第四十六話 世界樹の輝き(後編)
里長に案内されたのは里のさらに奥深くに入り込んだ中。
森の中にあったエルフの里なのだが、その奥にはとてつもない大樹が見えた。
まだ近くに辿り着いていないはずなのに、視界にははっきりとその木が認識できる。
視界に捉えたことでその大樹がそれだけで神秘的な何かを感じさせられるものなのはすぐにわかった。
その道中、スフィアとサイバルが並び話している。
「久しぶりに会えたというのにバタバタすることになったな」
「ほんとね。五年振りくらいかしら?」
「そんなところかな。それにしても驚いたぞ。お前が昏睡状態って知った時は」
「ええ、まだまだ私も修行不足よ。今回の旅でそれを痛感したわ。本来サポートするべき立場の私が命を助けられることになって…………」
スフィアの表情が明らかに沈み始めた。
「いや、気を落とすことはないと思うぞ。人間の中でもお前は確実に上位に入るほどの実力者の筈だ。初めてお前が里に来た時に人間の子供がこれほど強いと思い知らされたことはなかった。それもお前が特別だって知ったのはそれからしばらく後のことだったしな」
スフィアとサイバルは旧知の仲だった。
当時、幼いながらも実力者のスフィアは父に連れられ、今後に向けた勉強の一環としてエルフの里を訪れていたのであった。
その際にサイバルと面識があった。
面識というよりは、生意気な子供時代のサイバルが人間の子供であるスフィアに絡みに行き、返り討ちにあったという話になるのだが。
そんな話もありながら、世界樹が大樹にしか見えないほど近付いたころ、ヨハンは少し違和感を覚える。
「……あれ?なんだか世界樹ってフルエ村のあの広場の巨木に似ていない?」
「そういえばそうねぇ。あれも世界樹……なわけないよね?」
「似ているのも当然ですね。あの木は昔に、ここエルフの里の木を植樹したものらしいのですから」
「あっ、なるほど。それで似ているんだ」
ヨハンが覚えた違和感に対して、ナナシーがフルエ村の巨木はエルフの里の木だと説明した。
かつてエルフの里では人間との戦争が起きた。
しかし、その後に友好の証としてあのフルエ村に植えられ、それが今に繋がっているのだと。
そうして世界樹にもう少しで触れる位置にまで来た頃、キズナのメンバーはその世界樹のあまりの神々しさに感動する。
「すっげぇ…………。これ、本当に輝きが失われ始めているのか?にわかには信じられねぇな」
「私もそう思う」
レインもモニカも感動するほどの輝きを世界樹から感じた
「そうですね。見慣れないとそう思うのも仕方ありません。ですが、輝きを失くしているのは事実です。本来ならば視界に捉えた時点でその光を目にしてもいいほどなのですが、これほどまで近付かなければ感じられないほどに落ち込んでいます」
里長ははっきりと断言する
それでも世界樹を見て感動できるのはそれが世界樹と呼ばれる所以なのだろうと考えた。
「これだけ光っていてもそうなんですね。わかりました。僕たちが受けた依頼は、この輝きを確認して王家に報告することです」
「ええ、ありのままを伝えておいて下さい。ローファス王にもよろしくお伝えください」
「わかりました」
それからは依頼通り世界樹の輝きを確認したヨハン達は帰路に着くことにする。
エルフの里の入り口には里長とサイバルがキズナとナナシーを見送るために来ていた。
「ナナシー、人間の世界であまり無茶をしてはいけませんよ?あなたは少し短慮なところがあるのですから」
「もちろんです!任せてください!!」
里長は再び里を離れるナナシーに対してきちんとするように注意を促すのだが、ナナシーは胸を張り、堂々と答える。
「(あー、けど確かに俺らと戦った時も何も考えずに本気出そうとしていたしなぁ。そういう意味ではこの人……ナナシーって結構好戦的なんじゃねかな)」
ナナシーの自信満々の気持ちの良い返事を聞いたレインが不安を覚えるのは、実際に対峙した時の事を思い出していたから。
本当に大丈夫なのだろうかと一抹の不安を感じてしまう。
「あの……?」
「どうしましたか?」
里長は不思議そうにヨハンを見る。
「もし良かったら、また機会があれば来てもいいですか?もうちょっとゆっくり見て回りたいんですけど、今回は時間がないので…………」
「ええ、もちろん構いませんよ。いつでも遊びに来てください。アトムとエリザの子よ」
「えっ!?どうしてそれを!?」
里長が笑顔で答えたあとの言葉に耳を疑ってしまう。
ここに来るまで、両親の名を出したことなど一度もなかった。
「ナナシーに聞きましたよ。あなたがスフィンクスのメンバーの子だということを。だとすればあの二人以外にあり得ませんのでね。それに、以前私たちは彼らに助けられたこともあります」
「そう……だったんですね」
村長に聞いたエルフの里の過去の話のことだろう。
一体どんなことが起きていたのか気になってしまう。
「あなたからはアトムとエリザの面影を感じます。あなたにはこれを」
手渡されたのは、青く光る宝石だった。
「これって、ナナシーが持っていたエルフの秘宝と同じですか?もらってもいいんですか?」
「ええ。秘宝とはいってもそれほど大袈裟なものではありませんよ。それにスフィンクスのそれぞれにも渡してありますしね」
「わかりました。ありがとうございます!」
「またいつでもいらっしゃい」
そうして里長はヨハンに優しく微笑んだ。
ヨハン達は振り返り、エルフの里を出る。
里長はその後ろ姿を見送りながら溜め息を吐きながら小さく呟いた。
「ふぅん、エリザちゃんとアトムの子がもうあんなに大きくなったのねぇ。時間が経つのは早いものね…………」




