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第三百九十二話 水中遺跡⑤

 

「ったく、嫌になるわねぇ」


 ザンッと剣を横薙ぎに振るうナナシー。水の獣は一撃の下に両断されるとビチャと地面に落ちる。


「いくら攻撃しても無駄ということですわね」


 エレナの視線の先、両断された水の獣はすぐさま隆起するなり再び水の獣を形作った。


「どうすんだよこれ!?」


 慌てふためくレイン。もう何度となく同じことを繰り返している。


「仕方ありませんわ」

「なんか良い手あんの?」

「レイン、一度アレに噛まれてくださいませ」

「なんでだよっ!?」

「いえ、やはり正体不明の事象は一度行動を起こしてから検証する必要がありますもの」

「だからって俺を実験台にするのおかしくね!?」

「大丈夫だってレイン。エレナも気を紛らわそうとしてくれてるのよ」


 何度となく水の獣を切り払うナナシーの横でレインは内心考えていた。


(いや、ナナシー。それは違う。エレナはそれが有効なら迷うことなく俺をそれに使うさ)


 あくまでも条件付きで、の話だが。

 エレナは為政者として時には無情な判断を下せるということを知っている。それが必要なことであれば間違いなくその判断を下す。


(その辺はちょっと可哀想な時もあるけどな)


 国を導く者に必要な素質。素質といっていいものなのかわからないが、意志の強さは鋼であるべき。


(まぁでも……――)


 冒険者学校に入ってからの付き合いではあるが、エレナの強さも優しさも知ることが出来た。そしてその立場とは真逆であるヨハンへの憧れも。なによりも、犠牲を払うような判断は極力打たないことも理解している。


(――……しゃあねぇか)


 信頼がそれを成すのだからここまで付き合えた。

 犠牲を払わなくて無情でもなければエレナはそれをする可能性がある。


(まぁこんなんでも俺の役割だよな)


 冗談として。

 気を紛らわせているのは一体どちらなのか。


(しっかしあいつもエレナと同じような重責を持ってんのかな?)


 ふと脳裏をかすめたのはマリン。エレナと同じ血筋のマリンは王家の直系。


「なんですの?」

「いや、なんでもねぇ。エレナも大変だなって思ってさ」


 チラリとエレナの横顔を見ながら小さく息を吐いた。


(あいつにそんな責任感なんかねぇわな)


 自分勝手を地でいくマリンに国を背負う責任感などない。あればあれだけ不遜な態度を取っていない。


「何を言ってますのやら」

「いや、すまん。そんでまぁ、実際どうしたらいいんだよ?」

「そうですわね。ナナシー?」


 水の獣を薙刀で斬り払いながらの問いかけ。


「なにエレナ?」


 動きながらエレナはチラリと視界の奥、壁の中腹にある壊れた外壁とぽっかりと開いた穴、奥に通じるらしき通路を見た。


「ナナシーの魔法であそこに届きませんか?」

「あそこって……――」


 エレナの視線の先を確認するナナシー。


「――……届くわ」

「でしたらお願いしますわ」

「ああ、そういうことね」

「レイン」

「あいよ」


 事細かに説明されずともレインはエレナが何を言いたいのかを理解している。

 エレナと二人、ナナシーが抜けた分の水の獣を引き付けるように前に立った。


「ごめんねレイン」

「いいってことよ」


 襲い掛かってくる水の獣。ナナシー一人が抜けただけだが負担は一気に増える。


(チッ)


 内心小さく舌打ちするのは、以前の自分であれば間違いなく弱音を吐いていたという自信があった。

 それでもこの程度ではもう弱音を吐くに値しない。


「ってぇっ!」


 しかし圧倒的に数が多い。

 一気に負担が増すことで迫る水の獣の牙がレインの肩に刺さる。

 プシュッと血を噴くレインは痛みに顔を歪めた。


「踏ん張ってレイン!」

「任せろ!」


 身体を捻って回転させて水の獣を強引に振りほどくと、そのまま回転を維持しながら両の手に持つ短剣を振るうとズバッと水の獣を再び水に返す。


「お待たせ」


 魔力を練り上げていたナナシーが右手をエレナが指定した壁の中腹に伸ばした。


茨の牢獄(スオンプリズン)


 途端にビュルっとナナシーの手から一気に伸びる緑の蔦は壁にある通路の床の跡らしき場所にぐるぐると巻き付く。


「いけそうよ!」


 エレナとレインの二人にナナシーが声を掛けると二人は同時に顔を見合わせた。


「レイン」

「あいよ」


 同時にナナシーの下に駆け出す。


「エレナ!」


 ナナシーが伸ばす左手をパシッとしっかりと掴んだエレナは反対の手をレインに伸ばす。


「しっかり掴まっていてね」


 続けてレインがエレナの手を掴んだのを確認したナナシーは蔦の魔力をグッと感じ取った。


「おわわわっ!」


 蔦は急激な速度を持ってグンッと引き寄せるようにして使用者のナナシーを引っ張り上げる。そのまま手を繋いでいるエレナとレインも引っ張り上げ、レインがいた場所を水の獣の牙が通り過ぎて空を切った。


 ドサッと三人で壁の中腹、穴が開いていた場所に登り上げる。


「ふぅ。上手くいきましたわね」

「どうやら登って来れないみたいね」


 眼下で見上げるように動きを止めている水の獣たち。


「おーい、べろべろべぇ!」

「何をやっているのレイン」


 ナナシーが呆れるのは、おちょくるようにレインが手の平を振って舌を出している。


「ほらっ、そんなことして遊んでいませんと先に進みますわよ」


 振り返り歩き始めるエレナとナナシー。


「へへん。コッチに来れるもんなら来てみろよ!」


 眼下の水の獣は互いに顔を見合わす。


「へ?」


 水の獣が見せる動きにレインは呆気に取られた。


「何を間抜けな声を出していますのよ」


 エレナも呆れながら振り返るのだが、そこには慌てて走り出しているレイン。


「に、逃げろにげろっ!」

「え?」


 レインの背後には水の獣ではなく、水の塊がうねうねとまるでヘビの様に形作っていた。


「「なっ!?」」


 追い越していくレインの後を追うよう途端に走り出すナナシーとエレナ。


「もうっ何やってるのよレイン!」

「俺のせいか!?」

「レインが余計な挑発をしたからではありませんの?」

「…………む、ぅ、す、すまん」


 背後から迫る蛇の頭から逃げる為に走り出したエレナとレインとナナシーは奥に向けて駆け出す。


(それにしても、ここはいったい)


 無形の水が四つ足の獣だろうがヘビを形作ろうがそれはわからないでもない。

 しかし何かが存在、又は介在していなければそれは起こり得ない。


(ヨハンさんとサナは無事なのでしょうか?)


 僅かに脳裏を過る不安。


(無事であれば、二人きりで何もなければいいのですが……)


 二つの意味での不安を抱いていた。



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