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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
学年末試験 二学年編
445/746

第四百四十四話 水色の髪の騎士

 

 魔導闘技場の内部、急いで廊下を駆けている身長差のある銀色と桃色の髪の二人の少女。


「次を右ね」

「あいさ」

「でも困ったわね」

「ん?」


 カレンが感じ取る微精霊の波動。教師達に配布されている内部の見取り図を片手に持って駆けているのだが、向かう先は教師であっても立ち入り禁止の区域。魔道具研究所が管理している場所。


「非常事態だからいいんじゃない?」

「そんな甘いわけないわよ」


 カレンの言葉通り、長い廊下の先には数人の騎士が規制線を敷いていた。


「止まりなさいっ!」


 剣と槍を向けられ威嚇される。


「すいません。どうしてもこの先に行きたいのです」

「だめだ。ここから先に立ち入ることは認められない」


 予想通り当然の反応を示される。


「そこをなんとかお願いできませんか?」


 ニコリとしたカレンの笑みとその美貌に進路を塞ぎながらも思わず視線を奪われる騎士達。


「ん?」


 その中の一人がカレンの顔をジッと見たことで、以前王宮内を国王と共に歩いていた美しい銀髪の女性がいたことを思い出した。


「あ、あ、あなたはっ!?」


 その当時、あまりにも美しい女性だったので思わず周囲に問い掛けたことで得た回答。

 それがカサンド帝国の皇女であるカレン・エルネライだというのだから。絶世の美しさを有していることに見惚れてしまう程。


「ど、どうしてこの先に行きたいのですか?」


 しかし目的もわからず通すわけにはいかない。戸惑いながらの問い掛け。


「ごめんなさい。今はわからないの」

「わからない、ですか?」

「ええ。でもどうしてもこの先で調べたいことがあって。もしかしたら重大な何かが起きているのかもしれません」

「……申し訳ありません。それだけではお通しすることはできかねます。詳しくお伺いしても?」

「詳しくっていっても……」


 どう説明すればいいものなのか。

 既に事件は起きている。それに関する何らかの理由や事情があればその限りではなかったのだが、一般騎士がそれだけの理由によって独断で立ち入り禁止区域に入れさせるわけにはいかない。それが例えカサンド帝国の皇女であってもここはシグラム王国。


「ぶっとばしちゃう?」


 ニーナの突然の発言と態度によって途端に焦る騎士達。


「そんなわけないでしょ!?」


 安直な結論に至って構えているニーナの頭上に持っていた杖を落とすカレン。


「あいたぁっ!」


 ドゴッと鈍い音を立てると同時に涙目でジトリとカレンを見るニーナ。


「なにすんのさっ!」

「またあなたが考えなしに行動を起こそうとするからでしょ」

「だってじゃあどうするのさ!」

「……なんとか理解してもらうしかないわね」


 事態が急を要するかもしれない。しかし魔族と言ったところで騎士達には理解できないとも思える。


「なにか揉め事かしら?」


 不意に背後から声が響いた。女性の声。


「フロイア隊長!」

「隊長?」


 騎士の声に反応しながら振り向いた先には水色の髪の騎士姿の女性。


(へぇ……)


 年若いながらも隊長と呼ばれたことと、か細い体躯ながらも堂々とした佇まいは明らかに通常の騎士とは異なっていた。


「どうしたの?」

「それが、この方達がここを通して欲しいと言われるものでして」

「見ない顔ね」


 カレンの顔に見覚えがないことで疑問符を浮かべながら問い掛ける。ニーナの顔には若干覚えがあったのだが上手く思い出せない。


「私は王立騎士団、第一中隊所属のスフィア・フロイア小隊長よ。現在、この区域の管轄を任されています。それであなた達は?」


 騎士としての一礼を用いてスフィアは微笑む。


「そうでしたか。申し遅れました、わたしはカサンド帝国第一皇女、カレン・エルネライと申します」


 返すようにカレンは皇女としての綺麗な所作を用いて笑みを向けた。


「えっ!?」

「今は縁あってこの国に滞在しながら臨時教師をさせて頂いております」

「なっ!? あ、あなたが」


 カレンの自己紹介を受けたスフィアは驚きに目を丸くさせ、すぐさま片膝を着くと(こうべ)を垂れる。そういえばと思い返すのは、噂に聞く皇女が王国としては珍しい銀色の髪とその類い稀な容姿端麗さ。臨時教師というところからみても間違いない。


「こ、これは大変失礼しました。貴女様が皇女殿下であられましたか。ご無礼をお許しください」


 そのまま謝罪の意を表明した。


「お顔を上げてください」

「しかし」

「かまいません」

「わ、わかりました。ですが、その皇女様がどうしてここへ?」


 立ち上がりながら疑問符を浮かべるスフィア。


「それが、どう説明したらいいものか……」


 普通に説明したところで理解してもらえるとも思えない。


「……なにやら複雑な事情がおありのようですね。でしたら歩きながらそのお話をお伺いしましょう」

「え?」


 言い淀んでいるカレンの様子を見てスフィアは騎士達の間に入って招くように進路を開ける。


「た、隊長!?」

「構いません。責任は全て私が取ります。あなた達は引き続き周囲の警戒を怠らないように」


 真剣な眼差しを騎士に向ける。


「は、はっ!」

「では参りましょう。カレン様。それとそちらの子も」

「はーい」


 敬礼をする騎士達の間を、スフィアを先頭にして通り抜けていった。



「――……でも、どうしてまだ何も説明もしていないのに?」


 そのまま歩きながら向かうのだが疑問が残る。

 前を歩く女性、スフィアとは初めて会ったというのにどうしてこれほど容易に通してもらえたのか。


「そのことですが、大した理由ではありません。ただの個人的な理由です」


 内密にしておいて欲しいとばかりにスフィアは人差指を一本口元に持っていく。


「個人的な理由?」

「ええ。あなたがヨハンの婚約者だということですので」

「ヨハンをご存知で?」

「はい。彼には以前この命を助けられました。本当に危うかったのです」


 その時の大恩はまだ返せていない。これで返したつもりもない。

 苦笑いしながらスフィアは答えた。


「それだけで?」

「いえ、それだけではないのですが、あとはエレナ様からもカレン様のお話は少しだけお伺いしております」


 エレナからヨハンの婚約者であるカサンド帝国の皇女は信に足る人物なのだという評価を聞いていた。


「そうなの?」

「ええ。ですので、その方が切迫されたご様子でしたのでそれなりの事情があるのだろうと判断いたしました」


 現状、カレンがこの場で害を成すとも思えない。歩きながらニーナのことも思い出している。人攫い騒動の時にヨハン達と行動を共にしていた少女がいたのだということを。


「それで、何が起きているのですか?」


 そこでスフィアはこれまでとは表情を変え、騎士としての任務へと切り替えた。その真剣な眼差しを見てカレンもニーナに小さく頷く。


「結論から言うと、何が起きているのかをこれから確認しにいくところなの」

「はぁ……? いったいどういうことかお伺いしても?」

「ええ。わたしは精霊術士でこの子は魔眼持ち。詳しく説明する時間はないけど、二人ともこの先で異常を感じ取ってるの」

「異常、ですか?」

「信じてもらえるかしら?」


 目が合うスフィアが僅かに思案に耽っていることは見て取れた。しかし、すぐさま小さく微笑まれる。


「もちろんですとも。こちらとしましても何が起きているのかを解明できれば助かりますので。それで? この先は最重要機密がある管制室になっていますが? もしやどこかの間者が?」


 しかしスフィアが疑問に思うのは、その可能性を考慮して一度は管制室を調べているのだがその時には異常は見受けられなかった。


「それはわからないわ。でも間違いなく何かが起きようとしているの。あなた、魔族をご存知?」

「魔族、ですか。以前一度だけ戦ったことがあります」


 騎士団入団時の初任務。その際に遭遇した魔族に堕ちた人間の女性。表向きにはサキュバスの特異体として報告されている。

 ただ、正確には魔族と遭遇したのは二度目だった。不意討ちを受けて重傷を負ったので戦ったとも言えないのだが、自身の命を危ぶめたあのシトラスが魔族だったことをスフィアは知らない。


「そう。なら話は早いわね。もしかしたらその魔族が関係しているかもしれないの」

「なるほど、そうですか」


 魔族に関することは多くが不明。しかしスフィアとしては見過ごせなかった。


(……エレナ様)


 かつて行き掛り上に知り得た王家が受けた魔王の呪い。これまで一切の手掛かりが掴めなかった。不意の訪れた事態に対して微かな不安が心の中を過る。


「――……ここです」


 もしかすればそのことをより詳しく知ることができるかもしれないと僅かな期待を胸に抱いて管制室のドアの前に着く。


「どう、ニーナ?」

「……これ、ちょっとまずいかも」


 問い掛けるニーナは僅かに脂汗を垂らした。その緊張がカレンにもはっきりと伝わってくるのは、先程から微精霊から得られる反応が大きく鳴り響いている。


「どうやら間違いないようね」


 根幹の違う二人の感覚が共通してドアの向こうの存在に対して危険を告げていた。



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