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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
学年末試験 二学年編
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第四百六十六話 調達依頼

 

 ドルドの鍛冶場に流れる空気。誰も言葉を発せない。


「あ、あの、ドルドさん!」

「な、なんだ!?」


 意を決してヨハンが口火を切る。


「今日はドルドさんに渡したい物があって来たんです!」

「……お、おお、そうか! それでその渡したい物とは?」


 本日ここを訪れている理由。


「カレンさん」

「え? あっ、うん」


 いそいそとカレンが鞄から取り出したのは一枚の大きな鱗。まだ不満気なミライを余所にドルドに手渡した。


「ふぅ。じゃあウチはお茶を入れて来るっすよぉ」

「ん? おぉ。すまんな」


 しこりを残しつつもその場を後にするミライ。そうしてドルドは手渡された鱗に視線を落とす。


「……むぅ? これはなんという魔物の鱗だ? まるで見たことがないが…………」


 ジッと見定めるようにして鑑定するのだが、まるで見覚えがなかった。


「前に言っていたじゃないですか。稀少な素材が手に入れば持って来て欲しいって」

「なるほど。確かにこれは珍しいな」

「それで、これを素材に使えませんか?」

「そうだな。詳しいことは調べてみんとわからんが、十分に可能性はある。魔物の名前はなんというのだ?」

「シーサーペントというみたいです」

「シーサーペント?」


 全く聞き覚えのない魔物の名前。そうして鱗を手に入れた経緯を掻い摘みながら話して聞かせる。


「――……ほぅほぅ」


 話を聞いている途中からドルドは目を輝かせていた。


「まさかそんな古代の技術があったというのか?」

「今は壊れてしまいましたけどね」

「惜しぃ。惜しいのぉ」


 魔素を集めることによって稀少な魔物を生み出せるとあれば、素材の回収はより効率的になる。とはいうものの、崩壊したこととこれからまた詳しく調査が入るのでその技術の導入は再度先送りになっていた。


「そうだな。それだけのものであれば粉状にして繊維に煉り込ませる方法が良さそうだな」


 硬質な素材は武器にしてもいいのだが、現状ヨハン達は必要としていない。


「試しにお主のローブを新調するということでどうだ?」

「わたしの? いいの?」


 しかしシーサーペントを倒したのはエレナ達。


「私は別にいいわよ?」

「そうですわね。せっかく王都に来られていますし、それに教師になられた就任祝いを渡していませんでしたのでそれが理由だということでいかがですか?」


 エレナの提案を受けたカレンは僅かに思案する。


「……わかったわ。ありがとう。じゃあ遠慮なくもらうわね」


 ここは気を遣わせてしまうよりも素直に受け入れるべきという判断。


「決まったようだな」

「でもドルドさん、ローブなんて作れるの?」


 鍛冶の腕が超一流だというのは周知の事実。しかし武器や鎧などの武具ではなくローブとなると話が変わる。


「いや、そこはミライに頼むわい」

「ふぇ?」


 丁度そこへお茶を持って来たミライなのだが、話の趣旨が理解できない。


「お師さん? なんの話すか?」

「ミライは鍛冶に関しては見習いだが、裁縫技術に関してはそこらの仕立屋など相手にならないほど抜きん出ておる」

「へぇ」


 当の本人を置いてけぼりにしてドルドは話を続ける。


「どうしてここにおるのかもわからんほどじゃ。もちろん鱗を粉状にするのは儂がするが、あとはミライに一任する」

「わかりました。ドルドさんがそこまで言われるのであれば、是非お願いしたいですね。ミライさん、私のローブを編むのをお願いできますか?」

「えっ!?」


 そこでようやく話の概要を理解したミライ。


「うちがっすか?」

「これも修行じゃ」

「……あー、あー……うーん、まぁ……はい。わかりました」

「ありがとうございます」


 仕方なしとばかりにミライは頭を掻きながらカレンを見た。


「けど……」

「けど?」

「うちも、仕立てをするからには手を抜くようなことはできないっす」

「え? ええ」

「ですので、足りない素材をお願いできますか?」


 指を一本立てるミライ。鍛冶場にはローブを仕立てる素材が揃っているわけではない。


「素材? ええ。わかりました、どこで何を買って来ればいいの?」

「どこで……何を買う……っすか?」

「え?」


 ニヤリと笑みを浮かべるミライ。嫌な予感がカレンの脳裏を過る。

 その理由は次にミライが発した言葉ですぐに理解したのだった。


「いえいえ。買ってくるとかではなくてですね、パラライトの森にいるフォレストモスの蚕繭を採ってきてくださいな。まぁあなた達なら問題ないと思いますので」

「ほぅ。フォレストモスか。なるほどな」


 ドルドが大いに納得する。


「じゃあよろしくっす」


 そうしてミライによって素材調達の依頼を受けることになった。



「――……うぅ、まさか素材調達がよりにもよってフォレストモスの繭だっただなんて」


 ドルドの鍛冶屋からの帰路、カレンは項垂れながら歩いている。


「そのフォレストモスっていう魔物はどういう魔物なんですか?」

「ヨハンは知らないのね」

「うん」

「ヨハンさん、フォレストモスっていうのは蛾の魔物ですの」

「蛾の魔物?」


 げんなりしているカレンに代わってエレナが口を開いた。

 フォレストモスとは森に棲息している蛾の魔物。しかし蛾の魔物と言われてもヨハンはまだピンときていない。どうしてこれほどまでに嫌がっているのかということが。隣を歩くモニカにしても同じ。


「もちろん蛾はご存知ですわよね?」

「うん。虫のことだよね?」

「ええ。そしてフォレストモスのその姿はまさに虫の蛾と同じなのですが、問題はその大きさですわ」

「そうなのよ。わたし大きい虫は苦手なのよね」

「そんなに大きいの?」


 モニカが疑問符を浮かべながら問い掛ける。


「体長で言えば羽を広げた状態で少なくとも全長三メートル以上になりますわ」

「うぇ、それは気持ち悪いわね。ただでさえ蛾って見た目が気持ちいいものでもないのに、それが三メートルにもなるって中々キツイわね」

「そうなのよ。もう想像するだけで億劫になるわ」

「……ふぅん」


 カレン達が想像を巡らせ嫌悪感を抱いている中、ヨハンは考えていた。


(でも結局見た目は蛾なんだよね?)


 まるで共感できないでいる。

 要は蛾だろうがなんだろうが、結局は虫ではないかと。どうしてそれほどまでに嫌がるのか理解できなかった。そもそも、問題はそんなことではない。


「あのさ、そのフォレストモスは強いの? それと、そのパラライトの森は遠いのかな?」


 討伐難易度や生息場所の方が問題ではないのかと。


「いえ、強さはそれほど……。一応討伐ランクはDですわ。まぁ一般的には苦戦するのを前提とするのですが、わたくしたちならば比較的問題はありませんかと」

「そっか」

「それとそのパラライトの森ですが、馬車で半日ほどのところですわ。朝早くに出て順調にいけば日帰りで戻って来られるかと」

「そっか、じゃあ早速明日にでもみんなで行こっか」

「はぁ。仕方ありませんわね。ではカレンさんの為に仕方なく行きましょうか」

「そうね、カレンさんの為に蛾を退治しに行かないとね」


 ニヤニヤと話すエレナとモニカ。


「何よ、恩着せがましい言い方するわね。それなら別にヨハンと二人で行って来ても構わないわよ?」

「それは絶対にダメ!」

「それは絶対にダメですわ!」


 語気を強くして否が応でも同行するという意を示した。そしてすぐさま睨み合う。


(えっと……仲良く……なったんだよね?)


 ヨハンはまるで蚊帳の外に追いやられてしまっていた。

 そうして寮に戻るなりレインとニーナに今日の話を説明する。


「フォレストモスか……ちょっときもいな」


 レインが僅かに嫌悪感を抱く中、指を咥えて天井を見上げているニーナ。


「虫かぁ。虫はちょっと食べられないかなー。ゲテモノは専門外だしなぁ。あたしパス」


 と違う視点で思考を巡らせていた。



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