第三十七話 もうひとつの歩み
――――時は少し遡り、ヨハン達が出発する前日。
ガルドフとシェバンニは冒険者学校の校長室で話をしていた。
「…………そうですか、わかりました。しばらくの間は私の方でなんとかしてはおきますが、なるべく早く帰って来て下さいね。あなたは自覚がないでしょうけど影響力のある方なのですから」
「ああ、すまない。ただこればかりはいつになるとは言えんからのぉ…………。まぁなるべく早く戻れるようにするわい」
「ではお気をつけて」
「ああ、行ってくる」
そう言って旅支度を整えたガルドフは校長室を出ていった。
――――数時間後、イリナ村にて。
ヨハンの生まれ育った村、イリナ村にそれは突然やってきた。
村の青年の男が慌てた様子でヨハンの父アトムのいる家に転がり込んでくる。
「ア、アトムは、い、いるか!?」
ぜぇぜぇと息を切らしながらその男はアトムの名前を叫ぶ。
「ああん?クリフトじゃねぇか。一体どうしたんだい、そんなに慌ててよぉ」
家の中でアトムは寛いでいた。
突然入ってきた男に対してアトムは努めて冷静に話しかける。
「た、大変なんだ!突然空から人が降ってきたんだ!それがアトムを出せと言っている!」
「俺かい?んーー?空から人が降ってくるって、そんなあのおっさんじゃあるまいし」
アトムは身に覚えがないと頭を捻っていたら奥からヨハンの母エリザが顔を出した。
「どうしたの?騒がしいわね。 あら、クリフトさんじゃない。いらっしゃい」
「エリザさん!そんな呑気にしてないで!突然空から現れた大男がアトムを出せって言ってるんだ!早く逃げないと!」
「空から大男って…………もしかして、あの人のことかしら?」
「いやいやエリザ、んなわけあるかい。今ガルドフが俺達のとこになんの用で――――」
「とにかく!早く!」
クリフトが大男の異様さを伝えようとしたところに、クリフトを大きな影が覆う。
後ろから大男が入ってきた。
「こ、こいつだ!」
「いやいやいや、おい、おっさん!何しに来たんだ!?」
「おお、アトムにエリザ。やっと見つけたぞ」
「こ、この男が空から降ってきたんだ!」
「あら、ガルドフ。久しぶりね。いらっしゃい」
クリフトが伝えようとしたその異様さは、空から降ってくることはもちろんだったが、それ以上にその出で立ちだった。
上半身裸の筋肉隆々の大男が突然目の前に現れれば誰だって恐ろしい。
「ああー…………うん、クリフト、すまん。このおっさん俺らの知り合いだわ」
「……へっ?」
突然現れた大男ガルドフ。
クリフトにはスフィンクスのことを伏せながら苦しい言い訳を交えてその場を取り繕い帰ってもらう。
「アトムにエリザさんがあんな変態男と知り合いってどういうことなんだ?」
クリフトは納得がいかず帰り道で何度も首を傾げていた。
「――――それで?おっさんが何の連絡もなしに来たってことは碌な話じゃねぇよな?」
「ああ、間違いなく良い話ではないな。それよりもまず、ほれ、お主等の息子、ヨハンのことは聞かんで良いのか?」
「まぁ!ヨハンは元気にしてますか!?」
「元気も元気じゃ、今は王家の依頼を受けてエルフの里に行っておる」
「って、おいちょっと待て!なんだっていきなり王家の依頼でエルフの里なんだ!?話が突飛過ぎる!」
「まぁ落ち着け。全て関係しておる。順を追って話す」
それからガルドフはアトムとエリザの下に来た理由を話した。
その中にはヨハンのことはもちろん、王家から頼まれたことも含まれており、ガルドフの話を聞いていたアトムとエリザはヨハンの話を聞いていた時の笑顔から徐々に表情を曇らせていった。
「―――くっそ、あの野郎、ふざけやがって!」
「こらっ!王様のことをあの野郎なんて呼ばないの!っていってもあなたと彼の関係だから、ま、仕方ないわね。けど、ガルドフ、今の話本当なの?」
エリザは不安気にガルドフに声を掛ける。
「それはわからん。だが、放っておけん。確認も必要じゃ。だからお主等の力を借りに来たのじゃ」
「ちっ、こんなの聞いちまった以上知らないで済ませられるかよ!」
「ふふっ、アトムはこう言ってるけど、本当はローファスのことが心配で仕方ないのよね」
「うむ、わかっておる。急な話ですまないの」
「おっさんが謝ることじゃねぇ。悪いのはあの野ろ――――いや、それも違うか。悪いのはそもそもの元凶だな。元凶って言っていいのかどうか…………。まぁいい、それで、シルビア姐さんは?」
アトムはどこか言い淀み、ここにいない人物の名を口にする。
「それが問題じゃな。まずは探さないといかん」
「ああーもうどいつもこいつも!エリザ行くぞ!」
「ええ。いつかはそう言うと思っていつでも出れるように準備はしていますよ」
「さすが!」
「では行くとするか」
そうしてガルドフはアトムとエリザを伴ってイリナ村を出る。
かつて大陸最強パーティーと呼ばれたスフィンクスが再び結成され、動き始めた。




