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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
学年末試験 二学年編
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第四百六十八話 フォレストモスと繭(前編)

 

 パラライトの森の入り口で馬車を停めた一行はフォレストモスの繭を採りに行くために森の中へと踏み込んでいた。


「それにしてもほんと気が乗らないわ」


 エレナと二人で先頭を歩くモニカは肩を落としている。


「仕方ありませんわ。カレンさんの為ですもの」

「そうね。カレンさんのために一肌脱ぎましょうか」

「ほんとあなた達って恩着せがましいわねぇ。私は別にヨハンと二人でいいって言ったでしょ?」

「「それはダメ!」ですわ!」


 勢いよく振り返る様にカレンは思わずビクッと肩を震わせた。


「ま、まぁまぁ。もうここまで来たんだし」


 ヨハンとしても苦笑いするしかない。こんな調子がずっと続くものだから、それならばレインと二人で来れば良かったという後悔を抱く。


(はぁ)


 内心で溜息を吐きながら、そうして森の奥へと進んでいった。



 ◆



「――そっち!」

「任せて!」


 目の前に迫る四つ足の獣をモニカが容易く斬り落とす。

 森の中で遭遇するのはなにもフォレストモスだけではない。獣型の魔物であるガルムが何度となく襲い掛かって来ていた。


「ガルアァァァッ!」

「ガルムかぁ。こいつばっかり出て来られてもなぁ」


 レインは両手に持つ短剣を使い、襲い掛かるガルムをひらりひらりと舞うように躱し、すれ違いざまに斬り伏せる。


「っていうか、今更だけど何で俺が先頭を歩いているんだよ!」


 いつのまにか先頭はレインが歩いていた。


「だってフォレストモスが急に出てきたらびっくりするじゃない?」

「そうですわよ」

「……だったらなんで最初順番を決めたんだよ」


 思わず呆れてしまうのは、先頭を歩きたくなかったモニカとエレナによってクジで隊列が決まっている。


「それに、か弱い女の子を守るのは男の子の仕事ですわよ?」

「そうよそうよ」


 堂々と二人して言い放った。


「どこにか弱い女の子がいるんだっつんだよ。どこに。え。剣姫に氷結の女王様よぉ……――」


 学内順位はもちろんのこと、異名にしてもそう。

 既に学内中だけに留まらず広く轟かせているモニカの異名である剣姫。それとは別に、言い寄って来る男共を、まるで一掃するかの如く振り払っているエレナ。その美しい笑顔とは対照的に見え隠れする冷たさ。男子学生達の間では既に知れ渡っているその表向きに語れない素性と合わせて【氷結の女王】と呼ばれていた。


「――ぶはぁっ」


 ドゴッと鈍い音が響くなり突然前のめりに倒れるレイン。


「ほんと失礼よねレインって」

「ですわね」

「うぐぐっ」


 背後から蹴られ叩かれていることでそのまま勢いよく地面に口付けをしてしまっている。


「なにしやがんだよ!」

「今のはレインが悪いよ」

「け、けどよぉ」

「確かにモニカとエレナは強いし頼りになるよ。でも二人とも女の子なんだから。もっと言い方は考えないと」

「あ、ありがとヨハン」

「照れますわ」


 明らかに態度の違いを見せている二人を見て内心不満に思うレイン。


(俺の時と全然ちげぇじゃねぇかよ)


 しかし口には出せない。


「へいへい。わかりましたよ竜殺し様」


 立ち上がりながら土を払うレイン。


「それなんだよねぇ。いつの間にか僕がそんな風に呼ばれているなんて」


 魔導闘技場の騒動の後にそれを聞かされたのはキリュウから。最初は誰のことを言っているのか全く理解できなかった。


『ぼ、僕ですか? その竜殺しって?』

『ああ。他に誰がいる? それとも聞いたことなかったか?』

『えっと、まぁ、はい』

『なに。それほど気にすることではない。注目されるのは勿論、認められているというだけの話だ』

『はぁ……?』

『そもそも相当な実力がなければそういった異名は与えられないからな。時にはそれだけで道が開けることもある』


【暴君】と【戦乙女】を持つキリュウ・ダゼルドの実体験。名が知られることの有益さ。


『そういうこともある、というだけだ。気にするな。ではまたな、竜殺し。エレナ様、では失礼します』


 手短に話しを終えたキリュウはすぐに後処理に向かっている。


「あーあ。俺もなんか欲しいぜ」

「あ。レインだったら双剣、とか?」

「おっ? いいねそれ!」


 ヨハンの言葉を受けて子どものように目を輝かせるレイン。その後ろでモニカが大きく溜め息を吐いた。


「あんたにそんなの似合うはずないわよ」

「んだとっ!?」

「全くですわ。レインだったら…………そうですわね、ちんちくりんとかでどうかしら?」

「あはは。いいねそれ!」

「いいわけねぇだろ!」

「冗談だってレイン。二人とも本気じゃないんだから」

「いいやヨハン。こいつらは違うね。本気で言ってるぜ」


 小さく左右に首を振るレインは二人の意図を正確に読み取る。


「わかったわよ。じゃあベビーバードとかだったらどう? 成長すれば大きく羽ばたけることができる雛鳥のように」

「おっ? いいねそれ……あっ、いや……――」


 不意にモニカから提案されたその内容に思わず声を漏らすのだが、僅かに思案する。


「――……おい。成長すればってどういうこった?」


 正確な意図はわからないが、そもそも現時点でそこに達していないのだと。そもそもとして成長する余地があるのかないのか。


「あっ、やっぱりバレた?」

「もう。モニカ。もう少し煽ててからにしないとレインは引っ掛かりませんわ」

「しっぱいしっぱい」

「てめぇらほんといい加減にしろよ!?」


 憤慨するレイン。いつの間にか隊列は乱れに乱れている。


「しょうがないなぁみんな」

「でも楽しそうね」


 スッとヨハンの隣を歩くカレン。


「やっぱりこういう関係って羨ましいわ。わたしからすれば」


 こういった歳の近しい間柄で気軽なやり取りはしてこなかった。これなかった。似たような立場なのにそれができる王女のエレナが素直に羨ましい。


「そうですね。でもカレンさんも気を遣わないでくださいね。僕たちがその代わりといってはなんですが、そうなりますから」

「わかってるわよ。今さらあの子達に気を遣うことはないわ」


 暇さえあれば事あるごとに屋敷に顔を出しているモニカとエレナにニーナ。いくらか邪魔をされるものの、その心地良さは帝国にいた時の比ではない。


「なら良かったです」

「ええ。ありがとうヨハン」


 感謝の意を示され、笑顔を向けられている。


「いえ、どういたしまして」


 同じようにしてヨハンもまた笑顔を返した。



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