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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
学年末試験 二学年編
417/746

第 四百十六話 無策と隠密

 

 大岩の影を素早く移動する三つの影。


「どうするカニエス?」


 チーム3であるカニエスとオルランドとシリカ。

 学内順位はカニエスが八位でオルランドが九位でシリカが七位。


「どれだけ贔屓目に見たとしても、いくら上位だと言ったところで特筆した戦力がいない私たちは現状一番可能性が低いですね」

「だろうな」


 チームごとの総合順位はエルフの二人が参戦していることで細かなことはわからないが、それでも自分達のところ以外のチームには上位の四人がそれぞれいる。


「アレに勝てるの?」

「さぁな。だがやるしかない」

「…………」


 小柄のシリカに問いかけられるカニエスは返事を返さず無言。

 それ程に上位の四人との差には大きく開きがあると考えていた。


(私たちが好成績を残すにはどうしたらいいのか)


 考えても考えてもとても妙案は思いつかない。

 しかしどうしてもわからないことが一つある。


(どうしてマリン様が選ばれているのか)


 下手をすれば晒し者。だがシェバンニがそういうことをするとはとても思えない。


「オルランド! 跳びなさい」

「!?」


 思考を巡らせていたところ、視界の向こうでキラッと僅かに見える光。

 オルランドがカニエスの声に反応して後方に飛び退いた直後、ドゴンと音を立てて目の前の岩が粉砕し、地面には大剣が突き刺さっていた。


「はっはぁっ! こんなところに居やがったか」


 大剣をグッと握りしめて持ち上げるゴンザはカニエスたちをニヤリと見る。


「ゴンザ!?」

「ということは」


 ゴンザ一人であれば三人で相手をして勝つことはできるだろうと思っているのだが、問題はそこではない。


「退きますよ」

「ああ」

「うん」


 すぐ近くにゴンザのチームメンバーがいる可能性が高い。


「逃がすかよ! ん?」


 ゴンザはグッと地面を踏み抜こうとするのだが、自身の足下に小さな魔方陣があることに気付いた。


「チッ!」


 小さく舌打ちしてその場から飛び退く。

 直後、バンッといくつもの小さな爆発が起きた。


「くそっ、みみっちいことしやがって」


 仕掛けられた魔法はカニエスによるもの。


「ゴンザ、誰かいた?」


 そこに後からヨハンとサナも追いついてくる。


「ああ。だが逃げやがったぜあいつら。俺にびびりやがって。まともに勝負しやがらねぇ」

「やっぱり協力しようよ? 相手は三人いるんだから」

「はんっ。んなもんいらねぇって。十位以内のあいつらでさえ俺を見たら逃げやがったんだぜ?」

「だとしても逃げられたら意味がないよ」


 この試験は誰も倒すことなく制限時間を迎えれば0ポイント。全チームが0ポイントになることなどほぼあり得ない。


「いいから次の相手を探しにいくぞ」

「はぁ」


 どすどすと歩いていくゴンザの後ろ姿を見送りながらサナを見ると、サナは苦笑いをしていた。


「しょうがないよヨハンくん。私たち二人だけで協力しよ」

「でもやっぱり二人よりも三人の方がいいからさ」

「それはそうだけど」

「大丈夫。ゴンザもそのうちわかってくれるって」

「だといいけど」


 そうして周囲の索敵を行いながら動く。


「――……はぁ、はぁ」

「びっくりした」

「どうだ、撒いたか?」


 息を切らせながら背後を見ると、誰の姿も見当たらない。


「ふぅ。バカがいて助かりましたね」

「だな」


 情報もほとんどなく、手探りで隠密行動が求められる中での攻撃。不意打ち気味ではあったのだが逃げることはできた。退路に誰かが待ち構えているわけでもない考えなしの行動。それ程に無策。


「やっぱりいるよね?」

「だろうな。ゴンザのチームにはアイツがいるんだ。迂闊に手は出せない」


 サナはまだしも一番の難関はそのチームメンバーであるヨハン。記憶に鮮明に残っている飛竜を単独討伐した圧倒的な戦闘力。三人掛かりだとしてもとても勝てない。これだけはどうしても避けて通らなければならなかった。


「ええ、その通りですわね」

「「「!?」」」


 不意にどこかから聞こえる甘い声。


「この声は!? ぐっ!」


 それが誰の声なのか、エレナの声だということをカニエスはすぐに理解したのだが、それよりも早くに事態が急転する。草一本生えない荒野のはずなのに地面からビュルッと蔦が伸びて来てカニエス達三人は拘束されてしまった。


「一体どうして!?」


 オルランドが大きく声を上げる中、エレナとサイバルとロイスがスッと岩の影から姿を見せる。


「どうしても何も、あれだけ大きな音を立てたら居場所を教えているようなものですわ」

「それもそうですが、これはいったい?」


 自身の身体を縛っている蔦。


「もちろん魔法に決まっている」


 植物系の魔法はエルフの得意分野。

 加えていくら荒野とはいっても魔素が多量にあるこの場所、試験会場であれば属性にそぐわない土地であったとしても多少魔力の消費量が増えるだけで十分に扱える。


「ぐぅ、な、なるほど。そういうこと、でしたか」


 相当な強度。もがいたところでほどける代物ではない。それどころか、縛りがだんだんときつくなり、オルランドとシリカはもう気絶してしまっていた。


「ですので、残念ですが三人共この回はここで脱落ですわね」

「いえ、せめて一人だけでも道連れにさせてもらいますよ」

「え?」


 不敵に笑うカニエスの視線の先にはロイス。

 この中で、今の状態で倒せるとしたらロイスのみ。実力が不明だったのはサイバルなのだが、自身を縛り付けるこの魔法一つだけ取っても十分な能力の持ち主だと判断できる。


「炎爆陣」


 くいッとカニエスが指先を動かすとロイスの足下に魔法陣が敷かれ、炎が立ち昇った。


「……やはり、そううまくはいきませんでしたね……――」


 しかしそう思い通りにはいかないのだと。

 意識を朦朧とさせながら、気を失う前にカニエスが見たのは薙刀を大きく振るうエレナの姿。


「くっ……これを、どうしろと……――」


 ガクッとカニエスは意識を失う。


「た、助かった」

「いえ、わたくしも油断していましたわ」


 エレナの魔剣の突風によってかき消されたカニエスの魔法。それでもロイスはチリチリと身体を焦がしていた。カニエス達を捕縛していた蔦がビュルッと地面に戻っていく。


「ですが、これでわたくしたちは9ポイントですわ」

「楽なものだな」


 エレナたちのチームのリーダーはサイバル。これも作戦。

 エルフであるサイバルの能力がほとんど知られていない中での奇襲。時間が経ち、戦闘を重ねれば互いの手の内、能力が明かされていく。時間帯に応じた中での立ち回り方がより重要。


「これで大きくリードしたな。あとはどうする?」


 結果9ポイントを得て先手を取ることに成功したエレナ達と、誰も倒せずに全滅したカニエス達はリーダーが倒されたことによってマイナス3ポイントのみ。


「そうですわね……――」


 初手でエレナの見積もりの中で一番弱いと目していたチームを一網打尽に出来たことは大きな戦果。残り三チームはエレナの見解ではどう考えたとしても手強い。しかしやりようはいくらでもある。


「――……しばらく様子を見ますわ」

「ああ」

「了解した」


 そうしてエレナたちは素早くその場を後にした。いつまでも長話をしているわけにもいかない。

 数分後、そこに姿を見せたのはチーム1であるモニカ達。


「あれ? やっぱり考えることはみんな一緒なのかな?」


 爆音がした方角に向けて慎重に進んできていたのだが、そこにはカニエス達が倒れているのみで他に誰の姿もなかった。


「どこがやったのかしら?」

「やはりリスクを背負ってでも向かうべきだったのでは?」


 モニカのチームメンバーの赤髪の少女テレーゼ。長槍を持っている。


「ううん。最初だからこそ慎重にいかないと。これぐらいなら後からでも十分取り返せるわ」

「……存外、冷静なのだな剣姫は」

「その呼び方、やめてもらえない? 恥ずかしいから」


 モニカに付けられた二つ名である【剣姫】。もう学内では広く浸透していた。


「恥ずかしがる必要などない。私の姉は暴君と呼ばれているぞ?」

「テレーゼのお姉さんって騎士団の隊長をしているのよね?」

「ああ」


 テレーゼの姉は王国騎士団第七中隊の中隊長であるキリュウ・ダゼルド。騎士団内ではその傍若無人ぶりから一部では【暴君】と呼ばれている。しかしそれは男性騎士からであり、女性騎士からは敬愛されているのでまた別の名である【戦乙女(ヴァルキュリア)】とも呼ばれていた。


「そんな凄い人なら会ってみたいなぁ」

「今は遠征に出ているが、もし会いたいなら帰ってきたら紹介するが? モニカなら入団してすぐに隊長格になれるだろう」

「あー。そういうのじゃないの。私は騎士団に入る気ないし」

「もったいないな」

「それよりどうする? この様子だともうどこかのチームがポイントを稼いでしまっているだろ」


 モニカがチラリと目を向ける大きな火時計。一回戦の残り時間はあと四十五分程度。ユーリの問いかけを受けて少しばかり思考を巡らせる。


「そうね。とにかくここにいては危険だわ。動きましょう」

「「ああ」」


 そうしてそのままモニカ達も気配を消しながら索敵を開始した。



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