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第三百八十七話 林間学校⑤

 

(次も……違う)


 次の料理は山菜とコットンラビットの肉炒め。


(サナ、料理本当に上手だなぁ)


 つい比較してしまったのはナナシーの料理と。

 家庭的な雰囲気を感じるその料理は薄めの味付けなのだが、素材の味を十分に生かした料理。


「美味しいよサナ」

「えっ!?」

「あっ」


 カレンの料理ではなかったことの安堵から思わずサナの名前を口にしてしまう。


「っつうううう!」


 叫びたい衝動を抑えてサナは口許に手を当てピョンピョンと跳ね、そのまま着地して小刻みに足踏みするなり大きく深呼吸をすると、どうだとばかりにすぐさまフフンと満面の笑みをエレナとモニカに向ける。


「ヨハンさん。どうしてサナだと?」


 サナの動きに内心腹立たしさを得ながらもエレナが問い掛けた。


「あっ、いや、別にサナだけじゃなく、エレナとモニカのもわかったつもりだったんだけど?」

「え?」

「最初のがエレナで、二番目のがモニカだよね?」


 ヨハンの推測と一致していることにポカンとさせる。


「……正解、ですわ」

「良かった」


 返すように腰に手を当てニコリと笑みをサナに向けた。


「だったら、目隠ししても無駄だったってこと?」


 首を傾け問い掛けるモニカ。


「あー、うん、結果的にそうなっちゃったみたいだけど、でも三人とも凄く美味しかったよ。なんていうか、三人の個性がちゃんと出ていたからわかったっていうのかな?」

「……そう、でしたか」

「だから優劣なんてつけられないよ。三人には三人の良さがちゃんとあるんだから」


 その言葉が聞けただけでも十分。むしろ見事に言い当てられただけでも気持ちとしては嬉しい。

 勝負は無駄ではなかったのだと。そうしてエレナは仕方なしとばかりにカレンに目線を向ける。


「でしたらカレンさんの料理が一番だと言って頂いても構いませんわ」

「あっ、エレナさん、それはないから大丈夫だよ」

「え?」


 途端に口を挟むニーナ。もう結論、結果は出ていた。ある意味勝負は決している。


「どうしてニーナ?」

「お姉ちゃんも見ればわかるんじゃない?」

「なに言ってんだニーナ?」


 ニーナの言葉の意味がわからない一同なのだが、レインが残る一つのクローシュを外した瞬間に全員が硬直した。そうしてニーナの言葉の意味をすぐに理解する。その皿の上にある黒い塊を見て。


「ちょ、ちょっと失敗しちゃったみたいなの。焼き過ぎたのかしら? ほら、コットンラビットのお肉ってすぐ焦げちゃうでしょ?」


 ニコリと誤魔化すような笑みを作るカレン。直後もわっと周囲に異臭を放つ。


「で、でも、食べたら美味しいはずだから! 誰が調理しても美味しいのがコットンラビットなのよ」


 慌てて訂正するカレンなのだが、とてもそうは見えない。


(……食べられないですわコレ)

(……焼きすぎ? そんなレベルじゃないわよ)

(……マズそう)


 憐れみにも似た表情でエレナとモニカとサナはカレンを見た。


「だ、だって仕方ないじゃない! あなた達が急に料理勝負だなんて言い出すから、こっちも心の準備ってものができてなかったのよ!」


 口数多く言い訳を捲し立てる中、レインも考える。


(おいおい、これどうやって収拾つけるんだよ)


 内心、これをヨハンに食べさせることに罪悪感が生じていた。さすがにいくらなんでも可哀想だと。


「とにかく、一度食べてみてから判断しなさいヨハン! それでダメなら諦めるから!」

「ええっ!?」

「食べてもらってないのにおめおめと負けを認められないわよっ!」


 この流れでいけば食べなくて済むかもしれないと期待したのだが、どうやらそうもいかない。急いで解毒と治癒をするために魔力を練り上げた。


(すまん、ヨハン!)


 ヨハンの口にプルプルと手を震わせながらフォークを運ぶレイン。

 これが生み出す結果に抱く恐れ。

 ヨハンの口の中に黒い塊が入ろうとしたその瞬間。


「ちょっとあなた達!」


 バンッと勢いよく扉を開けられた。


「せ、先生!?」


 その場に姿を見せたのはシェバンニ。


「えっ?」


 先生、と聞こえたことにより無意識に反応するレインの身体。

 聞こえた声からして相手は間違いなくシェバンニ。これまで何度となく怒られ続けたことが咄嗟にその行動、反射的にレインの身体を動かす。

 瞬時に黒い塊を隠蔽しようと、手に持っていたフォークを急回転させ自分の口の中に隠した。もぐもぐごっくん、と。


「ここにニーナがいるというのは本当ですか!?」


 しかし用件はまた別。レインは何もしていない。

 そのままシェバンニは視界にニーナを捉える。


「あなたはまた勝手なことして!」

「ご、ごめんなさい」


 すぐさま謝罪を口にするニーナに呆れながら溜め息を吐くシェバンニ。


「ついこの間話したばかりでしょう!」

「そうだけど、楽しそうだったから」


 その様子をモニカ達は呆気に取られながら見ていた。


「ちょ、ちょっと何がどうなってるのレイン?」


 声だけでは状況の理解が追い付かない。何が起きているのかと目隠しを外すヨハンの先には泡を吹いて倒れているレイン。


「ぐっ、ぐうっ……」

「れ、レインっ! しっかりして! レイン!」


 必死に呼びかける。


「ダメだ! 早く治癒魔法を施さないと!」


 急いで治癒魔法と解毒魔法を施す。

 予め想定していたおかげで以前よりも手早く処置することができた。


「何が起きているのですか?」

「「「「…………」」」」


 シェバンニはただニーナがいるという他の学生の目撃情報を元にここに来ただけ。

 そのため状況が理解できずにエレナ達に問い掛けるのだが、エレナ達の視線の先にはカレン。ヨハンが無事でレインが倒れている。

 どう答えたらいいものなのかわからず答えをカレンに任せることにした。


「先生。レインはどうやら山で採れた毒草を口にしたみたいですのでヨハンはその治療を」

「毒草を?」

「はい」

「これだけいるのに毒草の見分けも出来なかったのですか?」


 卓越した知識があるエレナとカレンだけでなく野草に詳しいエルフのナナシーもいるのだから。


「申し訳ありません。私の不徳の致すところです。既に調理を終えていたので見分けがつきませんでした」

「そうですか。あの様子なら死にはしないでしょうけど、気を付けてもらいませんと」

「はい」

「え? さっきから何を言ってるの? 違うよ?」


 キョトンとしながらシェバンニとカレンの二人を見るニーナ。


「なんですかニーナ?」

「だからレインさんが倒れたのは――」

「先生はニーナを探しに来たのですよね?」


 ニーナの言葉を遮るカレン。微妙に唇をヒクヒクとさせている。


「ええ。あなたも臨時とはいえ教師になったのですから、ニーナに甘い顔も程々にしてください。ルールを守らせないと」

「はい。申し訳ありません」

「いや、だから違うって!」

「ニーナ? ここはもう帝国ではないの。わたしも学校について学ばないといけないからニーナもしっかり学んでね」

「カレンさんっ!?」


 ニコッと笑みを向けるカレンに対してあんぐりと口を開けるニーナ。


「では後のことは任せますね。私はニーナと少し話がありますから」

「わかりました」

「だーかーらーっ!」


 確かに勝手に付いて来たのだが、事態が捻じ曲げられている。


「ちょ、ちょっとカレンさん!」

「文句は後で聞きますからとにかくあなたはこちらに来なさい」

「いってらっしゃい」


 ずるずると引っ張られていくニーナに対してニコニコと手を振って見送っているカレン。


「さてっと。邪魔が入ったら仕方ないわね。シェバンニ先生もああ言っていることだし今回の料理勝負は無効試合、ということでいいかしら?」

「「「「…………」」」」


 理不尽なまでの発言。思わず呆気に取られてしまう。

 そうしてシェバンニの介入を良いことにうやむやにされてしまったのだが、カレンに対する共通理解は得られた。


(今後カレンさんに料理をさせてはいけませんわね)

(こんなに素敵な人なのに、苦手なことあったんだ)

(少なくとも、料理だけは私が勝ってるわ)


 似たような見解を。



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