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第三百七十六話 閑話 魔灯石採掘護衛依頼⑥

 

「モニカ!」


 僅かに段差のある場所から先にジャイアントアントの群れの中に飛び込んだのはモニカ。


「任せて!」


 モニカはジャイアントアントの群れの中に飛び降りるなり長剣をスラっと抜き放つとすぐさま周囲のジャイアントアントを五匹、即座に斬り伏せる。


「エレナっ!」

「お任せくださいませ」


 そのモニカの前方にヨハンとエレナが同時に着地するなりエレナは前方にいるジャイアントアントに向かって大きく薙刀、魔剣シルザリを大きく振るった。

 ゴオッと大きく突風を発生させるその魔剣シルザリの固有能力によって十数匹のジャイアントアントは大きく吹き飛ばされる。


「よしっ!」


 女王蟻目掛けての道。それでも立ち塞がるジャイアントアントはまだ数十匹はいた。

 しかしヨハンは躊躇することなく、ダンッと地面を勢いよく踏み抜いて真っ直ぐに駆けだす。


「ギッ!?」


 突然の襲撃。

 突如として巣の中に生じる事態に対してジャイアントアントの女王は襲撃者の正体を確認した。小さな存在、人間が三人。

 それと同時に女王を守る為に周囲の蟻も通路を塞ぐように再び立ち塞がろうと動き出す。

 カサカサと六つの足を動かしながらギチギチと鋏を鳴らしてヨハン達目掛けて襲い掛かった。


「ふっ!」


 小さく息を吐いて掛ける足を止めることなくジャイアントアントを斬り倒していく。


「!?」


 思わず目を疑う女王蟻。自身の子である兵隊蟻がまるで相手になっていない。その様子を見て危機を感じ取った。生存本能が告げる。命を脅かす存在が現れたのだと。


「?」


 ヨハンの視線の先、女王蟻は大きく顎を開けた。


「っ!?」


 思わずその場から後方に飛び退く。吐き出されたのは多量の液体。

 ジュッと音を立てる液体は女王蟻とヨハンの間にある地面を溶かしており、巻き込まれた兵隊蟻は朽ち落ちている。


「モニカっ! エレナっ!」


 大きくモニカとエレナに声を掛けたのは、女王蟻は離れた場所にいる二人に目掛けて先程の液体を弾にして飛ばしていた。


「「!?」」


 ヨハンの声に反応したモニカとエレナは大きく跳躍して躱すと、液体弾は再び兵隊蟻に直撃してジュウッと音を立てて溶ける。


「どうやら酸性の体液のようですわね」

「喰らえばひとたまりもないってことね」

「大丈夫? 二人とも」


 動きを止められたヨハン達。

 問い掛けに対してモニカとエレナは顔を見合わせ、一瞬だけ目を丸めたのだがすぐにニヤッと笑い合った。


「心配?」

「それとも頼りないですか?」

「そんなことはないけど……――」


 久しぶりに見るモニカの剣の冴えは以前の比ではない。称賛したくなる程であり、純粋な剣技ではやはりモニカには及ばないと改めて感じている。

 エレナにしても同じ。ヨハンとモニカの二人の動きに合わせて見事にフォローしてくれていた。


「――……二人とも凄く強くなってるよ」

「ヨハンに言われてもね」

「ですわ」


 抱く感想はモニカとエレナにしても同じ。

 ヨハンの動きが覚えのある姿よりも遥かに洗練されている。一瞬一瞬が惚れ直す程の技の冴え。


(負けていられないわね)

(この横に立てるようになりませんと)


 ヨハンの力に頼ってばかりはいられない。それだけの鍛錬を、負けないだけ強くなった自信もあった。


「……でも中々女王には辿り着けないわね」

「やっぱりこう数が多いと、ね」


 既に周囲を取り囲まれている。

 しかし警戒するべきはそこではない。女王蟻の行動に最大の警戒心を抱かなければならない。



「お、おい!」

「大丈夫よ」


 遠くからヨハン達が絶体絶命に陥ったと見るグスタボなのだがカレンの眼には違って見えていた。


(ちょっと妬けるわね)


 ヨハンの戦い方。

 明らかにモニカとエレナを信頼したその立ち回り。ニーナと共闘しているのを見ている時にも抱いていた同種の念。願わくばその隣に立ちたいと思うのだがあれだけの直接的な戦闘力をカレンは持ち合わせていない。


(だったらわたしはわたしにしか出来ないことをすればいいだけよ)


 自身の最大の武器は精霊術。誰もが持ち得ないその能力(ちから)


「しかしどうするのだ!?」

「こう、するのよ」


 胸元の翡翠の魔石が大きく輝きを放つなりカレンの周囲に可視化される微精霊たち。

 腕を伸ばして一直線に放たれるのは地面を凍らせる程の強烈な冷気。

 パキパキと音を立ててジャイアントアントを凍らせながら女王目掛けて冷気が伸びていった。


「……すごっ」

「……ええ」


 モニカとエレナが見届けるのは圧倒的なまでの魔法。これだけの魔法など学内どころか王国の魔法師団でもそうそういない。


「ヨハンっ!」


 突然放たれた驚異的な精霊魔法にグスタボが腰を抜かして尻もちを着き呆然とする中、カレンはヨハンに大きく声を掛ける。


「はいっ!」


 伸びる冷気を女王は相殺する為に溶解液を吐き出していた。

 カレンの行動の意図。それを正確に汲み取る。

 女王まで伸びる氷の道。跳躍したヨハンは飛び乗るなり女王目掛けて駆け出した。


「――キシャアアアアアアアアア!」


 思わず耳を塞ぎたくなるような女王が放つ高音。しかし怯むことなく女王を標的に捉える。


「!?」


 もう間もなく女王まで到達しようというところで上方から気配を感じ取った。


「ちっ!」


 僅かに駆ける速度を落とさざるを得ないのはおびただしい数の兵隊蟻が降り注ぐ。

 それでもザンッ、ザンッと斬り伏せながら女王までの距離を詰めていった。

 数の多さに時間が掛かってしまうが確実に近付いている。


 氷の道の周囲ではモニカとエレナがヨハンに近付かせまいと兵隊蟻を掃討しており、女王から放たれる溶解液はカレンが精霊術で相殺していた。


「あと少しっ!」


 もう間もなく直接的な距離に到達できるところで溶解液を飛ばし続けていたジャイアントアントの女王は後ろに向けて振り返る。


「アイツ逃げる気よ!」


 モニカの言葉通り、巣に踏み込んで来た脅威を排除できないことを悟った女王は巣を放棄して退避する道を選んでいた。これ以上は無駄だと判断する。生存本能がそうさせた。

 女王からすれば自身さえいればいくらでも兵隊蟻を生み出せる。通常、魔素によって生み出される魔物とは違う生態系を築くことができるジャイアントアント。


「ヨハンさんっ!」

「うんっ!」


 退避を選択するということは、恐らくこれ以上女王に手は残されていないのだと。

 ようやく降り注ぐ兵隊蟻を掃討させたのだが再び距離を取られてしまった。


(剣閃だったら)


 女王に一撃を届かせられる。


「あれ?」


 そう思いながら剣の柄をグッと強く握りしめながら闘気と魔力を流し込ませたのだが、女王が向かっている先にある斜め上方、大きな穴の中から微かに叫び声が聞こえて来た。



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