第四百五十四話 被害甚大
そうしてシーサーペントから放たれた五つ目の攻撃によって甚大な被害を受けてしまった。
「キシュウウウウ……」
シーサーペントは必死に立ち上がろうとしているエレナ達に視線を向けることなく、見渡した先で視線を奪われたのはこのような事態に陥ったにも関わらず未だに戦い続けている二つの存在に向けて。
「キシャアアッ!」
ガパッと口を開き、ゆっくりと魔力の集束を始めると同時に口腔内にて凝縮し始める。
放とうとしているのは二つの存在の内の一つ、ヨハンへ。
今にも放たれようとする刹那の瞬間、下顎にドンっと強烈な衝撃を受けた。直後、ドバンと口腔内で凝縮していた魔力の塊が大きく爆ぜる。
「……はぁ、はぁ、させ、ませんわ!」
立ち上がり、肩で息をしているエレナ。
「そ、そうよ。まだ私達は負けたわけじゃないわよッ!」
「ほ、ほんと人間の世界は面白いなぁ」
エレナの横に並び立つ様にしてモニカとナナシーもギンッとシーサーペントへ鋭い眼差しを向ける。
「キシュウウ……――」
シーサーペントが不快感を見せながら見下ろすのは、倒れ伏した最早どうでも良い存在だと決めつけていたその小さな虫だったのだが、全く以てそうではなかったのだと。
そのまま殲滅せしめようと、ヨハンとゴンザから視線を外すなり再び魔力を練り上げた。背びれが先程同様に再び大きく光り始める。
「次も耐えられそう?」
苦笑いしながら問い掛けるナナシー。
「ちょっと厳しいかも」
難しい表情で片目を瞑りながら答えるモニカ。
「ですが、ヨハンさんの邪魔は絶対にさせませんわっ!」
「「当たり前じゃない!」」
振り絞るように大きく声を放った。
◆
倒壊した外壁の近くの浮島ではガラッと瓦礫が音を鳴らす。
「だ、大丈夫かよ」
「え、ええ」
ゴトッと大きく瓦礫が動くと二人の男女が折り重なるようにして姿を見せた。上に乗っていたのはレインで、その下には覆い被されるようになり仰向けのマリンがいる。
「あ、ありがと」
「いいってことよ」
「…………レイン」
「くっ、それにしてもあいつ、あんなのまで使えるのかよ」
レインが立ち上がりながら視線の先に捉えるのはシーサーペント。なんとかマリンを守ることに専念していたおかげで助けることはできていた。
「次に撃たれたらどうにもできねぇ」
想像するだけでゾッとする。戦局的には勝っていたはずなのだが一気にひっくり返された。
全方位に向けた魔力解放。圧倒的なまでのその攻撃は一番近くで戦っていたエレナ達に向けられていたのだが、その規模は闘技場全体を大きく巻き込む程。
「どうやら他もなんとか無事なようね」
「けど倒さねぇとまた撃たれちまう」
「……ええ」
マリンはシーサーペントをジッと見つめる。気になるのはどうしてこれほどまで戦局が進むまで放たれなかったのかその理由。
(撃たなかったのか、撃てないのか)
どちらかというと後者だろうと捉えるのは、どういう理由で出現したのかが不明にせよ、いくら魔物であっても魔力量に限界はあるのだろうという推論。無尽蔵な魔力など聞いたことがない。
(けど、どうやって)
魔力が底を尽くまで耐えきれるような体力などない。であればその前に倒しきるしかない。しかしそれが現状難しいのだろうという結論に至ってしまうのは、視線を走らせるのはこの場に残っている学生達。観客席まで吹き飛ばされているのはシリカとオルランド。元々最前線で戦える力を持ち合わせていないだろうとは思っていたのだが、遠目に見えるその状態、満身創痍なその様子から見てもう戦えそうにないだろうと。幸いにもキラーフィッシュがシーサーペントの攻撃によって多く巻き込まれているおかげで数が減っているので助かっていた。
「カニエスも無理ね。生きてるようだけど」
その周囲の浮島の一つでピクリと指を動かすのはカニエス。
「な、なんという凄まじい威力」
正直なところ死んでいてもおかしくないとすら感じている。
距離があったことで必死に魔法障壁を展開しておりなんとか無事で済んでいた。魔法に長けていないとこれだけの攻撃を防ぎきれない。とはいえ魔力がもうほとんど残されていないので次にあの攻撃を受けてしまえば下手をすると死んでしまうという恐怖に襲い掛かられる。
そんな中、唯一無事で済んでいる浮島にいるのはサナ達。
「くっ……はぁ、はぁ、だ、大丈夫? ユーリ?」
サナはシーサーペントが魔力解放を行うその瞬間、驚異的な気配を得たことで慌てて浮島を取り囲むように水の壁を立ち上げて防いでいた。
「あ、ああ。サナのおかげでなんとかな」
「助かった」
「でも、他のみんなは守れなかった」
「……仕方ないさ」
これだけ力を付けたというのにそれでもまるで間に合わなかった。至近距離で受けたにも関わらずすぐさま立ち上がっているエレナ達は流石だと言わざるを得ないのだが、それでもダメージは大きく蓄積されている。
「どうしたら……」
「そうだな。いくらなんでもあれは私でも手に余る」
「「「えっ!?」」」
不意に背後から聞こえる声。サナには覚えのない聞いたことがない声。思わずビクッと身体を回して声の主を確認するのだが、隣に立つテレーゼは別の理由で驚愕に目を見開いていた。




