナも推測はできていた。


(これは匂うわね)

(レインの考えることぐらいお見通しですわ)


 二人して日にちを置いてナナシーに確認するつもりでいた。

 そんなモニカとエレナの思惑も知らず、うきうきとしているレイン。表情は緩みっぱなし。まだ品物を受け取るどころか見てすらいないのだが、カレンのローブの仕上がりを見る限り十分な期待が持てる。むしろ期待しかなかった。



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