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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
学年末試験 二学年編
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第四百三十七話 迫る閃光

 

「はっはぁっ!」


 小さな浮島をいくつも跳び越えながらゴンザはカニエス達チーム3に迫る。


「カニエスっ!」

「わかっていますよ」


 シリカの声に反応するカニエスは中空にいくつもの炎の塊を生み出した。


「ファイア!」


 そのままゴンザ目掛けて一直線に飛んでいくのだが、ゴンザはニヤリと笑みを浮かべる。


「んなしょうもない魔法にやられるかよッ!」


 まだ距離が大きく開いているにも関わらず、そのまま何もない中空で大剣を大きく振り切った。


「えっ?」


 後ろから追いかけているヨハンはその光景に思わず目を疑う。

 ゴンザの大剣が振り切られるのと同時に発生する衝撃波。カニエスが放った炎弾を相殺していた。


「へぇ。あんな技使えたんだ」


 目視で確認できるゴンザのその技。単純に豪快な剣が生み出す衝撃波に過ぎないのだが、それは剣閃に近しい性質がある。


「ほんとに強くなってる?」


 意識してかしなくてか、闘気の極意である剣閃の片鱗。その劇的な強さの向上はまるで信じられなかったのだがサナの言っていた通りだった。

 短時間の内に何が起きてそうなっているのかわからない。しかしこうなるといくらか頼りがいが生まれる。


「だったら僕は他に回っても良さそう……」


 ちらと周囲に目線を向けると、右手最奥にいるエレナ達は動く様子を見せていない。レイン達は何か動きを見せようとしているのだが、現状まだ距離があった。

 反対側、左側に目を向けると視界に飛び込んで来る一迅の閃光。


「っ!」


 ゴンザ目掛けて走るその閃光、それが人の駆けている姿だと確認するなりダンッと勢いよく浮島を踏み抜く。強い衝撃を受けた浮島は周囲の水に波紋を残していた。


「させないよ!」


 ゴンザの真横に飛び込み、その閃光と剣を交えると激しい金属音を辺り一帯に響かせる。


「なんだ?」


 突然飛び込んで来たヨハンの姿を確認するなりゴンザは眉を寄せて不快感を抱いた。助けに入られたのだとすぐさま理解したのだが、同時にそれと同じぐらいの不快感をヨハンと剣を交えている金髪の少女にも抱く。


「チッ!」


 小さく舌打ちする対象は以前敗北感を抱かされたモニカへ。


「ゴンザ、今の内に!」

「あ? てめぇ、覚えてろよ?」


 助けに入ったにも関わらず、相変わらずの悪態を吐きながらゴンザは浮島に着地するなりカニエス達目掛けて駆け出した。


「サナっ!」

「わかってる!」


 目配せする後方のサナはヨハンの言わんとしていることを声掛けだけで理解している。ザブンと水中に潜りその身を隠した。


(よしっ!)


 可能であればサナを守るつもりだったのだが、モニカが相手ともなるとそう簡単にはいかない。この場所の利点を最大限に活かさない手はない。


「いいのヨハン?」

「モニカこそ」


 グンッと剣を押し合いながら距離を取り直すモニカとヨハン。互いに浮島に着地している。


(モニカが相手か……)


 正直なところ、出来ることならば今は避けたい相手。

 倒すにしてもそれなりに時間を要する。しかしモニカがゴンザを狙った以上相手をしないわけにもいかない。


「モニカこそ、僕を相手にしててもいいの? ほら、他を守らなくて」


 ヨハンの問いを受けたモニカはほんの一瞬呆けた感じを見せたのだが、すぐさま笑顔を浮かべた。


「問題ないわ。リーダーは私だもの」

「あっ、そう……へぇ……――」


 他のチームメンバーを守る必要はないのだと。つまり、モニカを倒さない限りチーム1の敗退はあり得ない。だが、言い換えればここでモニカを倒せばチーム1は最下位が確定する。


(――……この自信)


 しかしそう簡単にはいかないのだろうということは今見せている佇まいから判断出来た。どう見ても手を抜く様子の一切を見せない。加えて先程の突進。速い。速すぎるといってもいい程の速度でゴンザに迫っていた。

 カサンド帝国の武闘大会で戦ったミモザの動きがこれまで見た中では最速だったのだが、その動きに匹敵、下手をすれば上回るのではないかという程の速度。


「相当に鍛えたみたいだね」

「ええ」


 微笑むモニカの表情が覗かせる自信。しかしその中には一部ハッタリがある。


(長続きはしないわね)


 体内でパリッと音を鳴らす帯電。まるで(いかずち)の如き速度を生み出す闘気と雷属性の併用。

 ヨハンの父であるS級冒険者アトムの教えの中に、自分以上の強者と対峙した場合の対応が含まれていた。つまり奥の手。

 ハッタリでさえも戦場では駆使することが必要とされる。通常、冒険者学校ではそのような事態には身の安全を最優先するものなのだが、一定水準を越えた者はまた違う。


(でもここは……――)


 退くわけにはいかない。


『例え勝てないだろうと思っても最後まで希望は捨てるな』

『でも、それで負けたり死んだりすることになったらどうするんですか?』

『そん時はそん時だ。究極の話、最悪死なねぇようにだけすればいいさ』

『……なにそれ?』


 全く以て意味がわからなかったのだが、エリザが後で噛み砕いて説明してくれていた。

 要は窮地に瀕しても生き残るために振り絞ることが最大限の力を生み出すのだと。退避ではなく、その行為によって生み出される力。それは平時では決して理解できない行動原理。個々に異なるのだが、モニカにはそれを引き出せる可能性が大いにあるのだと。


『そういえばお母さんも似たようなこと言ってたな』

『ヘレンが?』

『あれ? 私お母さんの名前言いましたっけ?』

『あっ、ああ。いえ、エレナちゃんから聞いたのよ』


 思わずハッとなり僅かに目線を泳がせたエリザのその表情に疑問を抱いたのだが、エリザが次に言った言葉がその疑問をどうでもよくさせる。


『昔、ヘレンの世話をしていたのよ私』

『えっ!?』


 モニカの母ヘレンは昔のこと、冒険者時代のことをあまり話したがらない。いくら聞いてもいつもはぐらかされていた。



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