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第四十三話 エルフの秘宝

 

 朝、ふと目が覚めた。

 まだ陽が昇ったばかりで、微かに朝陽が差しこんでくる。


 二階の客間でレインと就寝していたのだが、日頃の習慣か、もっとゆっくりできたのにも関わらず身体を起こした。


 隣のベッドではレインがまだいびきをかいてだらしなく寝ている。

 散歩でもしようかとドアを開けると階下から良い匂いがしてきた。


 下りてみると匂いの下は厨房からで、覗いて見るとナナシーが朝食の支度を行っているところだった。


「ナナシーさん、おはようございます」

「あらヨハンさん。お早いですね、おはようございます」

「いつもこんなに早いんですか?」

「いえ、いつもは私と村長だけなのでもう少しゆっくりしていますよい。今日はお客さんが多いですからね」

「それはすいません」


 大人数で押しかけてしまって迷惑を掛けたのではと思い、慌てて謝る。


「あっ、いえ、逆に嬉しくなって張り切った結果こんな時間になったのですよ。ほらこの村にお客なんて滅多に来ないじゃない?それに来たとしても道すがらの冒険者は村の宿屋に泊りますし、私は村の人達としかほとんど接する機会がないからこうして大勢で食事をするのも里以来だからつい――」


 そう言って鼻唄混じりに朝食準備をして照れ笑いをするナナシーの薄緑色の髪を朝陽が照らして透き通り、またその端正な横顔も照らして一際綺麗に見えた。


 思わず見惚れてしまう。


「どうしたんですか?ぼーっとして」

「う、ううん!じゃ、じゃあ僕は朝の鍛錬に行ってくるから昨日の広場を借りるね!」

「あっ、あの――」


 慌ててその場を後にしようとしたところナナシーに呼び止められた。


「えっ?」

「ちょっと待って!ねぇヨハンさん、私のことはさん付けじゃなく、呼び捨てで呼んでもらえないでしょうか?歳もそんなに離れていませんので」

「あー、それって…………」


 どういうことなのか。

 思わぬ提案にどぎまぎしてしまう。


「昨日モニカさんとエレナさんに少しお話しを聞いたのですが、ヨハンさん達は12歳なのですよね?」

「うん、もうすぐ13歳になるけど?」

「私もまだ15歳なのです」

「えっ!?もっと大人なのかと思った!」


 食事準備の手を止め、振り返ったナナシーはヨハン達とさほど歳が離れていないのだという。

 高身長で見た目ではすらっとしたナナシーに対して驚いてしまった。


「ええ、エルフは長命ですが、幼少期は短く、見た目は人間の大人とすぐにそれほど変わらなくなるのです。外見からは年齢の判断は難しいのですがね。それに歳の近い友人もほとんどいませんでしたので」

「そうだったんですね」

「それで、良ければ私もヨハンさんのことをヨハンと呼ばせてもらえたら…………」


 恥ずかしそうに話すナナシーを見て考える。


「(そっか、いくら人間に興味があるといっても限られた空間の中で、まだ僕らと歳もそれほど変わらなければ寂しい思いもするもんね。僕らには仲間がいるけど)」


 種族が違うことで思うところも多くあるのだろう。


「うん。わかったよ!じゃあよろしくね、ナナシー」


 ヨハンは屈託のない笑顔でナナシーに笑いかけた。


「あ、ありがとう、よろしくね、ヨハン!」


 少し緊張混じりのナナシーの表情が和らぎ、ヨハンにも笑顔が向けられる。



 そうして朝の鍛錬を終え、朝食の席に向かうと、他のメンバーは既に座って待っていた。

 ――――遅れて食事を口にする。


「ヨハン?どうですか?お口に合うかなぁ?」

「うん、おいしいよ!ナナシー!」


 ナナシーが朝食の味を尋ねてきたので素直な感想を返した。


 瞬間、周囲に不可解な殺気が立ち込める。

 ヨハンは何故か自分に向けられたその殺気を感じ取り身震いした。


「ちょっとヨハーン?どうしてナナシーさんのことを呼び捨てにしているのかなー!?」

「そうですわね。聞き捨てなりませんわね。それにナナシーさんもヨハンに妙に親しいみたいですしね!」


「(おいおい、勘弁してくれよ、俺が寝ている間に一体何があったんだ?)」



 すぐにモニカがヨハンを問い詰め、エレナもそれに追従して、レインはもくもくと朝食を食べながら横目にヨハンを見る。


「ちょ、ちょっと、どうしたの二人とも!?別にナナシーとは歳が近いからって話しただけだよ!?」


 慌てふためくヨハンが朝のナナシーとの一連のやりとりを詳細に説明する。


「(ふぅむ、若いのぉ)」


 その場に村長もいたのだが、ただただ静かに見守っていた。


「――そういうことね。それなら私たちのことも呼び捨てでお願いね!」

「ええ、よろしくお願いしますわ」


 二人の誤解が解け、食堂内に立ち込めていた殺気が収まり穏やかな空気が流れる。

 モニカもエレナもナナシーを敵対視していたわけでもないので自分たちも仲良くしたいと同じように提案した。


「えっ?いいのですか!?ではお言葉に甘えて…………よろしくね、モニカにエレナ」


 ナナシーが嬉しさのあまり明るく答える。


「あっ、じゃあ俺も俺も!」


 ここでやっとレインも会話に入ってこれた。

 レインはどうか話がややこしくならないようにと願いながら、やっと落ち着いたのを見計らって手を挙げ答える。


「ええもちろんです。よろしくねレイン!」

「ん……おぅ、よろしく」


 笑顔をレインに向け、ナナシーの笑顔を見てレインは思わず胸を押さえる。


「良かったのぉナナシー」


 村長はナナシーの身の上や境遇をヨハン達の知らないところで色々知っているのか、友ができたことを喜び思わず口から漏れ出るように呟いていた。




 朝食を終えた一同はナナシーが食器を片づけた後、昨日の話の続きを聞く。


「それで、そのエルフの里に行く方法なんですが」

「繰り返しになるが、エルフの里はこの先の森深くにある上に、強力な結界が張られておる」

「どうしたら中に入ることができるのですか?」

「エルフが作製した特別な魔道具が必要なのじゃ」

「それはどこに?」

「ここじゃ」


 エルフの魔道具はここだとナナシーを指差し、ヨハン達は同時にナナシーを見た。

 ナナシーは胸元に手を伸ばす。


「はい、私が持っているこの首飾りがそうです。正確には首飾りの中心のこの宝石にその結界を無効化する魔法がかけられています。私は首飾りとして使用していますが、イヤリングや髪飾りにしている者に、慎重なエルフになると体内に隠し持っている者もいます」


 ナナシーは首飾りを外し、手に持つ。

 宝石は青く光っているが、見つめているとどこか不思議な感覚になり落ち着いてくるものだった。


「これが…………これがなければエルフの里には入れないのですね」

「ああそうじゃ。これなくしてエルフの里のある森にいってもそこはただの森じゃ」


 村長の言うことは正にその通りらしく、強力な結界が施されているエルフの里はこの魔道具がない者が訪れていても結界に阻まれて視覚的にも感覚的にもただの森としか認識出来ず、踏み込もうにもエルフの里を迂回するようになっているらしい。


「それは貸してもらえるの?」

「いえ、これはエルフの秘宝ですので、お貸しすることはできません」

「じゃあ一体どうすればいいんだ?」

「それについては、私が一緒に行かせてもらいます」


 ナナシーがヨハン達の目をじっと見ながら答えた。


「それって、ナナシーはそれでいいの?勝手なことしてとか言われないの?」


 突然の提案に驚いた様子でヨハンがナナシーに確認する。



「ええ、ヨハン達は悪い人間ではないもの。それに、ヨハン達を案内すれば私からエルフのみんなに説明する必要があるしね。秘宝をお貸しできないから同行が必要でしょ?そもそもこれは王家からの依頼で正式なもののようだし、依頼にある世界樹については……私もちょっと思うところもあるの」

「思うところって?」

「それは向こうについてから話すわ。今話してもきっと混乱すると思うから」


 まだ話の内容に理解が追い付かないのだが、きっと見ればわかるのだろう。


「それでよいのじゃな?」

「はい、そういうわけですから少しお暇を頂きます。ヨハン達の依頼が終わればまた戻ってきてもよろしいですか?」

「そうかい、わかった。もちろんかまわんよ」


 村長は優しい目をナナシーに向け快諾した。


 そうしてナナシーに案内されエルフの里を目指すことになる。

 未だに目を覚まさないスフィアを連れてエルフの里を目指す事となった。



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