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第二百四十一話 魔石の欠片

 

「はい。たんと召し上がれ」


 農園の奥にある建物に着くと、庭に置いてあった喫食場所にて待つ様に言われ、少しするとサリーが大きなお皿の上に切り分けたいくつもの果物を持って来る。


「うわうわうわぁ! こんなに食べていいんですか!?」

「ええ。久しぶりのお客さんだからサービスしちゃった」


 涎を垂らしそうになりながら果実を見るニーナに対してテヘッと軽く微笑むサリー。

 黄色い果実、オリジの他に、赤い果実のリンドルや緑色の果実のスイメなどが並べられていた。


「あなたたちも遠慮しないでね」

「ありがとうございます」

「せっかく切ったのだから、余らせても仕方ないので本当に食べてくださいね」

「その点は大丈夫だと思いますよ」

「えっ?」


 ヨハンが隣を見ると、そこにはもう既に半分近く食べきろうとするほどの勢いで果実を口にしているニーナの姿。


「あらあら。足りなかったようね。ちょっと待ってね」


 ガタッと立ち上がり、屋内に入ろうとするサリー。


「あっ、いえおかまいなく。これで十分ですので」


 スッとカレンはニーナの前から果実の皿を取り上げた。


「あっ! ちょっとカレンさん!あたしの果物返してよ!」

「あ・な・た、のじゃないわよっ! わ・た・し達、のよッ!」


 キッとカレンはニーナを睨みつけ、鼻の頭を指先で押す。


「なんだ。カレンさんも食べたいんじゃないの」

「当たり前でしょ!」

「あたっ」


 鼻で笑うニーナの頭をカレンは平手で叩いた。


「いいのよ。まだいっぱいあるのだから」

「いえ、本当に大丈夫ですので」


 カレンは取り上げたお皿をそのままヨハンに流した。


「お兄ちゃんちょうだい!」

「だーめ。ニーナもいい加減にしなさい」

「ぶぅううううう!」


「あら? あなた達って兄妹だったの?」


 サリーは顎に手の平を当ててヨハンとニーナを見比べる。


「そうですね。兄をしています」

「……へぇ。全く似てないのにね。色も全然違うじゃない」

「そんなことよりも、わたし達は果物を頂きに来たわけではなくて聞きたいことがあるのです」

「聞きたいこと?」


 カレンの言葉にサリーは疑問符を浮かべながら再度椅子に腰掛けた。


「はい。実はこの魔石の欠片なんですが……――」


 鞄からドミトールの果物屋でもらった魔石の欠片をコロッと置く。


「――……この魔石、見覚えはありますか?」

「えっ?」


 サリーは魔石の欠片に目線を落として、すぐさま上目遣いにそのままカレンを見る。


「これがどうかしたの?」

「いえ、どうかしたというわけではないのですが、少し気になることがありましたので」

「気になることって?」


 魔石の欠片から視線を外したサリーはニコリと微笑みながら問い掛けた。


「この魔石が果物屋の、サリーさんのオリジの中に入っていたみたいなのです」

「……まぁ、確かに時々魔石が掘り起こされることがあるわね。もしかしたらその時かも?」


 顎に手の平を当てて身に覚えのない様子をサリーは見せる。


「そうでしたか。この魔石に付着している魔素がどうにも変わった魔素みたいのようなのです」


 カレンの言葉を聞いた途端、サリーは目を丸くさせた。


「どうしてそんなことがわかるの? 魔素なんて普通目に見えないのじゃ?」

「はい。それはまぁ……」

「それに、測定するにしても魔素計がなければ量もわからないのではないの?」

「……確かに、そうなのですが」


 魔素計を一般人が持っていることなどない。

 返答に困ったカレンはそこで魔石の欠片を指先で摘まんで再び鞄に戻す。


「いえ、すいません。わからないようでしたら大丈夫です」

「ごめんなさいね。力になれなくて」

「いいえ。ただ少し気になった程度ですので」


「僕も質問してもいいですか?」


 カレンの質問が一区切りしたところで、ふと気になることを尋ねた。


「なにかしら?」

「いえ、このメイデント領って雪に覆われる土地みたいだから、これだけの農園を維持するのって大変なんじゃないかなーって」


 寒くなる時期に作物の収穫量が落ちるのは自然なこと。

 時期折々の作物があるのは理解しているのだが、果物の基本は温かくなった時期から寒くなる前の時期までに収穫される。


「そうね。だからもうすぐしたら収穫がなくなって大変なの」

「サリーさん一人でしているのですか?」

「あー、そういうこと?」


 これだけ広大な土地に、他に人の姿が見当たらない。もしかしたら他にも人がいるかもしれないのであれば、その人が魔石の欠片のことを何か知っているかもしれないと考えたのだが、サリーの先程の口振りからすれば思い当たる節も見せなかったことからしても他に人がいるようには思えなかった。


「そうね。前は父と一緒にしていたのだけど、残念ながら亡くなってしまって今は私一人でやっているのよ」

「そうなんですね。すいません」

「いいのよ。気にしないで。もう慣れているから」


 小さく笑うサリー。


「さてっと。まだすることもあるし、あんまり長居してもなんだからそろそろ行きましょうか」

「はい」

「あっ、じゃあせっかくこんなところまで来てくれたのだからこれ持って帰って」


 帰ろうとするヨハン達にサリーは手近にあったリンドルをハサミで切り採る。


「ありがとうございます」

「いいのよ。気にしないで」


 小さく手を振られながら、果樹園を後にした。


 そうして林道を歩きながらドミトールへの帰り道、カレンは考え込む。


「どうかしましたか?」

「……いえ。ねぇニーナ。あなたはどうだった?」

「ふぇ?」


 突然の問いかけにニーナは首を傾げた。


「あの農園のことよ。何か感じることはなかったの?」

「良い農園だったよねぇ。全部甘くて美味しかったし。それに、微妙な酸味が効いててあたし好みだったなぁ」


 顎に指を送り、果物の味を思い返す。


「違うでしょ! もっと他に気になることはなかったの?」

「あっ。なんだそういうこと? んー、別にないかなぁ」

「ほんとあなたは…………ティア」


 ポムっとセレティアナが姿を見せた。


「どうしたのカレンちゃん?」

「聞いていたでしょ?」

「モチロンだよ」

「ならどうだった?」

「まぁ確かに変な気配はあったよねぇ。たぶんそのお嬢ちゃんも気付いているんじゃないかな?」


 セレティアナはニーナを指差す。


「へ?」

「ほらっ。あのサリーとかいう子」

「ああ。ティアナちゃんと同じような魔力だったよね?」

「そうそれそれ」


「「えっ!?」」


 セレティアナとニーナで共通理解する中、ヨハンとカレンは驚愕した。


「ねぇニーナ」

「なに?」

「サリーさんとセレティアナって魔力の感じが似ていたの?」

「うんそうだよ。っていっても同じじゃなく、こう……なんていうのかな。柔らかさが近いっていったらいいのかな」

「柔らかさ?」


 ニーナの言うその魔力の見え方はニーナにしかわからないのだが、ここに至ってはセレティアナと共有できる感覚もある。


「でもよくわかんない」

「そう。関係あるのかないのかわからないけど、一応視野に入れておきましょうか」

「わかりました」


 そうしてドミトールへと戻った。



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