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第三話 王都への道中

 

 冒険者学校入学の前の日の朝、いよいよヨハンが出発することとなる。


 冒険者学校はヨハンの住む村から馬車で半日程かかる山を越えたところにある王城を中心としたシグラム王国のシグラム王都である。


 ヨハンは村に出入りしている行商の馬車の荷台に乗り合わせてもらい向かうこととなっていた。



「ヨハン。もう一度確認するけれど、王都についたらまずは冒険者学校に行き、入学手続きを行った後、ちゃんと寮の方でも手続きをするのよ」

「わかってるよお母さん。心配ばっかりだね」

「だって、いくら強くて凄い魔法を使えてもあなたはまだ子どもなのだから」


 我が子を送り出すのに足りないものはないかと何度も何度も同じことをエリザは確認していた。


「まぁまぁ母さん、ヨハンなら大丈夫さ」


 アトムが半ば呆れた様子でエリザを諭す。


「うーん、わかったわ。それと、行商の人は安全な道を通るから大丈夫だと思うのだけれど、魔物にも十分注意するのよ?」

「わかったよ、じゃあ行くね!」


 そう言うとヨハンは馬車の荷台に飛び乗り、王都に向かい出発した。


 荷台の中には行商の商品の他に同じように王都を目的地とした何人かが乗っており、その中にはフードをかぶり顔がよく見えない者もいた。


「この人たちも王都に行くんだよね」


 見ず知らずの人ばかり。ヨハンも荷台の端にそっと腰を下ろす。




「行ったな」

「えぇ」

「本当に良かったのか?」

「ええ。私たちが諦めたこの世界の謎をあの子が解けるかもしれないと思うとどうしても期待せずにはいられないわ。もちろん同じぐらい不安に感じてしまうこともあるけれど」

「そうだな。俺たちの冒険は一度終わったんだ。次の世代に期待したことを俺たちの子が成し遂げたならこれ以上のことはないな」


 アトムとエリザはヨハンの乗った馬車が遠く見えなくなるまで、いつかヨハンが世界の核心に迫るのではないかと思いを馳せながら見送っていた。





 ガラガラと馬車を数時間程走らせた後、森の中の街道を走っていた馬車がもうすぐ山の麓に差し掛ろうとした頃、周囲の気配が変わる。


 これまで穏やかな道のりの中、静寂を掻き消すかの様な雄叫びが響き渡った。


 それはすぐに馬車の前に姿を現す。


「ま、魔物がでたーー!」

「いやあぁぁぁああ!!」

「おい、こんなところに魔物が出るなんて聞いてないぞ!?」


 御者や荷台に乗っていた何人かが口々に叫び出す。


 魔物は一般人には退治することはできない程強いのが大半で、魔物の発見の報告と同時に冒険者が依頼を受け、討伐しているのが現状である。


 牛の様な顔の人型の魔物がそこにいた。

 体長3メートルはあるかのようで、手には斧を持っている。それが雄叫びをあげ振り上げ馬車に向かい勢いよく振り下ろそうとした瞬間――――。


 ヨハンが周囲の喧騒の中、荷台から飛び出し魔物に斬りかかろうと剣に手をかけていたが、魔物は聞いたこともないような悲鳴をあげ、身体が上半身と下半身の2つに分かれていた。


 そして魔物の向こうには村を出た時に馬車の荷台に乗っていたフードの人物がそこに立っている。手には鞘から抜かれた剣を持っており、剣からは血が滴っていた。


 フードの人物は、ヨハンよりも早く魔物に向かい、さらに魔物を一撃のもと退治したのであった。



 風でフードがめくれ、森の木々の間から差した光が、フードが脱げた顔を照らし出す。

 光を反射した背中まで伸びた綺麗な金髪を靡かせた端正な顔立ちの美少女がそこには立っていた。


 その姿に思わず見惚れてしまう。


「どうしたの?何をぼーっとしているのよ?怖かったかしら?それにしては剣に手をかけているし、もしかして戦う気だったのかしら?」


 美少女のほうからヨハンに話しかけてきた。


「いや、綺麗だなーって」


 すっと口をついて発していた。


「……!? な、何を言っているのよ!」


 思わぬ感想を言われた美少女はキョロキョロ目が泳ぎ、動揺して顔を赤らめる。


「そ、そんなことじゃなくて!あなたが手にかけている剣のことよ!この魔物と戦う気だったの!?」

「うん、そのつもりだったけど、君が先に倒しちゃったね!」

「それはそうだけど、あなたこれに勝てる気だったの?こいつはあなたみたいな子どもに勝てる相手じゃないわよ!」

「って言っても君も子どもじゃないかな?僕とそんなに変わらなくない?僕は12歳になってこれから王都の冒険者学校に入学しに行くんだ。それと、たぶんその魔物には負けないと思うよ?」

「また強がり言っちゃって。まぁ私が倒したから別にいいのだけど。それよりも、私も今年冒険者学校に入学するのよ。じゃあ同い年ね。私はモニカ。あなたは?」


 モニカは歩みながら観察する様にヨハンを見る。


「へぇー、君も入学するんだ。 僕はヨハン、よろしく!」


 ヨハンに差し出された手をモニカが掴み二人は握手を交わした。


「よろしく。ところで、魔物がこんなところに出るなんて聞いたことないのだけれど、どうしたのかしらね?」


 二人で牛の魔物の死骸を見て不思議に思い首を傾げる。



 魔物が普段姿を現さない道に出た謎が疑問に残る中、再び走り出した馬車の荷台で残りの道程を今回の魔物襲撃により知り合ったモニカと改めて自己紹介などをして、お互いの話しをしながら向かう。


 話を聞くと、モニカはヨハンの村に寄る前、もっと遠方の街からやってきたらしい。


 以降、他の人はまた魔物が現れるのではとびくびく怯えていたが、王都に着くまでは特に何事も起きなかったのであった。



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