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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
学年末試験 二学年編
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第四百四十八話 二分化する戦局

 

 冒険者学校二学年の学年末試験。その試験会場となった魔導闘技場。古代の技術の流用によって草原や岩場に森林や砂漠地帯など、これまでにない空間の創造に成功している。

 実験に成功すれば今後冒険者の育成がより充実するということだけでなく、王国としても兵や騎士の戦闘訓練としても大いに活用が見込めるのだが、それは当初の予定通りに運ぶことはなかった。


 突如として闘技場に混乱と混沌をもたらした怪物。中央付近で出現した水棲怪獣である古代生物シーサーペント。その怪物を取り囲んでいるいくつもの浮島、その三方向、大きく分けて三つに学生達の姿がある。


 正面にはヨハンとエレナ、その後方の浮島にはナナシーとレインにマリン。

 右側にはサナとテレーゼとユーリ。

 背後にはモニカとカニエス。

 遠くではサイバルとロイスがキラーフィッシュの数を少しでも減らそうと局地的な対応、奮闘しており、そこにシリカとオルランドが合流していた。


「――……これがゴンザ?」


 しかし問題なのは竜の様な頭部を持つ巨大蛇シーサーペントだけでなく、夥しい数のキラーフィッシュがいる中で敵対意思を示しているゴンザ。


「どうしたよおら? 早くかかって来いよ」


 いやらしい笑みを浮かべながらゴンザは大剣を片手に手招きする。


「ヨハンさん。わざわざ今アレに構う必要はありませんわ」

「……うん」


 エレナの言葉も確かにその通りなのだが、直感が告げていた。このままゴンザを放置してシーサーペントの対応をするわけにはいかない、と。


「エレナ。こっちを任せてもいい?」

「どうしても譲れそうにありませんか?」

「うん。それに僕もちょっと確かめたいことができたし」

「……わかりました」


 ゴンザが邪魔をするのであれば倒すしかない。本来であれば全員でシーサーペントの対応をするのが望ましいのだが、どうやらそうもいかない。あまり考えたくなかったのだが、この状況に陥ることに思い当たることが僅かにあった。


(あれだけの殺気。もしかすれば負の感情が増している?)


 サナから聞いた話を思い出しながら、まさかと思いつつも剣を鞘から抜き放ち真っ直ぐにゴンザをジッと見る。


「長かったぜ。ようやくてめぇと決着付けれるとはな」

「また今度、いつでも相手をするから今日はやめない?」

「あ? やめるわけねぇだろ。公然とテメェを殺れるんだからよぉ」


 その眼差しを見ていると、言い放たれた言葉が冗談などではないということははっきりとわかった。


「僕と勝負したいんだよね? きっちりと決着を付けるために」

「当たり前だ。どっちが上かここではっきりとさせねぇとな」

「わかった。だったら場所を変えよう。ゴンザも僕も邪魔が入ったら嫌だろ?」


 ヨハンの言葉を受けて、ゴンザは視線を巡らせる。周囲に見える学生達の姿や背後に(そび)えるシーサーペント。ここでこのまま戦えば邪魔が入るのは火を見るよりも明らか。


「チッ」


 ゴンザは舌打ちすると、大きく跳躍した。向かう先は左斜め前方の大きな浮島。続くようにヨハンも跳躍していく。シーサーペントはその動きを大きな目玉をギョロっと動かすのみで特別何かの動きを見せるでもない。


「……ヨハンさん」


 エレナもそのままその背中を見送っていた。


「ちょっと、どういうことよエレナっ!?」

「あらマリン、どういうこととは?」


 後方からマリンとレインとナナシーがエレナに合流する。


「決まってるでしょ! どうしてヨハンとあのゴンザが二人で戦う流れになっているのよ!」

「……ヨハンさんには成さねばならないことがありますの」

「成さねばならないこと?」

「ええ」


 エレナのどこか複雑気な表情とその言葉にマリンは疑問符を浮かべながら首を傾げた。


「なによその成さねばならないことって?」

「そんなことよりも、わたくし達は早くコレを倒しますわよ」


 見上げる先にはシーサーペント。はっきりとエレナ達をその眼に捉える様には、もう敵意をありありと剥き出しにしており、今にも襲い掛かって来そうに見える。


「ふぅ。仕方がないわね。カニエスっ!」


 シーサーペントの背後、溜め息混じりにモニカと共にいるカニエスに大きく声を掛けるマリン。


「はいっ! マリン様!」

「今から全員でコイツを倒しますわっ! あなたも手伝いなさい!」

「……えっ?」


 予想だにしていないマリンの言葉に目を丸くさせるカニエス。だが隣に立つモニカはニッと笑みを浮かべる。


「なるほどね。変な試験より、私にはこっちの方がしっくりくるわ」


 剣を握り直すモニカの様子を見てカニエスは再度きょとんとさせた。


「こ、これに私達が向かって行くと?」

「なによ? 怖いなら下がっていてもいいわよ?」

「こ、怖いとかではありません! ただ、先生たちが来るのを待っていてもいいのではと思っただけです!」

「そんな悠長なことしていて、被害が大きくなるのを見過ごすわけにはいかないわよ」


 吐き捨てるようにモニカがカニエスに言葉を残すと、すぐに地面を踏み抜く。チラと横目に見るのは右側のサナ達。


「あなた達はサポートをお願い!」

「えっ? あっ、おっ……――」

「わかった! モニカさんも気を付けて!」


 ユーリが返答に困惑している中、サナは両手を口に持っていき大きく声を掛ける。


「まーかせて。これぐらい大丈夫だから」


 駆けるモニカは思わず口許を緩めた。


「まったく……――」


 初めて会った時の面影が全く見られない。あの気弱なサナはどこにもいない。

 普段は言い争いが絶えぬ間柄。こうして共闘などしたこともない。しかしこの事態の直前に目の当たりにしている。


「――……いつの間にやら随分と頼りになるようになったわねあの子」


 今の力強い言葉にしてもそうなのだが、ヨハンによって吹き飛ばされた後、水中から浮かんだ際に驚きを持って目にしたのは獣化したテレーゼとの激しい戦い。遠目に見ている限りだがその実力を相当に向上させているのだと、試験中だというのに思わず魅入ってしまっていた。



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