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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
学年末試験 二学年編
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第四百六十七話 パラライトの森

 

 翌日、早朝には支度を整えて借り入れた馬車に乗ってパラライトの森を目指して出発していた。王都を出て馬車で東に半日程走った場所にパラライトの森はある。

 手綱を握っているのはヨハン。レインが隣に座っており、暇そうにしながら盛大に欠伸をしていた。


「にしても良い天気だよなぁ。ナナシー達も誘えば良かったのによぉ」

「そんな大所帯で行かなくてもいいでしょ」

「それもそうだけどよぉ」


 若干不満気な様子を見せているレイン。


「そういえばレイン?」


 荷台から御者台へとモニカが顔を出して来る。


「ん?」

「あんたもちろんナナシーに何か贈ったのよね?」

「なんでだ?」


 レインの返答を受けたモニカは大きく溜め息を吐いた。


「わからなかったらいいわよ。別にそこまで協力してあげる義理もないしね」


 スッと荷台に姿を消していく。


「なんだぁ?」

「ナナシーに何かあげる予定あるの?」

「いんや」


 先程のモニカの言動の意図がわからない。


「そういえばヨハンさん」


 次に顔を出して来たのはエレナ。


「この間の紅茶、大変美味しく頂きましたわ」

「よかった。ニーナも気に入ってたみたいだから、きっとエレナ達も喜んでくれると思って」


 屋敷に置いてあるドミトール産の紅茶。

 カレンがいることとニーナが気に入ったこともあって定期的に送られてきていた。それをエレナ達が来客時に出してもらっている。


「やっぱりそういう気が利くところ、素敵ですわ」

「そ、そう?」


 照れるヨハンを見て満足そうするエレナは、そのままチラリとレインを見た。


「なんだよ?」

「そういうところですわよ、レイン」


 さも意味ありげに声を掛ける。


「ではこれが終わったらわたくしもまたお邪魔させてもらいますわ」

「そんなことしなくてもあげるよ?」

「いえいえ、ナナシーに淹れてもらうことに意味がありますのよ」


 そう言い残すとエレナは荷台に戻っていった。


「…………」

「どうしたのレイン?」


 隣に座っているレインが顎に手を当て、思案気な様子を見せている。


「な、なぁ?」

「なに?」

「さっきの話、ヨハンはどう思う?」

「さっきの話って?」


 とは言うものの、ここまでの話の内容は取り留めのないことばかり。


「いや、さっきのナナシーって」

「あー、エレナとモニカはナナシーのこと面白がっているからね」


 もうだいぶ落ち着いたとはいえ、ヨハンの屋敷で従事している姿を見に来ては面白がっていた。


(半分は僕も笑われていた気がするけど)


 執事を務めているイルマニにしてもそう。慣れないことばかり。屋敷の主人として使用人に対しては命令を出して欲しいと何度も言われている。でないと仕事にならない、と。


(王様も大変だなぁ)


 貴族はもちろん、国王ともなれば動かさなければいけない人だらけ。

 しかしヨハンが考えるのは、人に何かを命令して動いてもらうよりも自分で動いた方がやり易い。


『そんなことばかり言っておられては困りますな』

『でも……』

『でもではありません。これも今後のヨハン様には必要なことでございます』

『そうかなぁ?』

『はい。カトレア様よりも仰せつかっておりますので』

『カトレア侯爵様が?』

『ええ。ヨハン様が追々貴族社会でも十分な立ち回りを見せられるよう、きちんと教えておけと』

『…………はぁ』


 納得がいくような、いかないような、どうしてそのようなことをしなければいけないのか。


『イルマニの言うこともその通りよヨハン』

『カレンさん』

『あなたほどの力を持つ人だったら貴族との交流はもちろん、しっかりとした交渉術とかも身に付けておかないと』


 貴族であれば自然と覚えさせられる。社交性がなければ家を守れない。


『で、でなければ、わ、わたしが困るのよ』


 途端に顔を赤らめるカレン。


『カレン様の言う通りでございます。そしてそれは同時に私達従者をも守ることに繋がるのだと心に留めておいてくださいませ。それに、それ以上に、将来それが家族を守るということでもありますので』

『そ、そうよヨハン』


 もじもじとしているカレンを横目に見るイルマニは小さく息を吐く。


『うーん。まぁ、はい、わかりました。また色々と教えてください』

『ええ。お任せくださいませ』


 そうして一礼するなり部屋を出ていくイルマニ。


(貴族かぁ……)


 カサンド帝国でもそうであったように、大きく貢献を果たせばその地位を得られるのだと。


(そういえば父さんたちはどうしたんだろう?)


 大陸に名を馳せる程の冒険者であった両親にもそういった話は少なからずあったはず。それだというのにそういったことへの一切の関係性は見られず、小さな村で静かに暮らしながらただただ猟師をしていた。


「レイン?」


 考え事をしていたところでふと気になったのはレインの横顔。真剣な顔つきをしている。


「どうかしたの?」

「…………」

「レイン?」

「んあ?」


 二度目の声掛けでようやく反応を示すレイン。


「何か問題でも起きたの?」


 まるで深刻な何かが起きたのであろうかという程に声が届いていなかった。


「あっ、いや、その、そうだなぁ……――」


 問い掛けに対してレインは微妙に口籠る。ヨハンはその様子を見ながら首を傾げた。


「――……よ、ヨハンはよぉ」

「うん」

「な、ナナシーだったら、何をもらったら、そ、その、よ、喜ぶと、思う?」

「え?」


 途端に顔を赤らめるレイン。


「ナナシーが喜ぶ物?」

「ああ」

「んー? そうだなぁ」


 休みの度に色んな人と王都内を見て回っているナナシー。時にはカレンやメイドのネネを引っ張っていくほど。屋敷の仕事の大半はすぐに終わらせているのだが、それでも外に行きたい衝動が抑えられずに時々サイバルに雑務を押し付けていた。


「そりゃあナナシーだったらなんでも喜ぶと思うけど?」


 そんなナナシーであるからどんな物でも受け入れるはず。


「いや、そりゃそうなんだろうけど」


 そうして買って帰る物は屋敷に積み重なっている。


「でもその中でも人間が作った物は特に珍しがるよね。精巧であればあるほど」


 最初の内は多少の買い物程度であれば大目に見ていたイルマニとネネ。しかしあまりにも際限がないためイルマニから拳骨を受ける始末。


「ふふっ」


 ふと思い返すことで漏れ出る笑い。その場面を思い返すだけで面白くて仕方なかった。


「……やっぱそうだよな」


 ヨハンの思い出し笑いを気に掛けることなくレインは納得するような仕草を見せている。


「あっ、あそこだよね?」

「ん?」


 顔を上げて前方を見るレイン。


「着いたか」


 馬車の前方に広がっていたのは、平地の中に広がる大きな森。

 パラライトの森へと着いた。



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