第四十一話 エルフの里の過去(前編)
ナナシーとの一戦を終え、一同は村長の家の応接間に再び集まっていた。
「これでお主たちの実力は見せてもらった。まだ粗削りな部分はあるが、十分なようじゃの。特にヨハンっといったかの?お主はいったい何者じゃ?」
「えっ?あー、僕は…………」
少し考え込んでしまう。
実感はないのだが、両親が大陸最強ギルドであったスフィンクスのメンバーだということを伝えるべきなのかどうなのか。
だが、知っていることを話した方がエルフの里に関することもより詳しく教えてもらえるかもしれない。
悩んだ末に両親のことを村長に話すことにした。
「僕のお父さんとお母さんはスフィンクスのメンバーらしいです」
「ん?らしいとはどういうことじゃ?スフィンクスとはかの有名な冒険者バーティーのことじゃな?」
村長は訝し気にヨハンを見る。
「あー、えっと、すいません。僕もまだ確認したわけではなくて、校長と王様から聞いただけで」
話に聞くほどそれほどすごい両親には見えない。
それだけのことを成し遂げたのなら今度時間があれば一度調べてみようかなと少しだけ考える。
村長はヨハンをジッとみつめながら考え込んだ。
「――ううむぅ、王家の依頼を受けてローファス王が言っておるなら間違いはないのか……。なるほど、色々と得心がいった。お主があやつらの息子か。そうかそうか」
村長は感慨深げに何度も頷いている。
「あの?お父さんとお母さんのことをご存知で?」
「あぁあぁすまぬ。思わず昔を懐かしんでしまったわい。いや、そうなればこれから話すこともお主には無関係なことではないのでな」
「えっと、どういうことですか?」
「まぁ焦るでない。順を追って話そう」
村長はヨハン達の目をまじまじ見た。
「まず、エルフに関する話はどこまで知っておる?」
「エルフですか?えっと……人間とは違う種族で長命。それに特徴として長い耳に強い魔力」
「それに、争いは好まないけど人間嫌いで人間とは距離を取って生活していている。中には人間に興味のあるエルフも少し存在する、かな?」
エルフに関する知識がどれほどのものか確認の意味を込めて尋ねる。
ヨハンが答え、モニカが引き継いで続きを答えた。
「あぁそうじゃ。じゃが、何故エルフは人間を嫌っておる?何故人間と違う環境で生活をしておる?」
「それは文明の発達を嫌がって、自然の中で生活することを選んだからじゃ?」
「確かにそういった側面はある。エルフは自然を愛しておるからのぉ。じゃが果たしてそれだけで人間を嫌いになるじゃろうか?お主たちはそれをどこで知ったのじゃ?」
「一般的なエルフに関する本や学校の授業よ?」
モニカが何を当たり前のことをといった様子で答える。
「それじゃな。それはあくまでも人間側の一方的な言い分じゃ。真実の中には人間にとっての不都合も混ざっておるのじゃよ」
「その真実とは一体何なんですか?」
一体何を言っているのか。
理解ができない。
「そこにお主の両親たちが絡んでくるのじゃ。ここからは少し長くなるぞ?」
「はい、お願いします」
日が暮れかかる頃、薄暗くなり始めた部屋の中で蝋燭に村長が火を灯す。
周囲が蝋燭の灯りに照らされた。
「――大昔、エルフと人間は共に生活をしておった。数は人間の方が多く、エルフのいない村もあったが、エルフは村々を自由に往来しておった。まだ人間も自然の中で生活をしておった頃じゃ。しかし、先程言っておった文明の発達を徐々に人間が覚えていったころ、それを良しとしないエルフがいての、そういった人間とは距離を置いていったのじゃ」
ヨハンがモニカとレインの顔を見ると、二人とも小さく頷く。内容的に知っていることなのだろう。
「じゃが、人間全てを嫌っておったわけではなく、エルフと良好な関係を保ち生活を共にする人間もいたのじゃ。多くの人間との距離が徐々に離れていった頃、文明の発展に欲をかいた人間がエルフの強大な魔力を利用しようとした。またその人間達がエルフと良好な関係を築いていた人間を騙して、時には殺して、エルフを捕えて連れ去っていったのじゃ。それでエルフが怒り、エルフと人間との戦争が起きたわけじゃ」
村長の言葉を聞いてレインもモニカも言葉にならない表情になっていった。
「そんなひどいことがあったんですか……」
「あぁ確かにひどい。間違いなく、な。しかし人間全てが悪ではないことはエルフも承知しておる。その戦争自体は長くは続かなかったのじゃ。エルフ自身の魔力が強大で結束すれば人間では到底太刀打ちできん。それにエルフに味方する人間もおる。結局被害のほとんどは人間側が被ったのじゃが、またいつ同じようなことが起きるとも限らんわけで争いの好まぬエルフは森の奥に移り住んでいったのじゃ。強い結界を施しての」
「それがどうしてスフィンクスと関係あるんだよ?」
レインが言葉を挟む。
「まぁそんな急ぐでない」
話が見えないレインに対して村長は宥めて話を続けた。
「それからしばらくはエルフと人間は距離を置いた生活を続けていたのじゃが、一部の人間はエルフとコンタクトを継続的に取っておっての。ほとんど知られてはおらんが、それが王家の人間じゃ。戦争時にエルフに協力したのもこれも王家の者じゃ。これらの話は人間の負の歴史として表向きには語られていないが、二十年程前になるかの。エルフの里を襲撃しようとした人間がいたのじゃが、その解決に一役買ったのがお主の両親を含むスフィンクス達じゃな」
「どうしてまたそんなことが!?」
度重なる人間の行いにモニカの表情が曇っていく。
「その襲撃を計画したのが先代国王の側近だったから余計に問題なのですわ」
突然応接間の入り口から声が聞こえた。そこにはエレナが立っていた。




