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第三十八話 混乱の中

 

 ガタガタと何かに揺られているのを感じる。

 目を覚ますと天井が視界に入ってきた。


「あっ、ヨハン!良かった、気がついた?」


 目の前にモニカが横から顔を覗かせると目が合った。


「……あれ?モニカ?それにここは?」


 頭を押さえながらゆっくりと身体を起こす。


「馬車の荷台よ。ヨハンったら気絶してしまっていたのよ。覚えてないの?」

「…………気絶?――――あっ!?モニカ!!スフィアさんは!?無事なの!?」


 身体を起こしながら倒れる直前までの状況を思い出したヨハンがモニカの両肩を強く掴み、現状を確認する。


「ちょ、ちょっと、痛いってば!スフィアさんなら無事とまでは言えないけれど、とりあえず命は繋ぎとめたわ。――――ほら」


 そう言って荷台に横たわっているスフィアを指差しスフィアの無事を伝えた。


「そっか、良かった」


 スフィアの無事を聞き、安堵の息を漏らす。


「けどね、ちょっと困ったことになってるの」

「えっ?困ったことって?」


 状況の理解が追い付かない。


「順を追って話すけど、そ、それよりも、とにかくちょっと離れてくれない?ち、近いわよ!」


 モニカは顔を赤らめながらヨハンから視線を逸らすのは、両肩を掴まれたまま顔をじっと見つめられていたから。


「あっ!ご、ごめん!」


 パッと慌ててモニカの肩から手を離す。


「そ、それで、困ったことって一体?」


「う、うん、まずはスフィアさんの命が助かったのはさっき言った通りなのだけれど、一向に目を覚まさないのよ。ヨハンも丸1日も目を覚まさなかったから心配したのよ」

「えっ?僕丸1日も寝ていたの!?……そっか――――」


 全く自覚はなかったのだが、それだけの間倒れてしまっていたのか。

 どうしてそれだけ深く眠ってしまっていたのかと考えるのだが答えが見つからない。


「……それで?スフィアさんはどうして起きないの?」

「わからないの。まずは、治療は間違いなく成功して回復しているはずなのよ。もしかするとヨハンと同じでしばらくすると目を覚ますかもしれないけれど、とにかく今は何かできることがあるわけじゃないの」


 スフィアの容体を一通りヨハンに話す。


「そうなんだ…………。それで?まずはってことは、他にも何かあるみたいだけど?」


 口調から判断できる。

 他にも問題が生じていることを即座に理解した。


「他にもというか、スフィアさんに関係することなのだけど、スフィアさんが目を覚まさないってことは、エルフの里の場所がわからないのよ。ほら、だいたいの場所は聞いているけれど、結界が施されているって言っていたじゃない?」


「あっ、そういえば…………」


 エルフの里についての話を思い出す。


 エルフの里はとある森の奥にあり、限られた人間しかその入り方を知らされていない。

 ヨハン達はスフィアがその方法を知っていたので向かっていたのだが、こうなった現状スフィアが起きない限りはエルフの里に入る方法がわからなくなってしまっていた。


「それで、とにかく方角だけは合わせて向かっていて、それまでにスフィアさんが目を覚ませばいいのだけれど、もしこのままなら引き返した方がいいかもって話にもなっているの。ヨハンはどう思う?」

「うーん、王家からの依頼だからなるべくなら達成したいけど、スフィアさんの状態次第では引き返した方がいいだろうね。僕たちの信用よりもまずはスフィアさんの容態の方が大事だよ」


 王家には依頼失敗の報告をしなければならないのだが、比べるまでもない。


「ヨハンならそう言うと思ったわ!」


 モニカは笑顔で応える。


「そういえばレインとエレナは?」


 ふと馬車の中に姿の見えない二人がどうしているかと気になった。

 レインの方は手綱を握っているのだろうが、と推測は出来る。


「二人とも御者台にいるわ。あんなことがあったから一人よりも二人の方が周囲の警戒にあたれると思って」

「なるほど、そっか」


 モニカに言われてヨハンは身体を起こして御者台に顔を出した。モニカも横から顔を出す。


「二人ともごめんね」

「おっ、やっと起きやがったか」


 レインは手綱を握りながらヨハンが目を覚ましたことに嬉しそう顔を綻ばせる。


「しっかし、ヨハンが倒れちまうなんて、あのシトラスってーのはかなりやばい奴だったみたいだな?」

「……うん、かなり強かった」

「そっか。けど、ヨハンが生きてるってことは勝ったんだよな?でもシトラススの死体もなかったぞ?」

「うーん、そこはたぶん痛み分け……かな?シトラスには逃げられたんだ。僕が倒れていたのは、たぶんスフィアさんの魔剣を使ったせいだと思う」


 シトラスとの戦いの一部始終を思い出して、そのまま話して聞かせた。


「――――おそらくその通りだと思いますわ」


 エレナはヨハンの意見に同意し、そのまま言葉を続ける。


「魔剣は所持者を選びます。選ばれていない者が魔剣を使おうとしても本来の十分の一の性能も引き出せないと言われていますわ。ヨハンさんはきっと選ばれていない者であったにも関わらず魔剣の性能を本来の性能程まで引き出したのだと思われます。どういう作用が働いたのかはわかりませんが、その疲労感はその為だと思われますわ」


 エレナは独自の見解を述べた。


「それにしても、スフィアさんの魔剣って凄いのね!まさか複数の属性の魔法効果を同時発動できるなんて!」


 話を聞いていたモニカはスフィアの魔剣の特性に関心を示す。


 スフィアの魔剣は剣に複数の属性を付与するものだった。

 使用者の属性の得意不得意に関わらず、全ての属性を高ランクの水準で付与できる。

 魔法剣のように単属性を付与するのとは違って、複数付与することでその威力は飛躍的に上がっていた。


 エレナによる見解なのだが、ヨハンが使用できたのは、元々異なる属性の魔法の同時使用をできたためだろうということ。そんな人間をエレナは知らないのだと言う。

 そして、シトラスの召喚したアンデットに対してはまだ練度が足りなく、魔力の消費も大きかったので結果倒れてしまうことになってしまったのだろう、と。


 しかし、スフィアの魔剣の使用があの場を切り抜ける最適解であったことには間違いはなかったと判断する。




 それから先は、今後の予定について確認をする。

 ここまでの行程はエルフの里までの半分以上を過ぎている見通しを持った。


 だが、方角だけを合わせた中で進んでいても、スフィアの容態も変わらず未だ目を覚まさない。

 呼吸は落ち着いているので、とにかく先を進む事にしていた。

 アンデットベアとシトラスの一件以外に旅は大きなトラブルや出来事もない。



 ケドナ山脈を越え、進んだその先で小さな村を見つけた。

 その村でエルフに関する何か情報を得られないかと立ち寄ることにする。


 村の入り口には看板が建てかけられており、フルエ村と書かれていた。



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