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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
学年末試験 二学年編
422/746

第四百二十一話 尾行

 

「ゴンザ、大丈夫かなぁ?」

「でもゴンザくんが倒されても減点にはならないもんね」

「それはそうだけど」


 魔導闘技場によって生み出された巨大な森の中を歩いているのだが、ニコニコとしているサナ。どこか楽しそう。


(最近ツイてるなぁ)


 二人きりになる機会が増えている。それに例え試験とはいえ、どうしても二人だけで行動していると気持ちが昂ってしまって仕方ない。


「ねぇヨハンくん?」

「しっ!」

「もがっ」


 不意にサナはヨハンによって口を塞がれる。

 突然真剣な顔つきになるヨハンの表情に釘付けとなるのだが、同時にそれが改めて試験中なのだと思い出させる程の緊迫感を生み出し、自然と緊張が高まった。


「ど、どうしたの?」

「モニカ達だ」


 小さく問いかけ、返されるヨハンの言葉とその視線の先には森の中を慎重に歩いているモニカ達の姿。


「仕掛けるの?」

「いや……――」


 まだ二回戦は始まったばかり。

 早く遭遇すればいいというものでもない。


「――……このまま尾行しよう」


 戦闘が始まればどうしても騒音が起こる。そうなれば気付かない間に近付かれる可能性が高い。最下位に沈んでしまっているので現状なるべく大量得点が欲しい。真っ先に戦闘を始めると他のチームに警戒されてしまいかねないので、できることなら混戦になる方が望ましい。


(難しいなぁ)


 これまであまりこういった戦略的なことを考えて来なかった。味方の生存確率を高めつつ、相手を掃討していくなどと。

 今後の展開に対していくらかの分岐への思考を巡らせながら、そのままモニカ達の尾行を始める。


「でもモニカさんたち、なにしてるのかな?」

「僕たちと一緒だよ」


 チーム1であるモニカ達も周囲の様子を探る様に見ていた。先に見つけられることができた時の優位性。


(こういう時にニーナがいれば助かるんだけどな)


 魔眼を通して生物の魔力を見通せるニーナの眼はこういう時こそ最大限に頼りになる。

 そのニーナのことを思い出したことでふとナナシーとの会話を思い出した。


『そういえば、エルフの里って不思議だよね』

『不思議って?』

『だってあれだけの結界を張れるんだよ?』

『あそこは聖域っていうのもあるけどね』


 世界樹がある魔素が多く蓄えられた場所。

 周囲から見えない領域を築き上げるだけでなく、周囲に踏み入った者を探知できるような結界も張られているのだと。その結界の強度を上げたことがあるのだが、それはアトム達スフィンクスと共闘して里を守った後の事。元々持っているエルフの術式。


(だとしたら)


 考えるのは視界が限られるこの深い森の中、ナナシーとサイバルが取る手段は探知魔法。

 そうなればモニカ達の後を尾けているので先に二人に探知されるのは前を歩いているモニカ達だろうと推測していた。

 そしてそれはヨハンの推測通りに運ぶ。


「あぶないっ!」


 視界に映るモニカは突然駆け出し、剣を抜きながらテレーゼの下に向かった。

 ズバッと切り裂くのは、人食い植物であるラフレシア。


「助かった剣姫。こんなのまでいるのだな。よくできている」


 深い森に生息する人食い植物。テレーゼは魔導闘技場がそれを見事に再現しているのだと捉えて感心している。


「襲撃よ!」


 しかしモニカの見解は違った。


「えっ?」

「襲撃って?」


 テレーゼとユーリが疑問を浮かべる中、チャッと剣を構えて辺りの様子を具に観察するモニカ。ジッと視線を張り巡らせる。


「モニカ、どうしてそう思う?」

「さっきの花、明らかに敵意を見せていたわ」


 それはそうだろうとユーリとテレーゼは顔を見合わせた。何を当たり前のことを言っているのかと。

 しかし先程の植物、ラフレシアの動きは通常の人食い植物以上の捕食範囲と察知力。だとすれば魔法によって操作されている可能性が高い。そんなことができるのは変則的な魔法を操れる高位の魔導士であるのだが、その様子を遠くから見ているヨハンには思い当たる節があった。


「ヨハンくん、本当なの?」

「うん。たぶんナナシーかサイバルのどっちかだと思うよ」


 つまりサイバルがいるチーム2かナナシーがいるチーム5のどちらか。

 エルフであれば植物の操作ぐらい造作もない。ただ現状どちらのチームによる襲撃なのかの判断はつかないのだが、それでもモニカ達のチームリーダーが誰なのかは先程の動きで大体は予想できる。


(あのテレーゼって子がリーダーかな?)


 襲撃に備えるために周りへの警戒心を引き上げた時の行動。モニカとユーリの二人で固めようとしていたのだから。


「サナ、もしチーム2によるものだったら僕がエレナを引き付けるからその間にあの子を倒してくれない?」

「え? エレナさんを引き付ける? モニカさんじゃなくて?」


 今尾行しているのはモニカがいるチーム1。その最大戦闘力を誇るのはモニカで間違いない。


「うん。テレーゼって子がリーダーの可能性が高いから……――」


 これがチーム5だったらまた話は変わるのだが、それは杞憂に終わる。一瞬だけだが視界の端を駆け抜けるエレナの姿が確認できた。


「――……動いた!」


 動いているのはエレナだけではない。エレナと反対側とその中間地点、共にまだ距離はあるのだが、がさッと動くモニカ達の周囲の茂み。

 それは三方向に分かれてそれぞれがモニカ達を強襲する動き。


「じゃあ頼んだよ!」

「えっ? ちょ、ちょっとヨハンくん!」


 わけもわからない。詳しい説明がないままヨハンも一直線に駆け出している。


「と、とにかく、言われた通りにしないと!」


 とにかく指示された通り、サナはテレーゼだけに焦点を絞って両手に持つナイフに魔力を練り上げた。



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