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第三十三話 エルフの里に向かって

 

「エルフの里に行くための馬車は王家が手配してくれるのよね?」


 王宮から戻り、エルフの里へ向けて出発する中、モニカがエレナに確認をする。


「ええ。通常の依頼におきましてもそうですが、依頼主が依頼達成に関する情報や手段で必要なことは用意されることもあるでしょう?通常の依頼であれば情報が少ないと難易度が上がることもありますが、王家からの依頼に関してはそれがどんなものでありましてもSランクに指定されますわ」


 エレナは確認する様に話し始めた。


「王家の馬車かぁ」

「とは言いましてもいっても普通の馬車ですわよ?」

「まぁ俺達のような学生がそんな目立つ馬車使えるはずがねぇよな」

「それもそっか。残念」


 モニカはレインの言葉に納得するものの多少残念そうにしている。


「あのさ、エルフって?どんな人達なの?」


 気になるのは聞き慣れない種族のこと。ヨハンがエルフについての疑問を口にする。


「エルフといいますのは、人里から離れた森の中に住んでいる人種のことです。その特徴として一番大きいのが、長い耳と強大な魔力を有しています。又、普通の人間より長命といわれていますのよ」


 エレナがエルフについて答える。


「へぇー、そうなんだ。でも何で森の中にいるの?」

「人間のことを嫌いなエルフが大半なんだってな。なんでも文明の発達をよく思っていなく、自然の中で生活を送ることに重きを置いているらしい。まぁ中には稀に人間の世界を覗きに来る物好きもいるって話だ。平和主義者だから人間と争いになることもないし、魔力が強いから普通の人間じゃだいたい勝てないらしいな」


 レインがエレナの言葉を引き継いで説明をする。


「ふーん、そんな人たちがいるんだね。早く会ってみたいなぁ」


 話を聞いているとだんだんとわくわくしてくる。


 そうして五日後に控えた冒険者学校の長期休暇までの間を各自それぞれ思い思いの時間を過ごしていった。






 ―――出発当日―――


 王都の外に出ると既に馬車が停まっており、遠くから見ると人影が見えた。

 近付いてみて驚きを隠せない。その人影がヨハン達の見知った人であったのだから。


「――――あれ?スフィアさん…………?」


 キズナの前に現れたのは冒険者学校で学生代表を務めている水色の髪の美女スフィアであった。


「みなさん、おはようございます」


 四人の姿を確認したスフィアがにこりと微笑み、ヨハン達に挨拶をする。


「お、おはようございます!スフィアさん!」


 レインが元気良く挨拶して、スフィアは少しばかり笑い声をこぼした。


「えっと…………スフィアさんがどうしてここに?」


 どうしてここにいるのか不思議であるのでモニカが問い掛ける。


「あら?お父さんから聞いていませんか?私が今回エルフの里への案内をしますのよ?」

「えっ?お父さん?」


 モニカは首を傾げるのだが父と言われても覚えがない。ヨハン達を見ても首を左右に振られる。


「ええ、近衛隊長のジャンが私の父ですのよ?」


「…………」

「…………」

「…………」


 近衛隊長のジャンとは一体誰のことなのか。数瞬考えるのだが、すぐに誰のことかその姿を思い出した。


「「「――――ええっ!?」」」


「ふふっ、まぁ驚くのも当然ですわね」


 ヨハンとモニカとレインが同時に驚きの声を上げるのだが、エレナは笑っていた。


「――はぁ、そういうことでしたのね。お父様も人が悪いですわ。前もって教えてくれてもよろしかったのに」

「あっ、そっか、エレナはお姫様だからスフィアさんのことを知っていたのね?」


 納得するエレナを横目にモニカが確認する。


「エレナ?今回は正式な依頼ですので、冒険者学校の先輩として対応させて頂きますよ?」

「もちろんそうして下さい、スフィア先輩」


 エレナがにこりと微笑む。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!スフィアさんはあの近衛隊長の娘さんなんですか!?」

「ええ、そうですよ?お父さんの髪も私と同じくらい青かったでしょう?まぁ青髪だけではわからないかもしれませんが」

「……そうっすか。 (どうしてあの父親からこんな綺麗な人が生まれるんだ!?)」


 レインは心の中で激しく葛藤を抱いていた。


「あの?それでどうしてスフィアさんが案内役になるんですか?いくら近衛隊長の娘だからって…………」

「エルフのことをどこまでご存知かわかりませんが、エルフはその特性上里がある森には結界が張っています。ですので限られた人間しか結界の入り方を知らないのです。私は父が近衛隊長だということもあって何度か秘密裏にエルフの里に足を運んだことがありますの」

「そうだったんですか」


 スフィアの説明を聞いて幾らか納得をする。


「(それに、折角の機会ですから是非とも近くで噂のキズナの実力を見たいではありませんか…………)ということですので、さっそく行きましょうか」


 スフィアも気になっていた。

 まだ王都でも一部の人間しか知らない『キズナ』について自分の目で見てみたかったのだ。


「はい!よろしくお願いします」

「こちらこそお願いしますね。あぁ、それと。馬車ですが、レインさん?」

「はい?」

「あなたは馬車の扱いをご存知ですよね?手綱はお任せしますね?」

「はい!親父の仕事を手伝っている間に覚えていますので任せて下さい!!」

「頼りにしていますよ」


 レインがスフィアに頼られ張り切って答える。


「こいつ、こんなんで大丈夫なのかしら?)」


 モニカはこれからの道中に少しばかりの不安に抱きながらもレインは意に介さずまっすぐ御者台に座った。


 そうしてスフィアを加えたキズナはエルフの里を目指すことになるのであった。




 王都を馬車で出発してしばらくは舗装をされた平坦な道を進む。

 ある程度時間が経った頃、荷台では女子達が会話で盛り上がっており、ヨハンはレインの隣に座り、馬車の扱い方を教えてもらっていた。


「へぇー、手綱ってそんな感じで引くんだね」

「あぁ、そんなに難しくないだろ?まぁヨハンならすぐに扱えるようになるだろうから帰りは握ってみるか?」

「うん、やるやる!今の間に覚えておくね!それにしても五日もかかるって結構遠いんだね、エルフの里に着くまで」


 遠くの山々を見つめる。

 目の前には見たことがない景色が広がっていた。


「そうだなぁ、普通の馬ならそうらしいけど、さすが王家が用意した馬ってところか?中々良い馬だ。たぶん少しは時間短縮できると思うぜ。けど、いくら走れる馬だからってずっと走れるわけじゃない。適度に休みも入れないとな。野営できそうなポイントを見つけたらそこにテントを張る」

「そっか、僕まだ野営ってしたことないから覚えることがいっぱいあるなぁ」


 これだけの期間外に出ることなど初めてのこと。不安はないわけではないが、それ以上に高揚感を覚える。


「冒険者になったら自然と身に付きますよ。基本的なことは学校の方でも学びますが、やはり実践するのとでは経験値が格段に違いますね」


 荷台からスフィアが顔を覗かせ、ヨハンとレインの会話に入ってきた。


「あとで細かいことは実践しながら伝えていきますけど、まずは野営ができる場所かどうかの判断ですね。周囲に魔物の気配がないか、視界はどうなのかなど。それと見張り番の順番を決めます」


 スフィアが指折り数える。


「それと、当たり前のことですが、交代で休息を入れなければいざという時に対応できなくなりますし、見張りがいないと突発的な出来事に対応できなくなります。魔物の対応に対してもそうですが、山賊などに襲われることもないわけではありませんからね。あとは……そうね、見張りが一人だと色々問題も起きかねないですから最低でも二人要ります。私たちは五人ですので、二つのグループで対応していきましょう」

「わかりました。経験豊富なスフィアさんがいてくれて助かります」

「あら?私は少し環境が特殊なだけでみんなと同じ学生ですよ?あなたたちより少しお姉さんなだ・け」


 スフィアがそう言いながらヨハンの鼻先をトンと指で押した。


「それとも、経験豊富って何を経験したいのかな?」

「えっ、いや、その――――」


 突然のことに戸惑う。そこにレインが割って入る。


「はい!はい!わたくしレイン!スフィアさんといっぱい経験したいであります!」


 レインがスフィアの少し大人の色気に釣られて元気一杯に手を挙げ主張した。


「あっ、そっか、そうだね。僕たちはこれからいろんなことを経験していくんだよね。よろしくお願いします。あぁ早くエルフの人達に会いたいなぁ」

「ふふっ、可愛い子ね」


 どこか齟齬が生じている。


「――ちょっとレイーン?ヨハンに変なこと教えないでよね」


 レインは怒気を孕んだモニカとエレナ睨まれていたことに今更気付いて慌てだした。


「じょ、冗談だよ、もちろん!(おいおい勘弁してくれよ) ほ、ほら!見えてきたぞ!あれがケドナ山脈だ!」


 レイン苦笑いしながら誤魔化すように進行方向を指差し、進行方向を見る。

 眼前には岩肌が剥き出しになっている茶色い山がそびえ立っていた。



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