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第三百九十九話 水中遺跡⑫

 

「どこまで行くんだよ!」

「もうすぐよ!」


 ナナシーの誘導の下、間もなくレイン達は魔力の根源に辿り着こうとしていた。


「あそこよ!」


 向かう先は荘厳な扉。半開きになっている。


「何がいるかわからないから覚悟しておくのね」

「特にレイン、次は助けませんわよ?」

「わ、わかってるっつの!」

「各自戦闘準備!」


 エレナの掛け声と共に、勢いよく扉を潜り抜けて部屋の中に飛び込んだ。


「なっ!?」

「えっ!?」

「これは!?」


 同時に漏らす声。

 部屋の中に飛び込んだエレナ達は目の前の光景に思わず目を疑う。


「ヨハン!」


 いくつも水泡が浮いているその幻想的な空間。

 だが、何より先に視界へ飛び込んで来たのは、大きな水球の中にまるで囚われているように眠りについているヨハンの姿。


「くそっ!」

「落ち着きなさいレイン」

「けどよぉ!」


 慌てて駆け出そうとするレインの肩をエレナが掴んで制止させた。


「サナちゃん!?」


 続けてナナシーの視界に飛び込んで来たのは地面に横たわっているサナの姿。苦悶の表情に顔を歪めているだけでなく、呻き声を漏らしながら血を流している。


「どう、いうことだ?」


 ヨハンとサナ、二人だけの姿しか見当たらない。


「一体何が起きたんだ?」

「わかりませんわ」


 状況が呑み込めないとなるとその場から踏み込めずにいた。


「警戒を怠らないで!」


 ピクリと周囲の気配が変わり始めたことにいち早く反応したナナシー。

 周囲に浮いていた水泡が集まり始め、大きな一つの水球になる。それはヨハンが囚われている水球の倍ほどもあった。


「今度は何だよ!?」


 レインが混乱のまま声をだすのだが、状況は立て続けに変化を生み出す。

 集まり始めた水球がブクブクと音を立て始めるとすぐさまいくつもの触手を生み出した。

 それはさながら海洋生物であるイソギンチャクかのような風貌。


「あぶない!」


 それが突如としてビュルっと触手を伸ばしてレイン達に襲い掛かって来る。

 寸でのところでレイン達は後方に飛び退いて触手を躱した。結果触手は空を切る。


「もしかして、ヨハンはこれに捕まったのか?」


 どうにも動きが物理的な攻撃というよりも捕獲、捕食のような動き。


(だとして、ヨハンさん程の人があんな単調な動きに捕らえられるのでしょうか?)


 まだ初見なのだが、動きはそれほど速いわけではない。ここに至る迄に戦った四つ足の獣やヘビと同程度の速さ。


(それに……――)


 エレナが視界に捉えるのは未だに苦痛に歪めているサナの姿。


(――……サナはどうして捕らえられていないのでしょうか?)


 考えられる可能性は現状多くはない。

 状況から見るに捕獲対象はヨハンであり、サナを捕らえる必要がなかったのか。


(いえ)


 しかし別すぐさま否定する。

 分断される前、別れる前のサナの状態からして、恐らくという程度にサナが何らかの変調をきたしていたのは間違いない。


(でしたらヨハンさんは?)


 水球に包まれているヨハンは苦痛を感じさせていない。それどころかどこか穏やかですらあった。対照的なヨハンとサナの反応の違いがそう判断させる。


(ですが……――)


 現状、目の前には明らかに危害を加えようと目の前に現れた水の魔物。魔物と呼んでいいものなのかどうかすらわからない程の未知の相手。


(――……時間がありませんわ)


 だが何より今一番危惧しなければいけないのは脱出不可に陥ること。

 誰かを失うことももちろん避けなければいけないのだが、最悪なのは全滅すること。ともすればまず始めに救わなければいけないのはサナ。それは間違いない。

 水中呼吸魔法がもう間もなく限界を迎える。魔法がなくとも呼吸がもてばいいのだが遺跡の規模からしてそれは現実的ではない。


(……ヨハンさん)


 微妙に緊張が訪れ、冷や汗がエレナの頬を伝う。そのままグッと薙刀を握る手に力を込めた。


(フム。侵入者のもう片方もここまで辿り着いたか)


 姿を消して状況を見ていたウンディーネは子供たちであるにも関わらず全員がこの場に集ったことに感心を示す。


(中々にやりおる。なるほど。つまりこれまでの者とは違う、ということだな)


 未知の遺跡であるのだが、これまで誰にも発見されなかったわけではない。

 数百年の昔、湖の底に沈む前のこと。その誰もが遺跡の中で命を落としている。

 それがどうだろうか。しばらくぶりに侵入者が来たかと思えば、自身に干渉を及ぼす者や精霊王の魔力の残滓を持つ者。分身体の攻撃を掻い潜るどころか魔力の根源を辿ってこの場に来ている者までいるのだから。


(エルフと人間が共に行動しているのを見るのはいつ以来だ……――)


 ウンディーネの知る中でも人間がエルフと過ごすなどほとんど考えられない。特異な事例。


(――……アレは確か人魔戦争だったな、アレ以来になるか)


 かつて人間と魔族の大きな戦争があった人魔戦争。およそ千年前の出来事。


「なるほど、面白い」


 ニヤリと笑みを浮かべるウンディーネ。


「エレナ、今何か言った?」

「いいえ?」


 触手を躱しながら首を傾げるナナシー。


「おかしいわね。今確かになにか聞こえた気がしたのだけど」

「気のせいではありませんの?」

「どうだろう。ねぇエレナはどう思う?」


 現状をどう見るのか。


「……わかりませんわ」

「そうよねぇ。だったら試すしかないわね」

「試す、とは?」

「実は私、ここに来るために使った魔法で魔力がほとんどなくなったのよね」

「はぁ……?」


 ここまでの戦闘における魔法の使用だけでなく、自然の恵みの魔力消費量が大きい。短時間の使用だけならまだしもかなりの距離を探知に使用していることで消耗してしまっていた。しかしそれが何の関係があるのか。


「ねぇエレナ――」


 グンッと地面を踏み抜いたナナシーは顔だけエレナに振り返る。


「――あとのことは頼んだわよ! ちゃんと助けてよね」

「えっ? ちょ、ナナシー!?」


 一直線にナナシーは水イソギンチャクの中に飛び込んでいった。



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