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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
学年末試験 二学年編
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第四百六十一話 閑話 賢者パバール(前編)

 

 シグラム王国から遠く離れた地、静寂な森の奥深くにひっそりとある洞窟。

 その洞窟の中を慎重に歩く六つの足音。


「なぁ姐さん、本当にこっちで合ってるんだよな?」

「フンッ。ワシを疑うなど百年早いわ。小僧は黙って前を歩けば良い」

「ったくぅ。だったら先頭を歩いて欲しいけどな」

「なにか言ったか?」

「いえ、べつに」


 先頭を歩くのはアトム。年齢は四十歳を過ぎて尚も強靭な肉体を維持しているヨハンの父である。その後ろを金髪の妖艶な女性シルビアが歩き、更に後ろを上半身裸の筋骨隆々の男性ガルドフ、エリザ、最後尾にラウルとエルフのクーナが続いていた。


「それにしても深いのぉ。パバール殿はこんな迷宮に住んでおるのか?」

「もうわたし疲れたよぉ。アトムおんぶして」

「アホなこと言うなよ」

「だっていつになったら着くのさ」

「もうじきのはずなのだが…………。いや、確かにおかしい。そろそろ着いてもいいはずなのだが、明らかに異常よな」


 ガルドフの問いに対して周囲の景色に目を送るシルビアは思案に耽る。


「……これは迷宮に誘い込まされたの」

「えぇ!? じゃあどうするの?」


 そうしてクーナも周囲の魔力に対して注意深く観察を始め、ようやく感じ取った。いつの間にか迷宮に入ってしまっていることを認識する。


「あちゃあ。これ、かなりめんどくさそうよ?」

「いつの間にそんな手の込んだ罠を? そんな気配は全くなかったぞ?」

「つまりそれだけの者がこの奥にいるというわけじゃな」

「さすがは大賢者というところかしら?」


 迷宮に迷い込んだからといっても戸惑う様子は見せない。熟練の経験が焦る必要のない状況だと判断している。だがかといってこのままでいるわけにもいかない。


「どうする? 迷宮を抜ける方法はあるのか?」


 アトム達は顔を見合わせ、同時に周囲の気配を感じ取りながら迷宮の抜け方を確認する。

 自然に出来たただの迷路などではない。人工的に作られた迷宮は魔力を用いられていることからしても出口が簡単に見つかるはずもなく、闇雲に歩いても意味はない。


「めんどくせぇな。姐さんどうするんすか?」

「フム……。あやつの好きそうなことだな」


 シルビアが抱く確信。これが大賢者パバールの行いによるというもの。

 仮にそうだとするならば、迷宮を抜けるためには根本的な原因を探らなければいけなく、その上で迷宮を生み出している魔力の根源である元を絶たなければいけない。

 しかしそれはあくまでも基本的な対処法。


「儂に任せぃ」


 四股を踏むガルドフ。途端に全身の筋肉が肥大する。


「こういうのはな――――」


 足の先端に光を灯すと同時に大きく足を振り上げると、重量感一杯のその右足を力強く踏み抜いた。

 辺り一帯に眩い閃光が迸る。


「っと」


 直後、グラグラと洞窟内に激しい揺れが生じた。


「ったく、相変わらずの力技だな。崩落したらどうするんだ?」

「気にするな。結果良ければ全て良しじゃ」


 揺れと光が収まるのと同時に、目の前には空間が開けていた。

 通常では考えられない方法。洞窟内で巨大な力を用いるなどということは周囲が崩壊して崩落を招く。しかしここは魔力によって造られた空間。であれば強引にでも突破は可能だという判断。


「相変わらず悪趣味なやつじゃ」


 そして、目の前の空間にはシルビアの知る木造の建物が現れる。

 家に見えるその建物は外観を隠すほどの蔦が巻き付いているのだが、不思議と建物自体は時間経過をそれほど感じさせないようにも見えた。


「では行きましょうか」


 建物に向かって歩いて行く背を見ながらラウルは感慨深くなる。


「はは。そういう非常識なところは昔から変わらないな」

「ほんとだよねぇ」


 クーナも追いかけるようにして歩く中、俯き加減になるラウルは自然と笑みがこぼれた。

 退屈のしない毎日。十年以上の時を経て再会を果たしたのだが、変わらない間柄。懐かしくて仕方がない。


「なにやってんだよラウル。はやく来いよ」

「ああ。わかってるさ」


 そうして歩を進める中、考える。

 今となってはそれぞれの立場があった。帝位継承権は放棄したものの、剣聖となった自分だけでなくそれぞれ歳を重ねている。ローファスも国王になっている。


「……今回限り、か」


 終わったはずの日常が再び始まったわけではない。今だけのもの。

 それでも今回の一件がこれまでで一番の事態なのだということは確か。ゆっくりと表情を難しくさせた。


「なーにを険しい顔してんだ。こえぇのか?」

「ラウルは昔から怖がりだったもんね」

「おいおい、そんなわけないだろう。俺がいつから怖がりになったというのだ」


 昔と変わらずアトムとクーナから小馬鹿にされる。


「だってお前いつもびびってたじゃねぇかよ」

「それはお前達が無茶なことばかりするからだろう。せめて慎重だと言えよ」

「物は言いようよねぇ」

「そんなわけないだろう」


 呆れて物も言えないのはいつものこと。これまで何度も行き当たりばったりな行動ばかり。事あるごとに問題を起こしていた。


「そんなこと言うけどお前ほら、あん時だって」


 アトムが肩越しにラウルを見ながら歩を進める。


「ちょっと待ってアトム!」

「え?」


 突然のエリザの声に反応を示すのだが、もう遅かった。


「ぶっ!?」


 もう一歩踏み出したところでアトムの顔の辺りがバチンと弾ける。


「ってぇな!」


 何もないはずのその場所は、まるで侵入者を拒むかのように踏み込めないでいた。


「結界ね」


 エリザがそっと手の平を当てて魔力を流し込むと、薄い膜が張っているように見える。


「フン。迷宮に結界にと、相変わらず手の込んだことをしよる」


 シルビアは手に持っていた髑髏を象った杖を構えて小さく詠唱を始めると、直後には杖から迸った光が結界に向かい、結界を成していた膜はスーッと消えていった。


「ヒュウ」

「さて、いくぞ」


 アトムが感心するように口笛を吹きシルビアが歩を進めようとするのだが、すぐさまピタと足を止める。


「どうした姐さん?」

「…………チッ」


 小さく舌打ちしながら正面、建物の入り口を睨みつけるようにして見た。


「ふむ。修行の途中で逃げ出した不肖の弟子がわけのわからん連中を連れて久々に帰って来たのか」


 建物の中から姿を見せたのは見た目初老の、白の色合いが強い銀髪の女性。


「お尋ねする。あなたが大賢者パバール殿で間違いはないじゃろうか?」


 目を合わせようとしないシルビアに代わり、ガルドフが前に出て問い掛ける。



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