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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
学年末試験 二学年編
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第 四百十五話 未知の技術

 

 シェバンニが杖を掲げた直後、ゴゴゴッと音を上げ激しく地響きを上げる。


「なんだ!?」

「地震だ!」


 困惑する学生達。


(あれ? これって……)


 ヨハンが視線を送る周囲の様子。シェバンニが落ち着き払っていることからして事態がシェバンニによって起こされたものだと。加えて、地響きを上げてはいるのだが、地面に小さくポコッと隆起するなり双葉が覗いていた。


「ヨハンくん!」

「大丈夫だよサナ」

「え?」


 グッと身体を寄せてくるサナに笑顔を向ける。


(まさか本当に実在していたなんて)


 思い出すかつての絵本と同じ状況。双葉はすぐに成長を始め、急速に成長すると周囲は大草原に変わっていた。

 ヨハンとシェバンニ以外はその様子に驚き困惑する。


「ここは環境を大きく変える場所みたいだね」

「環境を?」

「うん。きっと他にも色々あるんだよ」


 この場所が何もないことに納得がいった。しかしこれからどんな風に舞台が変わっていくのかという疑問。


「なんじゃつまらん。ヨハンくんが驚く顔が一番見たかったのだが」

「あれ? メッサーナさん?」


 そこに姿を見せたのは、シグラム王国魔道具研究所の所長であるメッサーナ・ナインゴラン。


「知り合い?」

「うん。魔道具研究所の所長なんだよ」

「……へぇ」

「さて、上手くいっておるようだな。ともすればここを名付けるとすれば【魔導闘技場】といったところかの」

「魔導闘技場……ですか」


 初めて聞く名ではあるが、この施設には覚えがあった。記憶の中の絵本と同じ技術。


「静かに」


 シェバンニは再び杖を上方に掲げ、一粒の光が高々と舞い上がり大きく弾けると、すぐに学生たちの視線はシェバンニ集まる。


「これはまだ試作品ですが、王国がその技術の粋を集めて作り上げた物です。簡単に言うと巨大な魔道具ですね」


 学生達が驚きと困惑を抱きどよめく中、シェバンニは説明を続けた。

 魔素を集めてその場の環境を変えるという古代の遺産。その技術を十数年前に発見していたのだが、調査と復元に多くの期間を要したのだと。それがようやく実践レベルにまで到達したのでヨハン達二学年の学年末試験に用いて検証も兼ねるということがシェバンニとメッサーナ・ナインゴラン、引いては冒険者学校と王国の間で話し合われていた。


「それでは詳しい試験内容を説明したあと、各チームで話し合いの時間を少し設けます」


 そうして一通りの説明を受けたあと、開始の合図まで各チームで話し合いをすることになる。



 ◆



「どうするヨハンくん?」


 チームごとに設けられた控室で話し合いが行われていた。


「そうだね」


 今回の選抜学年末試験は、ポイント制度が設けられている。

 チームリーダーをそれぞれ作り、個別に魔印を入れる。すぐに消えるその魔印がリーダーの証。


 ・戦闘不能に追い込んだら1ポイント。特別加算としてリーダーが誰かを倒した場合はプラス1ポイント。

 ・リーダーを倒したチームには更に3ポイント加算されるが、逆にリーダーが倒された場合は3ポイント減算。加えてリーダーが倒されたらその時点でそのチームは終了。

 ・それを全三回戦行う。リーダーは持ち回り制で必ず一人一回はすること。

 ・その総合得点を競うというもの。


「まずリーダーが誰になるかだけど」


 リーダーの行動如何によってポイントは大きく変動する。対戦毎に獲得ポイントは開示するが誰がリーダーを務めていたのかは明かさないらしい。


「そんなのヨハンくんに決まってるじゃない!」

「は? ふざけんなよ乳でか。どうしてコイツがリーダーなんだ?」

「ち、乳でかですって!?」

「んなことはどうでもいいんだよ。最初からコイツがリーダーをするなんてのは俺は納得しないぜ」

「そんなの一番強いヨハンくんからが良いからでしょ!」

「コイツが俺より強いって証拠がどこにあるんだよ」

「そんなの当り前じゃない!」


 いがみ合うゴンザとサナ。その様子を見てヨハンは小さく息を吐く。


「いいよサナ。最初はゴンザにリーダーをやってもらえばいいんじゃない? どうせ全員やるんだし」

「で、でも」

「ハッ。テメェのそういうところがまた気に喰わねぇんだが、まぁいい。最初だけで決めてやるぜ」


 意気揚々と意気込んでいるゴンザ。そのまま魔印の魔道具を肩に貼ると、赤い印が刻まれすぐにスーッと染み込むように消える。


「じゃあ僕たちも」

「……うん」


 同じ印で青の印がヨハンとサナの肩へ同じようにして染み込んで消えていった。

 魔道具による分布の把握。映像の魔道具も用意されているが数も少なく貴重であり限りがある。


「やっほ、カレンさん」

「あれ? どうしたのニーナ」


 教師陣と同じようにして座るカレン。そこにニコニコと歩いて来るニーナ。


「なんかシェバンニ先生がここにいなさいって。いやぁお兄ちゃんたちの試験を見れるなんてね」


 活動を共にするヨハン達の試験を見ておく方があなたには勉強になると言われてここに来ている。


「…………あっ、そう」


 しかしカレンはシェバンニのその意図を正確に理解した。


(つまり、この子を見ておけ、そういうことね)


 またいらないことをしないように見張っておけということなのだろうと。



 ◆



 そうして迎えた開始時刻。

 選抜されなかった学生たちが観戦席でどのチームが優勝するのだろうかと展開を予想している。


「俺一人で速攻で終わらせてやるぜ」

「油断しないでね」

「ハッ! 誰に言ってんだ誰に!」


 大剣を肩にトントンと叩いているゴンザ。


「ではこれより試験一回戦を始めます」


 シェバンニが杖から光を放つと同時に地面が地響きを上げ、現れたのは大きな岩と土しかない荒野。


「ハッ。俺にピッタリじゃねぇかよ」


 ニヤリと笑うゴンザ。


「お前ら、俺の後に続けよ」

「わかったよ」

「…………」


 ゴンザの様子を見ているサナはその自信満々さに不安を抱く。


(まぁでもヨハンくんと一緒だし、それに……――)


 新しく手に入れたウンディーネの力を実戦で使うにはもってこい。


「頑張ろうねヨハンくん!」

「うん。ゴンザをしっかりとサポートしないとね」


 その笑顔を見ていると呆れるしかなかった。


(まぁ、そこがヨハンくんのいいところだもんね)


 そう浮かれつつも、すぅっと大きく息を吸い、吐き出すと同時にサナは目つきを鋭くさせる。


(さて、頑張らないと)


 決意を新たに試験へと臨んだ。



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