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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
学年末試験 二学年編
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第四百三十六話 それぞれのチーム事情

 

「これって……」


 呆気に取られるのは、最終戦の舞台によって分断された五つのチーム。思わず困惑するのだが、それはどのチームにしても同じ。その理由は誰がどこにいるのかということが今居る場所からはっきりと見渡すことができる。

 しかし困惑するのはそれだけではない。各チームの足場、しっかりとした地面はあるのだが、問題はその周囲。目の前には取り囲んで大量の水。それぞれが地続きになっていない。


「す……ご、い」


 驚愕の声を漏らすサナ。

 見渡すだけでも足場になりそうな場所はいくつもあるのだが、それでもまるでそこはさながら大洪水でも起きた後のような状態。


「やったねサナ!」

「う、うん」


 素直に喜んでいいものなのかどうか。水系統の魔法を扱える者に圧倒的に有利に働く場所。


「別に気にしなくていいよ」

「え?」


 サナが困惑している理由をヨハンは理解していた。


「だって二回戦はナナシーとサイバルが有利だったんだし」

「そっか。それもそうだね」


 シェバンニが一部の学生を贔屓にするなどあり得ない。偶然こうなっただけと結論付ける。


「何を呑気に話してんだテメェら」


 未だに苛立っているゴンザなのだが、先程までとは打って変わりどこか落ち着いていた。


「ごめんごめん」

「こんな丸見えの場所、このクソ女が負けたら終わりになるのわかってんのか?」


 単体戦力では一番劣ると目されているサナ。しかしヨハンの見解は違う。


「大丈夫。ここならサナは頼りになるよ絶対」

「あ?」

「いいから、僕たちは気兼ねなく戦おう」

「う、うん、任せてゴンザくん」


 グッと両の拳を握るサナは勇気を振り絞った。もうやるしかない。


「ケッ、どうでもいいがな」

「それよりゴンザ、もう最後だからさ、勝つために僕たちは協力しないと」

「…………」


 ヨハンの提案にゴンザは無言。チラと見るに留まる。そのまま目を合わせようともしない。

 現状二位に浮上したが、それでも五位までとの差は僅かで一位のエレナ達とは大きな開きがある。これだけ開けた場所になってしまえば乱戦必至。その差を詰める為には動き回るしかない。


「しゃあねえ。だったらまずはアイツらを蹴散らしてから、あのくそエルフを俺がぶっ飛ばすのを見せてやるぜ」

「いや、だからそういうことじゃなくて――ちょ、ちょっとゴンザ!」


 なんとか共闘できないかと提案したのだが、ゴンザはヨハンの制止も聞かずダンッと跳躍して浮島を飛び越えて行った。向かう先は正面に見えるカニエス達チーム3。二回戦で制限時間を迎えたことにより逃げ切られた腹いせを先に済ませるつもりだった。


「僕たちも追いかけようサナ」

「う、うん」


 ヨハンの声に同調するサナなのだが、胸の中に抱いている不安をどうにも拭えない。あれだけの殺意を向けられていたゴンザがどうして今落ち着いているのか。


(お願い、ウンディーネさん。力を貸して)


 右手のブレスレットに視線を送ると、呼応するかのように仄かに光を放つ。


「――……動いた!」


 ゴンザの動きを見て声を放つのはロイス。エレナ達チーム2。

 どのチームもこれまでと打って変わった試験会場の為に動向、その様子を窺っていた。相手の動きを見てから自身の行動を定めるしかない。


「……どうする?」

「…………」


 サイバルの声にエレナは僅かに周囲へ視線を送る。動いているのはまだヨハン達チーム4のみ。しかし、その動きを見て全員が動きを見せようとしていた。


「そうですわね、てっきりわたくし達が狙われると思っていたのですが」


 最終試験会場が開けた場所になったことによって一気に不利になったと。一位である自分達を複数のチームが最初に落としにかかるものだとエレナは予想していた。


「ゴンザのことだ。どうせ弱い奴を先に倒してからとか考えてるのでは?」

「そういう奴なのか?」

「ああ。アイツはそういう奴だ」


 確かにロイスの言うことにも一理ある。そしてそれは作戦上有効。どこからでも狙われる状況であれば少しでも相手の戦力を削ぎ落したいのは自然な感情。


(でしたらわたくし達が取る行動は……)


 静観か、これに乗じて何らかの行動を起こすかのどちらかしかない。


「少し、様子を見ますわ」

「いいのか? あいつ等がポイントを稼ぐのをみすみす見届けるのか」

「ええ。実のところ、これが非常に厄介なのですわ」


 実際のところ、エレナの選択肢は現状静観するしかない。直接向かって来られるよりも次に面倒だと。それを考えて実行するのはてっきりマリンかと思っていたのだがヨハン達だったことが意外でならない。

 エレナが動きを取れない理由は危機管理の為。本来であればチーム3とチーム4が交戦すればその場に飛び込み、横から割り込んで誰かを倒してポイントをかっさらえばいい。しかしそこでポイントが取れたとしてもその後すぐに直面する事態を看過できない。そこで相手をしなければいけないのがこの中で一番相手をしたくない者。


「最初からヨハンさんを相手にするわけにはいきませんわ」


 そうなると確実に消耗させられる。下手をすれば真っ先に敗退。

 加えてこの環境がまたよろしくない。サナがウンディーネの力の一端を得ているのを目の前で見ているのだから。地の利がサナに味方をする。

 そして動きを取れなくなるもう一つの理由。チーム1とチーム5にはモニカとナナシーがいた。リーダーでなければいいのだが、その可能性が残る以上いくら他を倒したところで激戦は避けられない。


「それに、わたくし達以上に焦っているはずですわ」


 現状一位であるが故の戦略。

 だが、他のチームはエレナ達とは条件が大きく異なるのでポイントを稼ぐためには動かないわけにはいかない。


 エレナ同様に会場を見渡している金髪の少女が表情を慌てさせた。


「なんてことなの!?」

「なんだ?」


 チーム4の動きを見て呆気に取られているマリン。


「ヨハンとは頭も相当に切れるの?」

「ん?」


 どうしてそんな疑問が浮かぶのかレインには理解できないのだが、僅かに考え込むヨハンのことを思い返すと、確かに頭は良いのだが特別抜きんでているというわけでもない。


「そんなことはねぇと思うけど?」

「だったらどうして……? てっきりエレナ達に向かうものだと思っていたのに……」


 マリンもエレナと同様の結論に至っていたのだが、マリンは共同戦線を張っているカニエス達を攻撃できないでいた。乱戦を避けてまずは互いのチームの利を選択するつもりだった。


「じゃあ行って来るわ!」


 しかしそのマリンたちよりも先にその乱戦へ飛び込もうとしている者がいる。


「すまない剣姫。できるだけのサポートはしよう」

「お願い。二人は離れずに、とにかく周りに注意しておいて」

「ああ」

「わかった」


 最下位にいるチーム1の最大戦力であるモニカが今にも交戦しようとしているヨハン達のいる方角へ向かって真っ直ぐに跳んでいった。



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