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第三百四十三話 閑話 胃袋を掴め!(前編)

 

 武闘大会から二日後。

 ラウルは帝都を出る前に色々と処理しておかないといけないことがあるのでのんびりと過ごしている。


「そういえば、カレンさんって皇族だから色々と習い事とかしていたんだよね?」


 ニーナの問いかけ。

 そうして孤児院で過ごしている中、窓の外で遊んでいる子ども達を見ながらふと疑問が浮かぶ。


「もちろんよ」


 アイシャは好きで料理に取り組み働いてもいるのだが孤児院の子ども達の遊び方も様々。本を読む、紐遊び、外を走り回るなど、各々好きなように遊んでいた。


「例えばどんなことしてたの?」

「どんなこと? そうねぇ……礼儀作法はもちろん、剣術や馬術、帝国の歴史や魔物に関しての知識、魔法や医学などの座学、演技や楽器とかあらゆる分野に関して一通り習ったわね」

「ふぅん」


 これまで習った数を指折り数えながら得意満面で答える。


「へぇ凄いなぁ。あたしだとそれだけ手広くやると絶対身に付かないと思うな」

「そんなことないわよ。要はコツを掴めばいいだけよ?」

「じゃあ当然料理も得意なんだよね? あたし美味しいご飯食べたいなぁ。お兄ちゃんやラウルのおっちゃんは食べれたら良いって感じだったからさ」

「えっ!?」

「ちょっとニーナ。その言い方は誤解があるよ。別に苦手ってわけじゃないじゃない」

「でもあたしは美味しい料理が食べたいのぉ!」


 旅の道中、野草採集や捕まえた動物肉などの調理全般は基本的に持ち回り。

 カレンであればその教養の良さから美味しい料理が食べられるのではないかと、皇族が食べるような高級な料理を想像して涎を垂らしそうになっていた。


「でも僕もカレンさんが料理できるなら助かるかな」

「も、もちろん得意に決まっているじゃない!」


 当然とばかりの笑顔でカレンは胸に手を当てる。


(どどど、どうしよう、料理なんてしたことないわよ!?)」


 とは言うものの、内心では焦り慌てていた。

 完全な強がり。思わずヨハンの笑顔を見たことによる口をついて出たでまかせ。

 実のところカレンは料理などしたことがない。知識としてはあるものの、実際に料理に着手したことはない。いや――。


(どうしてかヴァルブエナに止められたのよね)


 正確には何度かあったのだが、その何回目かで、帝国城の料理指南をしていた料理長ヴァルブエナから「カレン様の料理は私たちが用意しますので必要ありません!」と言われていた。


(今さら……したことがないなんて言い出せそうもないわね)


 ルンルンと笑顔のニーナと期待に胸を膨らませているヨハンを見ていると後に退けなくなる。


(ま、まぁ、旅に出るまでに練習すればなんとかなるかな?)


 料理長ヴァルブエナに習いに行けばいいかと考えていた。


「楽しみだなぁカレンさんの料理」

「なら今から作ってもらえば? 今日の予定は特になかったでしょ?」

「えっ!? きょ、今日!?」


 突然のニーナの提案にカレンは目を丸くさせる。


「ダメですか?」

「大丈夫よ、任せなさい!」


 ヨハンの困り顔を見て即答した。


(ど、どうしよう…………)


 気前良く返事をしたものの全く以てどう手を付けたらいいか想像もつかない。


「じゃ、じゃあさっそく料理の買い物に行ってくるわね!」


 それならばと、買い出しをしながらどうしようか考えることにする。


「あっ、荷物持ち程度なら僕も―――」

「ヨハンは来なくていい!!」

「え?」


 あまりの剣幕。鬼気迫る迫力があった。


「あっ、じゃあお願いします」

(んー?)


 ヨハンはそれに疑問を抱くことなく返答するのだが、カレンのその様子にニーナは首を傾げている。

 そのままカレンは勢いよく部屋を出て行った。


「あっ、カレン様もうお帰りになるのですか?」


 廊下で会ったアイシャがカレンに微笑む。


「アイシャちゃん!」


 ガシッとカレンはアイシャの両手を力強く掴んだ。


「え? え?」


 突然のカレンの行動にアイシャは困惑して瞬きを繰り返す。


「申し訳ないけど、料理の材料が売っているお店教えてもらえないかしら?」

「えっ!? はあ……。別にいいですけど?」


 何を言われるのかと身構えたのだがそんなことかと。

 しかしカレンとしては渡りに船。


(そうだわ。アイシャちゃんがいるじゃない!)


 ヴァルブエナに聞きに行ったところで確実に教えてもらえるとは限らない。ならたまたま休みだったアイシャに頼めば良いと考えた。


 ◇ ◆


「料理の材料って言っても、何を作りたいかですよねぇ」


 そうして大通りを二人で歩き、アイシャはどこに行こうかと思案している。


「どういうものを作りたいのですか?」

「え? あっ……あぁ…………」


 口籠り言い淀むカレンにアイシャはどうしたのかと疑問符を浮かべた。


「ね、ねぇ、アイシャちゃん、もし良かったらだけど、私と一緒に料理してもらえないかな?」

「え? でも私なんか役に立たないですよ?」

「そんなことないわよ! スーザンもあれだけ褒めていたじゃない!」

「ま、まぁ確かにスーザンさんは一流ですけど……」


 ここ最近の行き過ぎた指導がアイシャの脳裏に甦る。

 菓子作りをただ教えてくれるだけなら良いのだが、まるで着せ替え人形かのように衣裳をあれこれ用意され、そのまま接客も任されていた。

 アイシャの要領の良さからすぐに評判になってガトーセボンの売り上げは右肩上がりなのだが不安と不満は常に付きまとう。


「……わかりました」


 とはいえ、収入も得られて料理の技術も教えてもらえることは素直にありがたい。カレンに紹介してもらえた上で働き口にありつけた。そのカレンに頼られたのであれば断る理由もない。


「でもどうしたのですか、急に?」

「あー……。実はね、わたし料理ってそんなにしたことないのよ。でもヨハンとニーナの前でつい強がっちゃって」


 だから日常的に料理をしているアイシャの手を貸して欲しいのだと。


「なんだ。そんなことでしたか。じゃあ二人で美味しいご飯を作りましょうね」


 ニコリとカレンに笑いかける。


「ええ。よろしくね」

「はい!」


 元気よくする返事。もうすぐ旅立つヨハンとニーナに料理を作ることももう限られていた。それならばせっかくのこの機会を楽しい思い出として残そうと心に決める。

 しかし、アイシャはこの後に起きる悲劇を目にしてこの話を受けたことを大いに後悔することとなった。



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