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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
学年末試験 二学年編
420/746

第 四百十九話 一回戦の振り返り

 

「――……ぐ、ぐぅ」


 ゴンザがゆっくりと身体を起こした場所は控室。


「く、くっそ、どこのどいつだッ!?」


 起き上がるなり怒りを露わにしている。


「ゴンザくん、落ち着いて」

「黙れッ!」


 ガンっと机を叩いたことでビシッと罅割れた。


「でもゴンザが油断したのは確かだよ?」

「んだと?」

「僕たちを無視してゴンザ一人が狙われたってことは、やっぱりリーダーだって言ったからだと思うんだ。他のチームも不要な戦闘は避けたかったんだよ」

「俺が悪いってのか!?」

「そうは言ってないよ。ただ僕たちも作戦をしっかりと立てないと」


 ゴンザを宥めているヨハンの横でサナは内心考える。


(どう考えてもゴンザくんが悪いでしょ)


 独断専行、勝手気ままな行動が生んだ結果。


「チーム4、一回戦が全て終わったぞ」


 控室に来た男性教師によって手渡された紙には一回戦の結果が記されていた。


 チーム1:2点

 チーム2:9点

 チーム3:-3点

 チーム4:-3点

 チーム5:5点


「チーム2は確かエレナさんのところよね。12点差かぁ。結構開いちゃったね」

「うん」

「…………チッ」


 サナには悪気はなかったのだが、まるで責められている風にゴンザには聞こえる。


「大丈夫だよ。まだあと二回戦あるんだから」

「そうだね」


 一つのチームをリーダーが全滅させることができたらそれだけで9ポイント獲得できるのだから。加えてリーダーが撃破されたそのチームはマイナス3ポイントされる。


「じゃあ、次のリーダーだけど……」


 ヨハンかサナの二択しかない。


「テメェらで勝手に決めてろ」

「ゴンザ?」

「便所だよ」


 バンッと勢いよく部屋から出て行った。

 サナと二人、顔を見合わせ苦笑いする。


「いっちゃったね」

「イライラしてるみたいだね。責任感じてるのかな?」

「そんなことないでしょ。ゴンザくんはほっておいて、とりあえず作戦を考えましょ。ヨハンくんはどう考えてるの?」

「そうだなぁ……」


 一回戦の成績表に目を落としても、これだけではどんな展開になったのかはわからない。時間的にあれからそれほど展開が大きく開いたというわけでもなさそう。ただ、カニエス達のチームは誰も倒せずにリーダーを倒されたということだけはわかった。初戦でマイナス3点になっているということはそういうこと。


(他のチームにバレちゃったなぁ)


 しかし、自分達もマイナス3点になっていることが知られている。



「――……ねぇ、ヨハンのチームマイナスになってるけど?」


 チーム1の控室。モニカが書面に目を通しながら浮かぶ疑問。


「どうやらゴンザがリーダーだったようだな」

「どうしてそう思うの?」

「むしろそれ以外に可能性が考えられない」


 サナの性格をよく知るユーリであれば、仮にサナがリーダーを務めていれば例えリーダーであってもヨハンの言うことを聞くであろうしヨハンがサナを守ると。そうなると誰も倒さずにサナが倒されることはないはず。そしてヨハンがリーダーであれば誰も倒さずに負けるなどそれこそ考えられない。であれば可能性として一番高いのはゴンザがリーダーだったということ。


「なるほど。私はそちらの事情に詳しくはないが、妥当な線だな」


 テレーゼもユーリの見解には納得を示していた。


「そっかぁ、じゃあこっちは次どうする?」

「無論、私が次のリーダーだろう。剣姫には最終戦でポイントを稼げるようにしておいてもらわないとな」


 大きくポイントを稼げるリーダーは最終戦に一番強い者を残しておきたい。それまでにリードできるに越したことはないのだが、追いかけなければいけないことを加味すると自然な考え。


 そしてそれは他のチームも同じようにして考える。



「そうだな。オレは先程の失態を取り返さないとな」


 チーム2の控室。ロイスがリーダーを務めることに決まる。その護衛を主にすると。

 一回戦終了間際、ナナシーによってロイスが倒されたこと。これまでサイバルが不覚を取るのはいつだってナナシーが相手の時。過去には直接的な敗北、スフィア・フロイアがエルフの里を訪れた時も同じなのだが、あの時は例外。手の内を晒すという油断もあったがとにかく強かった。


(そういえば王都にいるのだったな)


 まだ再会は果たしていない。

 そういった一部の天才が相手ともなると手の内がバレてしまっていればあとは地力の差。


「かまいませんわ。ロイスさんもそれでよろしくて?」

「もちろんかまわない。むしろ自分としては指示に全て従うつもりだ」


 三戦とも実質的なリーダーはエレナ。王女だからというわけではなく、ロイスも身の程は弁えている。モノが違う。

 サイバルにしても噂に違わぬエルフの実力者であり、先程の戦いぶりからしてまるで自分とは次元が違うことを認識していた。助太刀にもなり得なかった。


「助かりますわ」


 そうしてチーム2も二回戦の作戦とエレナが三回戦のリーダーになることが決まる。



「――……どうするカニエス」

「…………」


 チーム3の控室。


「もうあんなの勝てっこないって」

「……仕方ありませんね」


 カニエスはオルランドとシリカの顔を見て溜息を吐いた。


「一回戦を経て再確認をしました。私達は優勝を目指すべきではありません」

「でもそれでいいの?」

「ええ。私達がこの選抜で示さなければいけないことはなんだと思いますか?」

「示さないといけないこと?」


 首を傾げて指を唇に持っていくシリカにはとんと覚えがない。


「失礼ですが、シリカさんにはここを勝ち上がる力はありません。それはもちろん私もオルランドにしてもそうです」

「それは……まぁ、わかってるわよ」

「口惜しいけどな。けどそれがどうした?」

「ですので、私達が目指すのは良くて二位か三位ですよ。少なくとも最下位にならなければいいかと」


 彼我の実力差を見極めて適切な判断を下す。

 かつてシェバンニに言われていたこと『あなたにしかできないことがあるはず』と。

 その言葉をいくらか考えていたのだが、行き着いた答え。分析力。判断を誤れば確実に五位。しかし持ち得る知識と策謀を駆使することによって順位を上げられることはまだ望めた。


「次はポイントを取り返しつつ、周りを巻き込みます」


 その為に巻き込むべきはチーム1とチーム5。それ以外ありえない。

 まず、普段からマリンの従者を務めていることもあり、マリンであれば聞く耳を持ってもらえるはず。そうなるとマリンからの一方的な敵視とはいえ、エレナがいるチーム2は除外対象。


(恐らく一番の障害は彼になるはずですからね)


 どのチームも抱く共通の考え。ヨハンの存在。

 であればチーム4を追い落とす為にはチーム1。他のチームがヨハンをどれ程の脅威に位置付けるかによるが、二回戦でのポイント差が最終戦の動きを大きく左右する。



 一方、その頃のレイン達チーム5の控室では。


「で、どうすんだ次は?」


 チーム2に次いで順調にポイントを稼ぐことに成功していた。


「そうですわね。次のリーダーはレインがやってくれるかしら?」

「まぁ別にいいけど、それで作戦はどうするんだ?」

「さっきの感じだと、エルフは我慢できないのでしょ?」

「もちろんよ」

「でしたら次は好き勝手に動いてもかまわないわ」

「ほんとに!?」


 マリンの言葉を受けて目をキラキラとさせるナナシー。


「その代わり最終戦、ポイント差次第ではこちらの言う通りに動くと約束しなさい」


 つまり、ナナシーが二回戦で大きくポイントを稼げたらその必要はなく、僅差もしくは上位と差が開けばそのための策に手を貸せと。


「ええ。それぐらいかまわないわ。そうね、じゃあ一位に5ポイント差を広げられてたらってことでどう?」

「それで構わないわ。決まりね」


 その様子をレインはぼーっと見ながら考える。


(あれ? マリンのやつ、こいつってなんだかんだこういうことに向いてるんじゃねぇの?)


 一回戦はチーム2に次いでの二位。恐らく作戦勘案者であろうエレナに遅れを取ったのだとしても、二回戦も一回戦でのナナシーの性格を加味しながら立てられた戦略。チーム5の実質的な主導権はマリン。そしてそれは最終戦まで見越して取引していることからして、相当人心掌握術にも長けていると。


(んなことはねぇか)


 と、一瞬考えたもののすぐさま否定する。しかしこれまでの態度から感情に行動も左右されがちだと思っていたのだが、思いのほか冷静。意外な一面を目にしてレインは感心していた。



 そうしてヨハン達のチーム4。


「次のリーダーは僕に任せてくれない?」

「別にいいけど、何か考えがあるの?」

「うん。っていっても、このままポイントを稼げないと最終戦が絶望的になるから思いっきりいくだけだよ。それにたぶん、チーム3も動くだろうしね」


 取り戻したい気持ちはマイナスポイントである二チームともに変わらない。それに上位は余裕がある。加えて最終戦ではポイントが大きく動く可能性があることを考えるとここが一番の稼ぎどころの筈。


「だから申し訳ないけど、僕が動いてもいいかな?」


 リーダーが積極的に動くことの矛盾。倒されればその時点で終了なのだが、獲得できるポイントが大きい。


「うん。ヨハンくんなら大丈夫よね」

「決まったかよ?」


 そこで控室に戻って来るゴンザ。


「次は僕がリーダーになるよ」

「けっ。どっちでもいいっつの。俺は俺で好きにやらせてもらうぜ」

「でもゴンザくん!」


 一回戦に続いて二回戦も勝手に動くとか考えられない。


「んだよ乳でか? 俺がお前らと仲良くやれると思うか? だったら俺が単独でポイントを稼いだ方が俺にもお前らにとっても都合がいいだろうがよ?」

「それは……」


 思わず口籠るサナ。確かにその通り。仲違いして呼吸が合わないよりも個別に動く方が効率的。だが果たしてそれでいいのかと迷う。


「わかったよゴンザ。じゃあ一つだけ約束してくれない?」

「あん?」

「次の二回戦、誰も倒せなかったら最終戦はリーダーのサナの言うことを聞いてもらうってことで」

「チッ。んな必要ねぇけど、それで最終戦も好きにやらせてもらえるならいいぜ」


 そうしてどうにかチーム4も二回戦の作戦内容が決まった。



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