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第四十四話 辿り着いた先に

 

 ナナシーの案内でフルエ村を出てエルフの里に向かうこととなった。


「さて、じゃあご案内しますね」


 ナナシーは屋敷で家事を行っていたエプロン姿ではなく、茶色を基調とした装具を身に纏い、腰にはナイフを差している。

 ただし、人間とは明らかに違うその長い耳を隠すように円形の帽子を深々と被っていた。


 馬車でエルフの里を目指す。


「それにしてもどうしてスフィアさんは目を覚まさないのかしら?治療は上手くいって命はしっかりと繋ぎとめているのに……」


 荷台でスフィアに目を向けながらモニカは悩み考える。

 まだ目を覚まさないスフィアを見ながら自分の力不足を痛感していた。


「そのことだけど、もしかしたらエルフの里に行けばなんとかなるかもしれないですね」

「えっ!?」

「――それはどういうことですか!?」


 ナナシーの発言にモニカが反応した。

 しかし、それよりも早くエレナがナナシーの発言の真意を確認しようとする。

 これまで表情には出さないようにしていたが、誰よりもスフィアの身を案じていたのはエレナだった。


「まだ断定できないけれど、ヨハン達の目的の世界樹は生命の源で、マナの力がとても強いの。その恩恵でエルフの里は魔物が出ることもないわ。それにその世界樹の葉を磨り潰した薬は生命に活力と魔力を漲らせるの。そのスフィアが生命活動を維持していているにも関わらず目を覚まさないのはもしかしたら魔力の流れに何か問題があるのかもしれないわ。あくまで可能性でしかないから…………」


 そこまで言ってナナシーは過度の期待はしないようにとエレナとモニカに釘を刺す。


「いえ、問題ありませんわ。少しでも可能性があるのなら」


 あくまでも可能性でしかないのだが、ナナシーに希望を見出されたエレナは一縷の望みを得たことにほんの少しの安堵の色を表した。



 それから馬車を走らせて数時間、一同は徐々に壮大な森を正面に捉える。

 不思議な事にその森はこれまで目にしてきた森とは違い、どこか不思議な感覚に襲われる神秘めいたものを感じさせた。


「ここがエルフの里か」

「まだここは入り口ではないわ。入口はこの森の奥にあるの」


 広大な森の中をナナシーに案内されながら一同は森の奥深くに入っていく。

 鬱蒼とした森の中にも関わらず、どこか落ち着いた気配をその森は醸し出していた。

 細い道を馬車はゆっくりと進み、馬車が通れなくなるとスフィアを背負っていくことにして進んでいく。


「――ここよ」


 ナナシーに案内された場所はここまで歩いてきた森の中と比べても特別変わった様子は見られない。


 何が違うのだろうかと顔を見合わせていると、ナナシーは首飾りに手をやり、ブツブツと呪文を唱え始めた。



 ――――次の瞬間。



 首飾りから白い光が放たれ、辺り一面を照らし出す。


 眩いその光で目を開けていられない。思わず目を瞑ってしまう。

 数秒後、光が収まり、ようやく目を開けられるようになるとそこには先程まで目にしていた森の木々は存在していなかった。

 足元には土の道が整備されており、道沿いには木造の家が複数建ち並んでいる。

 後ろを振り向くとこれまで歩いてきた森が見てきた景色と同じように広がっていた。


「うわぁー」


 思わず声が漏れる。

 ヨハンもレインもモニカもエレナもそれぞれが一瞬で目の前に広がった景色に思わず感嘆した。



 ドクンと誰かの胸の心臓が脈打つ。

 胸に手を当て「うん?」と妙な違和感を覚えた。


「――まぁいっか」


 一瞬感じた違和感は気のせいかと思い進む。



「ようこそいらっしゃいました。ここがエルフの里です」


 ナナシーが裾を摘まんで一同に向き直り小さくお辞儀する。

 その仕草も可愛らしく見えた。


「ここがエルフの里なんだね!凄いよ!!」

「それで、その世界樹はどこにありますの?早く依頼を行いたいですし、何よりスフィアの回復もできるのなら…………」


 ヨハンは見たことのない景色に興奮するが、エレナは表面上依頼の優先を装っていてもスフィアの回復を早急に行いたい様子がはっきりとわかる。


「ええ、ですがまず里の長に挨拶に伺わないといけないですね」

「そういえばそうでしたわね」


 エレナは逸る気持ちを軽く息を吐いた。今すべき事の確認をする。


「――何者だ!?」


 ナナシーが里長に挨拶に行くといった矢先、ヨハン達に向かい警戒心を露わにした男が近付いて来た。

 男もまたナナシーと同様に薄緑色の髪と長い耳をしており、皮の装具を身に纏って腰には剣を差し、背には弓を背負っていた。


「あっ、サイバルじゃない!」

「むっ?お前、ナナシーか?どうしてここにいる?」


 エルフの男をサイバルと呼び、サイバルと呼ばれた男もナナシーの事を知っている様子を見せる。


「久しぶりー。元気してた?サイバルがここに来たってことはもしかして自警団に入ったの?」

「はぁ。久しぶりに顔を見せたと思えばお前は。ああそうだ、お前が里を出てから入った。それでお前の後ろにいる人間は誰だ!?」


 サイバルは訝し気にヨハン達を見る。


「あー、この人たちは悪い人達ではないわ。王家からの依頼で来たの」

「王家からの依頼だと?こんな子ども達がか?ってちょっと待て!お前が背中に背負っているのは…………もしかしてスフィアか?」

「えっ?サイバル、スフィアさんを知ってるの?」

「ああ、まぁな。以前里に来た時に一度、な」


 サイバルは思い出すようにスフィアを見た。


「間違いないようだな。それで、スフィアは何故そんな状態だ?」


 サイバルとナナシーが話しているところでヨハンとレインが静かに話をする。


「なぁ、なんか意外な展開だな」

「うん、僕もちょっとびっくりしている」


 レインの耳打ちにヨハンも目の前に現れたエルフの男がスフィアのことを知っていたことに驚いた。


 ナナシーはサイバルにエルフの里に戻って来た理由とヨハン達キズナの依頼内容、スフィアの状態に関して話す。

 旧友に会ったためか、サイバルと接するその口調はこれまでヨハン達にしてきたそれとは異なり砕けていた。


 顎に手を当てナナシーの話を全て聞き終えたサイバルはゆっくり口を開く。


「むぅ、そうか、わかった。どちらにせよ里長のところには話をしに行かなければならない。――――こっちだ、付いて来い」


 サイバルは里長のところに案内すると言い、歩き始める。


 歩いている途中、他のエルフがナナシーを見つけて話しかけることもあれば、滅多に見ないヨハン達人間を訝しげに見ながらひそひそと耳打ちをしている姿もあった。


「ねえねえ、ナナシーって人気あるのね?」

「どうやらそうみたいですわね」

「ああ、ナナシーは確かにエルフの里で人気があるな」


 ナナシーは多くのエルフに話し掛けられていた。

 モニカとエレナの話しが聞こえたサイバルが歩きながら話す。後ろではヨハンとレインがエルフの里に興味津々で初めて見る物に対してあれこれ話していた。



「それはどうして?」

「…………」


 思わずサイバルは口ごもった。


「何故ナナシーは人間の村で生活していると思う?」

「それは、人間の世界に興味があるからでしょ?」

「ああ、それはそうなのだが、普通のエルフはただ人間に興味があるからといっても里からは出られない。ナナシーは少しだけ特別だ。少しだけ、な」

「特別?」


 モニカとエレナにサイバルは人間の村で生活するナナシーを特別と言った。

 確かに人間の世界に興味を持つエルフは少数だという話だが、特殊ではなく特別と言ったのだ。

 だが、サイバルのその表情はナナシーに話し掛ける他のエルフとは違い、少し苦い顔をしている。


「ねぇ何が特別なのかしら?」

「ふふん、それはね、私がサイバルよりも強いからよ」


 エレナがサイバルに聞き返したところに、話しを聞いていたナナシーがえっへんとばかりに笑顔で話し掛けて来た。


「――ちっ」

「強い?強いと里の外に行けるの?」

「ああそうだ。確かにエルフは人間より多くの魔力を持っている。だが、いくら多くの魔力を持っているといっても一人では里の外では人間に太刀打ちできないこともあるのだ。だからいくら人間に興味があるとはいっても強くないと外には行けない。それも相当な、な」

「ああ、なるほど」


 ナナシーを横目にサイバルが舌打ちをして説明する。

 エレナもモニカもサイバルが説明する事情に納得した。いくらエルフが強いといっても単独での戦闘力には限界があるのだろう。

 そこに邪な考えを持つ人間が現れれば捕まってしまう危険を孕む。


 つまりナナシーは単独でも人間の、それも一定以上の実力者複数よりも強いということを示していた。


「サイバルも結局私には一度も勝てなかったしね」


 ニヤニヤしながらナナシーはサイバルの横に並び、顔を覗き込む。


「うるさい!今やれば俺の方が強いに決まっている!」

「おっ!?言うねぇー。じゃあ後でやろっか?」

「ちょっとちょっと、ナナシーがエルフの中でも強いのはわかったわ。それは実際に戦った私にもナナシーの強さはわかるし、それにサイバルさんよりも強いってことも。それと人気があるのはどういうことなの?エルフは争いを好まないのじゃなかったの?」


 どこか矛盾を感じたモニカが問い掛ける。


「ああそれは間違いではないのだが、ナナシーは里の外に出るのに実力を示した最年少だからだな。エルフは争いを好まないのは確かだが、それと同時に種族を護る為に強さを身に付けなければならない。それは『争いを好まない=弱い』というわけではない。里の外に出るためにも一人で生きていける強さを示さなけれならないしな」

「へぇ、そうなんだ。また私はてっきりエルフはみんなナナシーぐらいかそれ以上に強いものだと思っていたわ」

「ああでも私以上に強いエルフももちろんいるわよ?強いっていっても人間の世界に興味があるエルフの中でって限定した話だからね」


 納得出来るような出来ないような感覚になるのはエルフの強さの基準がわからないから。


「着いたぞ」


 ナナシーの話をしながらサイバルに案内されたのは、里のなかでも一際大きな木造建ての家だった。


「すまんが少しだけ待っててくれ。長に声をかけて来る」

「私もいくわよ」

「当たり前だろ。誰が連れて来たんだ誰が」


 笑顔のナナシーと対照的にサイバルは溜め息を吐きながら家の中に入って行く。



 サイバルとナナシーが家に入って少し後、両脇にサイバルとナナシーを伴って中から一人のエルフの女性が姿を現した。


 エルフの女性は綺麗な顔立ちで見るからに若々しい。だがその見た目の若さとは裏腹に威厳を漂わせていた。


「すっごい綺麗な人だな。里長の従者かな?それか娘さん?お手伝いさんかな?」

「確かに綺麗な人ですわね」

「レイン、ちょっかい出したらダメよ」

「だすわけねぇだろ!」


 モニカ達が抱く印象と同じように、ヨハンの目から見ても整った顔立ちで人間にすれば20代中頃といった風に見える。


「サイバル、その子達ですね」

「はい、里長」


「「「「!?」」」」


 思わず目を疑った。

 その女性はサイバルに里長と呼ばれたのだった。


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