第三百五十 話 特別閑話 古代文明
時は遡ること帝都出発の前日。孤児院の多目的室にて。
孤児院の中では大部屋に位置するその部屋。木卓がいくつも並べられたその部屋の中、何人もの子供たちがお絵描きや本読みなどに興じていた。
「ないなぁ……」
ヨハンはその中にある大きな本棚に指を送りながら目を通している。アイシャに頼まれていた料理本を探していたのだがどうにも見つからない。
「ねぇねぇヨハンおにいちゃん」
「どうしたのトーマ?」
トタトタと音を立てながら、黒髪のつぶらな目をした小さな子供、トーマがヨハンの下に小走りで来る。腕の中には大きな本を抱えていた。
「おにいちゃんもうすぐでていくんでしょ?」
寂しそうな視線をトーマはヨハンに向ける。
「うん。ごめんね明日になったら出発するんだ」
次はいつ帝都に来ることができるのかわからない。
トーマは孤児院の中でも特にヨハンに懐いていた子。会えなくなることはヨハンとしても寂しかった。
「だったらこれよんで!」
「え?」
突き出された本を見て思わず目をパチパチとさせる。
「これって……――」
その本には見覚えがあった。
「ここのえほんだよ? さっきみつけたんだ!」
「そぅ」
トーマから本を受け取ったヨハンは思わず笑みをこぼす。
(――……まさかこんなところにもアインツの本が置いてあったんだね)
幼い頃に何度も読んで貰った物語。母エリザにいくつもの物語を読み聞かせてもらったことを自然と思い出していた。
(懐かしいな)
その中でもトーマが見せたのはヨハンが特に好きな作品群である。
シリーズ【アインツの冒険譚】。英雄譚とはまた違うその独特な物語に何故かどこか惹かれていた。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ」
首を傾げるトーマを見て微笑み返す。
思わず当時の自分と重ねてしまうのは、ヨハンもまた同じようにこうして母にねだって読んでもらっていた。
「だめかなぁ?」
「いや、いいよ。わかった。じゃあ読むね。こっちに来て」
「うんっ!」
近くの長椅子に座り、ちょこんと横に座るトーマはわくわくと目を輝かせている。
(『迷宮遺跡探索編』、か。ちょっとこの子には難しい内容かもね)
本のタイトルを見て思い出す、記憶の中にあるその本の内容。
それは、アインツ達が未知の遺跡を見つけたのだが、思わぬ事態に遭遇し、その危機を脱するという内容の本。
「えっと…………昔々、冒険者アインツ達は頼れる仲間達と深い森の中で見つけた遺跡に入ることにした」
「いせきってなぁに?」
「あー……遺跡かぁ。そうだね、遺跡はね、大昔にあった町や文明のことなんだよ」
「むかしのまち? ぶんめい?」
「昔の人が頑張って作ったんだけど、壊れて今は使えなくなったところのことだね」
「……ふぅん」
わかっているような、わかっていないような、どちらともいえないような曖昧な返事を返すトーマ。
(そういえば母さんの読み方ってわかりやすかったなぁ)
何冊も読んでもらっているにもかかわらずわからないことはほとんどなかった。今思い返せばその年頃には難しい内容のものも確実にあったはず。
トーマ同様、ヨハンもわからないことを何度もこうして同じように質問をしていたのに、いつも母エリザはヨハンにわかり易いように解説も添えて教えてくれていた。
(僕も同じようにしないとね)
憧れが昂じて今に至る。興味を持つことで抱く冒険者への憧れ。
「それでぇ?」
「あっ、ごめんごめん」
首を傾けて問い掛けられたことで再び絵本の内容に視線を戻した。
「それで、そのアインツ達は仲間と一緒にその遺跡の中に入っていったんだよ」
鬱蒼と生い茂る深い森の中にあるその遺跡。遺跡探索に向かったのはその時六人。
茶髪の剣士アインツに金髪魔導士エルネア。同じく金髪であるが魔女の様な風貌のシルフィ。筋骨隆々の戦士ガンドロフは白髪交じり。物語にはいつもこの四人が出てくる。
(でもこの時は他に二人の仲間がいたんだよね)
常に行動を共にしている四人の他に二人の仲間。
アインツの弟子である金髪の剣士ラーハルに薄緑色の髪のエルフの女性クリス。
(そういえばエルフだったなぁ)
目にすること自体稀少な種族エルフ。以前読んでもらった時はそのことに一切の疑問を抱かなかった。
そうしてヨハンが読み進める絵本。
未到地を探索中に偶然見つけた遺跡。王国に帰って報告しても良かったのだが、中の調査には一定以上の危険が生じるもの。どんな危険があるのか想像もできない。となれば被害を最小限にするためには可能な限りの事前調査は必要。
『――なぁ、これ、遺跡なんだよな?』
壁の苔を払いながらアインツが口にする疑問。
『そうね。でも、明らかに今よりももっと高度な文明が築かれていたみたいね』
同じようにして疑問を抱くエルネアなのだが、どうにも遺跡内部の構成物がおかしい。遺跡にしてはしっかりとした構造であり、それどころか現在の技術ではおよそ作れそうにない素材や技術も使われている様子。
本来、今よりも文明が発達していないのであれば洞窟の様な構造を想像していたのだが、遺跡は掘り進められているというよりも、どう見ても建造物。
大昔にこれだけの建造物が建てられるとは考えにくい。それに遺跡が埋まっていた大きな草木の様子、深い森の中にあったことも相まって相当な年数が経過している。近年にこれだけの建造物が建てられたのであれば何かしらの資料があっても良い。しかしその資料は王国に存在しない。誰もこの遺跡の存在を知らない。
『フム。どうやらこれは古代遺跡のようじゃな』
『ってことは古代の遺物か。なるほどな』
『だとすると、気を引き締めねばならんの』
シルフィの言葉にそれぞれが顔を見合わせる。
まだ全容が解明されていない古代文明。今とは違う歴史を辿ったのではないかと言われるその文明の遺産が極々稀に発見されていた。
それぞれが緊張感を高めるのは、古代文明の中には危険な物も多く発見されているため。
「どうしてキケンなの?」
「よくわかっていないから、いろんな人がそれを研究しているみたいなんだよ」
魔力が暴発するものや姿を一瞬にして消すものなど。不明なものばかりなのだが大半は壊れている。
「あぶないのに?」
そんなものをどうして研究するのだろうかという疑問をトーマは抱いていた。
「……そうだね。じゃあトーマ、一つだけ教えてもらえる?」
「え? うん」
「トーマはどうして今僕にその質問をしているの?」
ヨハンに問い掛けられたトーマは口を半開きにしてポカンとさせる。
「…………わからない、から?」
少し時間を掛け、頬に指を持って来て首を傾けた。
「そうだね。よく答えられたね。そうだよ、わからないよね」
「う、うん」
「だからいろんなことを研究する人も、そうやって見つかったよくわからない物がどういうものなのかってことを知りたいんだよ。だったら今のトーマと同じ気持ちだね」
「へぇ。なるほどぉ。そっかぁ」
冒険者に置き換えたとしてもそれは同じ。好奇心。探求心。行動原理。
(僕も色んな世界を見てみたいしね)
まだ見ぬ世界へ思いを馳せる。それは正にこの物語を旅しているアインツ達と同じような気持ち。
「じゃあ続きを読むね」
「うん!」
疑問を解消されたトーマはわくわくと絵本を覗き込んだ。
『ねぇねぇ、ラーハル、コレ見てこれ!』
『どうかしたのか、クリスさん』
一度立ち止まったアインツ達が遺跡の内部の様子について話し合っている中、エルフのクリスと少年ラーハルは壁際にある小さな突起物に興味を示していた。
『どちらにせよ、ここがどういうところかわかるまでは不用意にそこらの物に触らぬようにせねばな』
『だな』
『ええ』
『小僧とエルフも聞いておったな?』
アインツ達が話を終え、ラーハルとクリスに注意を促す。
『いやだって』
『いいから押してみてよ!』
そこにはラーハルに無理やり突起物を押させようとしているクリスと嫌がっているラーハルの姿。
『何をやっておる?』
『え?』
『ん?』
不意に背後から声を掛けられたことでラーハルとクリスは二人同時に壁にある突起物を押し込んだ。
『お、おい! 今何をした!?』
突如としてゴゴゴッと音を立てる遺跡内部。激しい振動が起きる。
『ちょ、ちょっとクリスあなた何をしているのよっ!?』
『ご、ごめんってエルネアちゃん!』
『ほんとあなたって考えなしに厄介毎を引き起こすわねっ!』
『そこまで言わなくてもいいんじゃない!?』
ギャアギャアと言い合うエルネアとクリス。
『喧嘩は後じゃ。今は事態に備えよ』
周囲への警戒心を最大限まで高めるアインツ達。
『下じゃ!』
魔力の集束を感じ取ったシルフィが大きく声を放つのだがもう遅い。
ブオンっと音を立てて足下には大きな魔法陣が描かれる。
『これは……転送魔法陣!?』
『どこへ飛ばされるやもわからぬ! 各自気を付けろ!』
『エルネア!』
『アインツ!』
アインツに向けて伸ばすエルネアの手を握ろうとしたのだが、アインツが握るよりも先にシュンっとエルネアは姿を消した。
『くそっ!』
もう少しで握れたはずの手を掴めなかったことによる悔しさ。
そうして残されたアインツも姿を消す。
◇ ◆ ◇
「――ここは?」
アインツが転送、飛ばされた先は見知らぬ空間。いくつもの窓がある通路。
けれども周囲の景色の様子、内部の構造物から見ても同じ遺跡の中なのだということは理解できた。
「アインツ?」
「クリス。無事だったか」
スッと影から姿を見せるクリス。
クリスがいたのならば他にも誰かいるのかと辺りを見回してみても誰もいない。ここに飛ばされたのはクリスと自身の二人のみなのだと。
「早くみんなを探さねぇと!」
「もう。何を慌てているのよ。もうちょっと落ち着いたら?」
「んだよ、早くしないと危険が迫ってるかもしれねぇだろ! それに俺は落ち着いてるっての!」
はっきりとした苛立ち。エルネアの姿がないことにアインツが不安を覚えていることをクリスにはわかっている。わかりきっていた。
「そんなことよりさ、アインツ」
「大体誰のせいでこんなことに――」
「それはごめんって思うけどさ、ほらっ、せっかく二人きりになれたんだしさ」
相変わらずエルネアのことばかり考えるアインツに対して小さく息を吐きながら、俯き加減にぴとっとアインツに身体を寄せるクリス。
「やめろ!」
ドンっとクリスを突き飛ばす。今はそんなことをしている場合ではない。
「ほーら、やっぱり落ち着いていないじゃない」
「なにがだ?」
若干苛立ちを見せるアインツはクリスと目を合わせようとしない。
「いつものアインツなら『やめろって。エルネアが来るかもしれねぇじゃねぇか』とかなんとか言いながらも鼻の下伸ばしてたじゃない」
「い、いや、それはその……」
「知ってるでしょ。エルネアが私と同じくらい強いってこと。エルフの私と同等の人間がどれだけいると思っているのよ」
「……まぁ」
「それにガンドロフさんとシルフィさんに至っては私以上」
「……ああ」
「ラーハルはまだ経験不足だからちょっと心配だけど」
「あいつなら大丈夫さ」
アインツが剣の指導をしているラーハルはその実力をどんどんと上げている。元々出会った時から相当に強かったのだが、今ではもうその時の比ではない。
「ほらっ。そういうとこよ。どうしてラーハルのことは信用するのに、エルネアのことは信じてあげられないの?」
ニタっと笑みを向けるクリス。アインツの性格も全て計算しての言動と行動。
そしてそれはアインツにしても同じ。クリスが何を言いたいのか改めて説明されずともはっきりと理解した。
「……わかったよ」
大きく溜め息を吐く。
「けどとりあえずあいつらを探すことには変わりはねぇ。それと一緒に可能な限り遺跡の調査を続けるぞ」
「はい。よくできました」
「お前はこの責任をちゃんと取れよ」
「大丈夫よ。全員がちゃんと無事ならシルフィさんがこれを許すと思う?」
「……思わねぇ」
パーティーのリーダーはガンドロフなのだが、実質的に立場が上なのはシルフィ。ガンドロフにだけには不遜な態度を示さないシルフィなのだが他へは違う。その意にそぐわない時に放たれる電撃はもう定番と化していた。
そんなシルフィがパーティーの分断。クリスとラーハルが招いた短絡的な行い。その結果生まれたこの事態を許すとはとても思えない。
しかし許さないとはいっても、その罰が起きるのは全てが無事に終えた時だということをアインツもクリスも知っている。誰かが犠牲にならないようシルフィも最善を尽くすことを。
「っつか、クリス、ご愁傷様だな」
「そうなのぉっ! アインツ、その時は助けてねぇっ!」
「やだよ。自分で責任取れよ。ラーハルと一緒にな」
「ひっどぉい! いいもん、全部ラーハルのせいにしーちゃおっと。ラーハルが押したのだし」
「ったく、どっちの方がひどいのだか」
呆れて物も言えない。
しかしそれでも、状況が変われどもいつも通りのクリスの様子に安堵した。気持ちが落ち着く。
「さて、いくか」
「うん。アインツのそういうとこ好きよ」
「お前なぁ。ちゃんと反省してんのか?」
「してるしてるぅ」
ニコニコしているクリスと共にアインツは遺跡の内部を歩き始めた。
そこかしこの壁に文字が刻まれているのだが、書かれている文字は古代文字。読める人間自体ほとんどいない。研究者でも限られるその古代文字を読めるのはアインツ達のパーティーの中でもシルフィのみ。
「何が書いてるんだろうね?」
「さぁな。わかんねぇもんは考えても仕方ねぇだろ」
「淡泊よねぇ。だいたいさ。ここって何かの施設みたいな感じがするのよねぇ」
歩きながら周囲を見渡す気配。クリスはどこか確信を抱いていた。
「どうしてそう思う?」
「ほら。私ってエルフじゃない?」
「それ以外になんだっての」
「いやいや、古代人がどんな人間だったのか知んないけどさ、要は人間ってことには変わりないじゃない?」
「まぁそうなんじゃねぇの?」
「だから人間が作る物ってなんとなくわかるんだよねぇ」
自然との調和を第一にするエルフだからこそ得ることができる感覚。人間が作る物にできる共通した特徴である人工物。
「勘か?」
「勘よ」
「そっか」
しかしその理屈には一理ある。
エルフであるクリスにしか感じ得ない何かがあるのだと。
「ならここはどんなとこなんだ? っておい」
肩越しにクリスを見ると、クリスは立ち止まっていた。
「アインツ……あそこ…………」
壁際にあった小さな窓の向こう側をクリスは指差す。
「あそこ?」
同じようにしてアインツも近くの窓を覗き込むと、そこには広大な空間、平面の広場が広がっていた。
「エルネア!」
かなり遠くに見えるのだがその姿を見間違えるはずがない。
そこには探していた人物、エルネアの姿。それにエルネアだけでなくラーハルとガンドロフの姿もあった。
「くそっ! どうやってあそこまでいけるんだ!?」
通路は奥に続いており、方向的には遠ざかることになる。先へ進めば迂回路があるのかも知れないがないかもしれない。
「アインツ、こっちに小さな部屋があるよ!」
「でかしたクリス!」
少し先を行ったところにある扉。
広場に続く道かもしれないと勢いよく扉を開けて中に入るのだが、すぐさまアインツは首を振った。
「ちっ。なんだここ。行き止まりじゃねぇか」
扉の中は小さな部屋。部屋の中には何もなかった。
強いて言えば部屋の中央に床から伸びる一本の棒、腰までの高さの円柱とその向こう側に大きなガラス窓があるのみ。他には何も見当たらない。窓からはエルネア達の様子がより良く見える。
逸る気持ち、早く向こう側に行きたい一心。
「だったら……――」
「え? ちょっ!」
アインツは腰に差していた黒剣を抜き放った。
「――……ぶち壊してやらぁっ!」
すぐさま剣に闘気を流し込み、勢いよく振り切る。
「――っ!」
しかしガギンと音を立てるのみで、剣が弾き返された。アインツは小さく舌打ちする。
「ふぅん。アインツが壊せないってなると、相当頑丈よね」
剣の腕ではアインツがパーティーでは一番。単純な一撃の破壊力で言えばガンドロフなのだが、それでも物理的な威力であれば次いで二番目。
そのアインツが壊せないとなれば物理的に破壊できる可能性が残るのはガンドロフのみ。そのガンドロフも今は広場の中央にいるので今は誰にもここを物理的には壊せない。
「おい! 他をいくぞ!」
「ちょっと待って!」
部屋を出ようとするアインツをクリスが引き留めた。視線の先には部屋の中にある一本の円柱である棒。
「これ、なんだか怪しいのよね」
「怪しいって?」
「だっておかしいじゃない。こんなのがあるだなんて、意味のあるようにしか見えないよ」
見た目は地面と同化したただの棒。それがどうかしたのかと。
ただの勘なのだが、クリスはその棒に近付いてそっと手の平を乗せる。
「え?」
小さく漏れる声。
クリスは内心で焦る。手の平から強烈に魔力が吸い上げられる感覚を得た。
「――ぐぅ!」
呻き声を上げるクリス。
「お、おいっ! 大丈夫かクリス!」
慌てて駆け寄るアインツ。
クリスの背後から腕を回して棒から引き離すと、ドサッと二人で尻もちを着く。
「あ、アインツ」
「どうした!?」
「もうわたし……――」
「どっかやられたか!?」
後頭部から聞こえる声。明らかに異常な先程の反応。クリス自身にダメージがないかと調べようとするのだが、同時にどこかとろみを帯びる声色に疑問を抱く。
「大丈夫か?」
「だいじょうぶじゃない」
小さく呟きながらバッと勢いよく振り返るクリスの華奢な身体。
「――……我慢できないの!」
目を瞑り、アインツにキスを迫った。
「ったあああああっ!」
直後に響き渡るゴンッという鈍い音。
アインツがクリスの頭頂部に見舞う拳骨の音。
「っざっけんなよお前」
「なによ! アインツが先に抱き着いて来たんじゃない!」
「あほかっ! お前を助けるためだっつの!」
「要は既成事実ねっ!」
「何言ってんだてめぇ!」
笑顔で迫られるクリスを見てアインツも心配して損したと思うものの、クリスからすれば心配させまいという気持ちが含まれていた。
(なに、いまの?)
尋常ではない魔力が抜き取られている。普通の魔道具では通常あり得ない量。
まだ魔力量に余裕があるとはいえ、チラと見る棒状の塊。
(何かの装置?)
それ以外考えられない。
古代文明の遺産の中にある魔道具。その中には魔力を吸い上げられる量が尋常ではないことから普通の人間であれば時には死亡してしまうこともあった。それがどうして古代では使われていたのかということなのだが、一説では古代人は魔力が膨大だったのではないかという見解。
どうしてそう考えられるのかは、それは古代遺産の持つ能力が現代では考えられないような性能の数々を発揮していたから。
「とにかく行くぞ」
「え? あ、うん」
広場に向かう他の道はないかと部屋を出ようとする。
「ん?」
「なに?」
再び鳴り響くゴゴゴと大きな音。
「どうした?」
「……あれ」
部屋の中に視線を戻すと、棒状の何かが光り輝いていた。
「何が起きてる?」
光る棒を懐疑的に見る。
「見てあれ!」
クリスが指差す視線の先はエルネア達がいる広場。
大きく揺らいでいるその場は地面を次々と隆起させていた。
平らな地面がいつの間にかまるで山岳地帯かの様な様相を呈している。
「形を変えた?」
「それだけか?」
「今のところは」
他に何が起きたのかとジッと観察するのだが、どうにも地面が形を変えたのみ。視界に映るエルネアとラーハルは突然の事態に慌てていたのだが、二人の首根っこを掴んだガンドロフは隆起した地面の中でも一番高い山の上に飛び乗った。
「もしかして、コレのせい?」
他に考えられない。
先程の可能性。部屋の中の棒状の何かが光ったのと同時に広場が形を変えている。
「かもな」
「だったらもう一度魔力を流せば元に戻せるかも?」
「お、おいっ!」
クリスが得る先程の感覚では魔力を吸い上げられたのだが、命の危機に陥れる程の危険な感じはしなかった。
アインツの制止も聞かず、クリスは迷うことなく棒の上に手の平を乗せる。
(元に戻れー、元に戻れー!)
念じながらもグッと魔力を吸い上げられる感覚は先程とそう変わらない。
先程は突然のことで驚いたものの、冷静になってみれば魔力を吸い上げられるのみで他には目立った変化は見られない。
「やったぜクリス!」
「え?」
アインツの声に反応する様に広場に視線を戻すと、ゴゴゴと勢いよく隆起した地面は元に戻るようにして平らになっていく。
「やっぱりこれが関係していたのね」
地面を元に戻していったのだが、二人は目を疑った。
元に戻ったかと思いきや、次の瞬間には広場の地面がいくつも陥没していく。
ボコボコと穴を開ける地面の上では困惑しているエルネア達。
「なにやってんだ!?」
「知らないわよっ! これが勝手に反応しているのよ!」
未だに光を放つ円柱棒。
そのままグッと魔力を流すクリスなのだが、状況は更に悪化した。
広場は突如として光り始め、ドボドボと穴の中に水を生み出す。
いつの間にかエルネア達は浮島の上で孤立するようになってしまっていた。
◇ ◆
「ちょ、ちょっとさっきから一体なんなの!?」
「ふむ。地面が何度も形を変えるとは、一体どういうことじゃ?」
「いいから早くここを離れようぜ!」
エルネアとガンドロフとラーハルの三人はこの広場、揃って同じ場所に転送されていた。
周囲を広く見渡せる為に今は動かずにいた方が賢明かとその場でじっとしていたのだが、突如として地面が隆起している。
何事かと身構えたのだが次には地面が沈み、辺り一帯は水で埋め尽くされる事態。何が起きているのか理解できなかった。
「なにかのトラップ?」
「わからぬ。だがその可能性は否定できぬな」
「おい、アレ!」
ラーハルが指差す水面。そこには水中を泳ぐ巨大な影。映る影の大きさからして少なくとも木造家屋程は優にある。
「なにか……いる?」
妙な気配を得るのと同時にドパッと跳ねるその巨体。
「海竜じゃと!?」
水飛沫を上げながら宙を舞うその巨体。大きく長い身体に白い鱗を持つ竜。
突如として姿を現したその魔物、竜種である海竜にエルネア達三人は驚愕した。
◇ ◆
「大丈夫? 難しくない?」
「うん。わかりやすいよ」
「そっか。なら良かった」
「それより、この人たち、どうなっちゃうの?」
不安気な眼差しをヨハンに向けるトーマ。
「そうだね。それは続きを聞いてのお楽しみ、ということで」
「むぅっ。じゃあはやくよんでよ!」
「ごめんね。うん、それでね。突然海竜に襲われたエルネア達で、最初に動いたのはエルネアなんだ。杖を掲げて地面に魔法を放つんだよ」
「へぇ。エルネアはまほうつかいなんだ」
「うん。凄い魔法を使えるんだ。近くに水が発生したことでエルネアはその水も操れるからね」
「すごいじゃない! じゃあエルネアがいちばんつおいの?」
「まぁ強さには相性があるから誰が一番とははっきり言えないんだ。それにエルネアの得意な魔法は水魔法だからそれはそれで海竜とは相性が悪かったんだよ」
「そう、なんだ」
「それでね……――」
◇ ◆ ◇
「――……水流牙!」
浮島の周りには水を巻き込みながら立ち昇るいくつもの竜巻。
水の中にいる海竜を穿つ為に水を螺旋状にした塊を放つのだが、海竜の属性は水。パチンと小さな音を立てて水流牙は掻き消された。
「ダメっ! やっぱり効かないわ!」
「さすがにこれだけのやつが相手となるとエルネアの魔法でも分が悪いか」
「どうする?」
「儂が行こう」
「「え?」」
エルネアとラーハルの二人が思わず仰天するのはガンドロフが一切の躊躇いもなく水の中に飛び込んだから。ザブンと音を立て水中深く潜っていった。
「大丈夫かよあのおっさん」
「……たぶん」
ガンドロフは生身の身体。得意とする武器はない。己の拳のみ。
否、武器を持っていないのではない。その身体自体を絶対の武器としている。
「ぶっ!?」
次の瞬間、ラーハルは目を疑った。
地響きかと思うような音、ドゴンと鈍い音が辺り一帯に響いたかと思えば水面がゴポッと盛り上がる。
直後、まるで巨大な噴水かのように弾ける水。その中央には身体をくの字にさせて宙を舞う海竜の姿。
更に水面がキラキラといくつもの光を放った。
直後にドドドっと上空に向かって射出されるのは無数の光弾。それが海竜の身体を叩いていく。
水面からドバっと跳躍するように姿を現すガンドロフが浮島に戻って来た。
入れ替わるように海竜が力なく水面に打ち付ける様にして落下する。
「なるほど、硬いのぉ。だが斬れぬわけではない、といったところか」
拳をくいッと握りしめながら水中で得た感触を確かめた。
「もしかして、ガンドロフさん、殴って来たのか?」
「それ以外なにがある?」
ラーハルの問いに、何を当然のことをとばかりにガンドロフは目を丸くさせる。
「相変わらず規格外だな」
「褒めても何もやらんぞ?」
「呆れてるんだよッ!」
軽快なやり取りをする二人を見てエルネアは小さく笑った。
「じゃあトドメはラーハルの仕事みたいね」
「うむ。任せた」
「え?」
斬れぬわけではない、そう先程ガンドロフが言った言葉の意味をエルネアも正確に汲み取っている。
「じゃあもう一度打ち上げるわよラーハル」
「え? お、おい、なにをどうしたらいいんだよ!?」
有無を言わせぬ物言い。
「これもお主の修行じゃ。斬れ」
「そう、いう、ことかよっ!」
ようやく理解したラーハルもすぐさま覚悟を決めてスラっと剣を抜き放った。これまで何度となくこういった役割を任されている。
ラーハルの覚悟を確認したエルネアは再び水中を泳ぎ始めている海竜の真下に大きな渦を発生させた。
「重っ、たい、わねぇ!」
よくも生身で海竜をあれだけ打ち上げられたものだと感心と驚嘆を抱きながら、それでもエルネアも正確にそれを成し遂げる。
「ガッ!?」
突如として発生した巨大な渦に巻き込まれた海竜は自身が水中生物だというのにその身体の自由を奪われた。
「そーれっ!」
成す術なく巻き起こる竜巻によって再び打ち上げられる。
ゴオッと凄まじい竜巻と共に打ち上げられた海竜の身体。その向こうには剣を上段に構えた金髪の剣士ラーハル。
「いくぞ……――」
すぐさま海竜はそれが圧倒的な脅威を持ち得る者なのだと理解した。このままではマズいと咄嗟に判断して剣士を飲み込もうと大きく口を開ける。
「――……ハアッ!」
迫り来る巨大な顎に一切怯むことなくラーハルは上段から勢いよく剣を振り下ろした。
「ガッ……――――」
閉じられる顎、海竜の歯がラーハルの左肩に僅かに刺さるその瞬間。
プツっと肩から僅かに血を出すのだが、ズバッと振り下ろされる剣に海竜は引き裂かれ、血飛沫を上げながら真っ二つに両断される。
「ふぅ」
チンっと剣を鞘に戻すラーハルの後ろ姿は実物以上に大きく見えた。
「やるじゃない」
「ふむ。今の力量ではそんなところか」
「アインツならもっと綺麗に切れるんだよな?」
海竜の切断面に目を送るラーハル。
剣の師と仰ぐアインツであればもっと鮮やかに倒しきっていたはず。
「そうじゃな。しかしお主の方が若いのだ。気に病む程でもない」
「わかってるよ。でも俺は剣聖になりたいんだ。アインツに負けてるようじゃ剣聖なんてなれない」
ぶっきらぼうに話すラーハル。
(心配いらんと思うがのぉ)
ラーハルの成長曲線、潜在能力は確かなもの。
◇ ◆ ◇
「どうやら無事だったようだな」
「だから言ってるじゃない。あの子達だったら大丈夫だって」
「確かにそうだけどよ」
とは言うものの、あの時みたいな思いをするのもアインツは御免だった。二度と抱きたくない気持ち。エルネアを失いかねなかったかつての出来事。その為に自身も力を身に付け、エルネアも必死に自分について来ようとしていることは理解している。しかしそれとこれとは別。感情はまた別の話。
「まぁとりあえずこれからどうするの?」
「っつか、今思えばやっぱりクリスがいらんことばっかするからわけのわかんねぇことになるんじゃねぇか! いい加減そっから離れろ!」
事態を引き起こしたその棒。
「なんじゃ、お主等はこんなとこにおったのか」
「シルフィさん」
背後から聞こえる声。
振り返った先には妖艶な魔女が姿を見せていた。
「姐さんはどうしてここに?」
「いやなに、探索しておったらここから一番魔力を感じられたのでな。まさか二人に先を越されておるとは思わなんだが」
「どういうことだ?」
部屋の中を観察する様に動き回るシルフィ。
「なにか起きたか?」
シルフィが見る先、広場にいるエルネア達の姿に両断された海竜。
「いや、クリスがコレを触って……――」
そうして今しがた起きた出来事をシルフィに話して聞かせる。
アインツの話を聞いたシルフィはしばし考え込んだ。
「――……ふむ。なるほど。どうやらここがこの遺跡の謎、中心部で間違いないようじゃな」
「は? どういうこった?」
「それはこれからより詳しく調べんとわからん。とにかくあいつらと合流するぞ」
「あっ、ちょっと待って!」
クリスの引き留める言葉によって立ち止まるアインツとシルフィは疑問符を浮かべるのだが、クリスは再び円柱棒に手の平を乗せている。
「なにやってんだよ!」
「え? いや、面白かったからもっかいやってみよっかなって」
「は?」
「……ふむ」
すぐさま広場は再び変化をしていた。木々が生い茂る森が生まれたかと思えば砂漠地帯になるなど、様々な形態になっている。
「確かにこれは面白い」
きゃっきゃっと喜んでいるクリスの横に立つシルフィもニヤリと笑みを浮かべていた。
視線の先には慌てふためいているガンドロフ達の姿。
(ダメだ。こうなったら止まらねぇ。むしろ俺があっち側じゃなくて良かったぜ)
円柱棒と広場の関連性を調べていると言えば聞こえはいいが、明らかに遊んでいる二人。姿がなかったシルフィは遺跡内部のマッピングが済んでいるのでいつでもあそこに駆け付けられる。
(すまんエルネア、ラーハル)
シルフィまで遊びに加わった以上、余計なことを言えばあちら側に送り込まれるので何も言えない。
「――ふぅ。満足満足。さて行くかの」
広場では疲労困憊のエルネアとラーハルの二人。ガンドロフにはまだ余裕があった。
「ふぃぃっ。私も魔力がすっからかんだよぉ」
「どんだけ遊んでんだお前は!」
そうした一幕を挟みながらシルフィの案内によって広場に辿り着く。
「おーい! 大丈夫エルネアちゃーん!」
あちこち形を変えていた広場はもう元通り。いつの間にか元の平地に戻っていた。
「みんなも無事だったのね!」
「当り前よぉ」
「アインツも」
「あ、ああ」
アインツの姿を確認して安堵の息を漏らすエルネア。
しかしアインツは言えない。遠くから三人の様子をずっと見ていたなどと、むしろエルネア達が疲労を抱える原因になっていたのだと。
「それより気を付けた方がいいぞ。ここ、さっきから変なことが起きやがる。今は落ち着いているが、地面が浮かんだり沈んだり、魔物が生まれたりよぉ」
「知ってる。アインツと一緒に見てたもん」
何の気なしにあっけらかんと答えるクリス。
「「えっ!?」」
意味がわからずポカンとするのはエルネアとラーハル。
「ねぇアインツ。どういうこと?」
「見ていたってどこからだよ」
「……あ、ああ。あそこから」
遠くに見える窓を指差した。
「ふむ。それでどういうことじゃ?」
「その辺りについてはワシも推測でしかないがな」
そうしてシルフィによる見解、推測が話される。
古代遺跡の技術が集められたこの場所は、クリスが触ったあの棒によって魔力を吸い上げられ、結果生まれた事象は地形変化と魔物の発生。
それが起きるということ。
シルフィによると、広場は魔素もかなり濃く魔物が生まれる条件は整っているのだが、それにしては他に魔物が生まれている気配が見られない。
つまり、古代人によって魔素が緻密に操作されている可能性。だからこそあれだけの地形変化が起きるのだと。
「もしそうなら凄い技術ですね」
「うむ。興味深い施設じゃな。一体どれだけの技術を古代人は持ち合わせていたのか興味が尽きない」
「ではもう少し調べた後、それを報告に行くとするか」
近くには倒れているアインツとクリスの姿。エルネアによって遊んだ分のお仕置きが成されていた。
(俺じゃねぇだろうが俺じゃ……)
シルフィを止めなかった分という理不尽なお仕置き。
それから遺跡内部の探索を改めて再開したのだが、他に目ぼしいものは見つからなかった。
そうして王国に帰還して探索結果の報告を行うことになる。
後日、そこから先は王国の研究チームとシルフィによって詳細の調査が行われた。
「――で、結局あそこはなんだったんだ?」
王国の酒場、アインツはエルネアと二人で食事をとっていた。
「シルフィさんによると、たぶん闘技場のようなものではないかと。もう少し詳しい調査はこれからナリスランさんがするらしいけど」
「ふぅん。まぁあの人なら時間を掛けてでも解明しそうだな」
王国の研究所がこれから詳細の調査に当たるらしい。その中でも一際優秀な人材が当てられている。
「にしても闘技場って帝国のようなか?」
「あれよりもっと規模は大きいみたいよ。だって地形変化や魔物を生み出せるなんてそんなこと普通はできないもの」
「まぁそりゃあなぁ。しかしなるほどねぇ。でももしそれができたら結構面白いかもな」
「え? おもしろいって、どういうこと?」
エルネアは疑問符を浮かべた。
「だって考えてもみろよ。色んな状況で戦闘訓練できるってことだろ?」
「……あぁ、なるほどね。アインツらしいわ」
戦闘狂というわけではないのだが、アインツの戦闘に関する向上心はかなりのもの。
「今それがなくて私はホッとしているわ」
「なんでだ?」
「だってそんなものがあるとアインツ、そこに入り浸ってしまってほっとかれそうだもの私」
両肘を木卓に置いて腕を組み上目遣いでアインツを見るエルネア。
「なっ!?」
その嫉妬。可愛らしい表情を見てアインツは思わず顔を赤らめる。
「そんなわけねぇじゃねぇか!」
「ほんとにぃ?」
「あ、ああ」
しどろもどろになりながらの返答。
「あー! こんなところにいたの二人で!?」
「「クリス?」」
バンッと店のドアを勢いよく開けて入って来たのはクリス。
「ほら、いくよ」
「んだよ、もう行くのかよ」
「でも見に行くんでしょ?」
「まぁな。やっぱそんな樹があるなら見てみたいじゃねぇかよ」
「じゃあそろそろ行きましょうか」
「ああ。次は世界樹を見に行くか」
世界のどこかにあるという光り輝く樹。世界樹。
それを見に行くということをアインツ達は次の冒険に選ぶ。
◇ ◆ ◇
「へぇ。ひかる木ぁ。どこにあるんだろう?」
トーマの前でパタンと本を閉じるヨハン。
「…………」
本を閉じながら思考を巡らせた。
「どうしたのおにいちゃん?」
「え?」
「何か困ったことでもあったの?」
困り顔しているトーマに向けてすぐさま笑顔を向ける。
「ううん。なんでもないよ」
「そぉ?」
「それより、面白かった?」
「うんとっても! よくわからなかったところもあったけど、ラーハルがカッコ良かった!」
「そうだね。この話はラーハルが一番カッコいいもんね。本は僕が片付けておくよ」
「ありがとう!」
トタトタと次の遊び場に向かうトーマを笑顔で見送り考える。
海竜を一刀両断。そんなことできる人間なんて限られる。一部の達人のみ。
(もしかしてこの本って……――)
同時に脳裏を過る可能性。
幼い頃はただその話をわくわくして聴いていただけ。アインツ達のような冒険をしたいという憧れを抱くに留まる。そんな可能性など考えたこともなかった。
エルフや世界樹に剣聖になりたい少年などといったいくつもの関連する単語、今になってようやく認識できる言葉がある。
(――……まさか、ね)
もしそうだと考えれば妙な恥ずかしさ、羞恥が込み上げて来る。
家にいくつもあったそのアインツの冒険譚、それはアインツとエルネアの半生を綴ったようなものだった。
「そんなことないか」
つまり、過る考えの通りだとすれば、両親の馴れ初めを覗き見るような感覚に陥るのだから。
きっとたまたま近しい言葉が出ただけだと過る考えを振り切った。
「ヨハンさん?」
「あれ? どうしたのアイシャ?」
「どうしたもこうしたもありませんよ! 頼んでいた本はどうしたんですか? 全然持って来てくれないから見に来たんですけど」
「…………あっ」
そこで思い出す。
元々多目的室を訪れていた本来の理由を。
「ごめん、トーマに本を読んであげていたら忘れてた」
「もうっ、何やってるんですか。ニーナさんがお腹空かせて待ってるんですから」
「そっか、ニーナにも謝らないといけないね」
そうしてアインツの冒険譚を本棚に片付けて多目的室を後にするのだが、そこにはヨハンが読んでもらったことのない本がまだあったのだった。
【剣聖への頂き】【孤児という名の底辺からの成り上がり】といったいくつかの本が。




