第三百七十一話 閑話 魔灯石採掘護衛依頼①
次の休日、ヨハンの帰還祝いとカレンとの親睦を兼ねて、久しぶりに冒険者として活動をすることになった。レインの発案である。
(俺自身もこの人がどういう人なのか知っとかないとな)
そこにはカレン以外にヨハン、レイン、モニカ、エレナ、ニーナの六人。
「カレンさんがまだDランクだからあまり大きな依頼は受けられないね」
「ごめんなさい。合わせてもらって」
そう話しながら立っているのはギルド内の依頼が貼り出されている掲示板。
「そういえばあなた達のランクは?」
「わたくし達はBランクですわ」
「えっ!? 凄いじゃない!」
カレンがシグラム王国に来てから知ったこと。冒険者学校の学生におけるランク制度。
エレナ達が学生の間に、それも二学年で既に最高ランクであるBランクに到達していることに驚いた。
「っていってもヨハンがS級だから私たちなんて霞んじゃうけどね」
「そんなことないわよ。帝国でもBランクともなるとそんなに多くはないし、もちろん一般的には十分上位よ?」
ヨハンやニーナからある程度は聞いていたが、何気なく話すことからしても相当な実力があるのだと。
駆け出しのE、半人前のD、一人前のC、中級のB、上級のA、超級のS。それはどこの国であっても冒険者ギルド共通の概念。
ヨハンがいない時にも活動を重ねての現在地。
(ヨハンとニーナが一目置くだけあるみたいね)
とはいうものの、実際はカレンの想像以上であり、通常の学生の実力など遥かに超越している。
シルビアを中心に鍛え上げられた三人は既にB級の域ではない。
「じゃあ今日は親睦の意味合いが強いみたいだからお互いを知れるような依頼にしたらいいんだよね」
「そうですわね」
そうして多くの依頼が貼り出されているのを確認しながら依頼を見繕うのだが、どれにしようかと悩ませる。
「あっ、ねぇ、それならこれだったらどう? 低ランクだし、問題もなさそうよ」
「え?」
カレンがその中から一枚の依頼書を剥がして他のメンバーに見せる。
そこにはこう書かれていた。
『森に発生したスライムを討伐』と。
「それだけは絶対に嫌!」
「それだけは絶対に受けませんわ!」
「それは絶対に受けない!」
はっきりと断言するモニカとエレナとニーナ。あまりの剣幕にカレンはビクッと驚く。
「ど、どうしたの? そんなに嫌がって。スライムなんて弱い魔物でしょ?」
「どうしても嫌ですそれだけはっ!」
「ええ。スライムだけはダメですわ」
「ええっ!?」
「カレンさんは知らないんだよ! アイツの厄介さを!」
まるで理解できない。どうしてこれだけ拒否されるのかを。
(……まだあのこと覚えてるんだ)
いつかのスライム大量発生による散々だった出来事。きっかけはレインとニーナによるものだったがいい思い出ではない。
(俺はスライムを受けるのはやぶさかではないがな)
レインとしてはもう一度受けてみたい気もしているのだが、言えば痛い目に合うのは目に見えていた。
「えっと……じゃ、じゃあ……――」
カレンはスライム討伐の依頼書を掲示板に戻し、他の依頼書に目を通す。
「それならこれとかは? 難易度も高くないわよ?」
カレンが次に提示したのは、『鉱山への魔石採掘の護衛』と書かれていたもの。
モニカ達は互いに目を見合わせ、小さく頷き合った。
「そうね。それなら」
「ええ。当たり障りないですわね」
「うん! それにしようよ!」
表題、見出しには変なところは見当たらない。
「じゃあヨハン、これをお願い」
「わかりました」
ヨハンに依頼書を手渡し受付に行く間、カレンは考える。
(同じDランクの依頼なのにどうしてこれほどの差があるのかしら?)
と、どうしてスライムをあれだけ嫌がられていたのか疑問を抱いていたのだが、その後ろではレインが頭を悩ませていた。
(しかし惜しい。カレンさんが絡むとどんな相乗効果を発揮するのかそれはそれで興味があったんだけどなぁ。あぁ惜しい)
命と天秤に掛けるかどうかの選択を。
「じゃあ行こっか」
今回の依頼は護衛。そのため先に依頼人に会いに行く必要がある。
向かった先は東地区。魔石発掘の依頼を出したのはそこの工房、家具製造業の男。
「すいません。グスタボさんという方はいますか?」
工房で働いている男に声をかけると疑問符を浮かべられた。
「あんたたちは?」
「ギルドで依頼を受けてきました」
「ああ。そういうことか。おやっさぁん!」
男が大きく声をかけると、工房の中から姿を見せたのは中肉中背髭面男。見た目通りに工房職人といったところ。
「なんだ?」
「ギルドからですぜ」
「おお、お前たちが受けてくれたか」
それだけで依頼人、グスタボは理解する。そのままヨハン達をジッと見た。
「んー。見たところ冒険者学校の学生か?」
「はい。学生だと何か不都合がありますか?」
「ああいや、それほどたいしたことではない。俺の仕事は鉱山にある魔灯石という……お前たちは魔灯石をもちろん知っているよな?」
「もちろんよ。そこら中の街灯に埋め込まれているし、家の中でも様々な用途で使用されているんだからもちろん知っているわ」
モニカの返答にグスタボは笑みを浮かべる。
「問題ないようだな。うちはその魔灯石を使って様々な照明器具を作っているのだ」
魔灯石。
今となっては生活において必需品。大陸中の多くの街で魔灯石の加工・取付・製造・販売がされていた。魔灯石はその魔石自身が魔力を帯びており自発的に発光している。
洞窟内で見られる魔灯石はその埋まっている場所から恒久的に魔力を得られるのだが、そこから取り出した魔石は一定期間経つと魔力が枯渇して光を灯さない。小さな村では単純な火を用いて照明代わりに用いることもあるのだが、現代に置いては原始的。魔灯石の利便性が証明された今その需要は多い。
魔灯石の加工は採掘後に魔力が漏れ出ないように遮断する仕組みを作り、自発的な発光を照明器具として活用出来るようにする。その後は魔灯石自体の魔力の枯渇後にも簡単な魔力を流すことである程度の期間、数年単位で再び光を灯す、そういった仕組みを作るという仕事だった。
「それで、その魔灯石を採りに行くのに護衛をすればいいのですね」
「ああ。最近魔物の動きが活発になってきておるようだしな。それに野盗も出る。魔灯石自体はそれほど希少でもないのだが、その過程でたまに出る希少価値の高い魔石を狙う輩もおる。それでなくともせっかく手に入れたものをみすみす奪われるわけにはいかん」
「それもそうですね。わかりました」
「ほっ、学生にしてはえらく自信があるようだな。学生によっては王都外の依頼に対してはへっぴり腰になって依頼を辞退するものもおるというのに。まぁ魔物や野盗が出ると聞けばそれもわからんでもないがな」
値踏みする様にヨハン達を見るグスタボは物怖じしない様子を見せるヨハン達に感心する。
「しかしこっちもわざわざ金を出してこうして依頼をだしているのだ。自信がないでは話にならん」
「魔物とか野盗とかその辺は気にしなくて大丈夫だよ。ねぇお兄ちゃん?」
「そうだねニーナ。まぁそこは任せて下さい」
「……それほど気軽に安請け合いされると逆に不安になるのだが」
軽く脅しの意味も込めて口にしたのだがまるで意に介さない様子にグスタボは呆気に取られた。
「だがこちらも依頼料は安いし選り好みできる立場でもないから仕方ないか。ではすぐに準備をする。おい! ちょっと出かけてくる」
近くにいる職人に声を掛けるとすぐさま工房の奥に姿を消す。
そうして向かう先は王都近郊にある鉱山。




