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第二百二十三話 閑話 帝都の催し②

 

「大食い大会を開始する前に皆様にお伝えしたいことがあります」


 カルロスは魔道具に映し出された映像を指差した。


「こちらに映し出されている縄で縛られた男ですが、もちろん彼も商品の一つでございます」


 途端に会場がざわつき始める。


「おい、あれは奴隷か?」

「奴隷制度なんてもう随分前に廃れたじゃねぇかよ」


 かつてカサンド帝国にあった奴隷制度。

 辺境や他国ではまだ奴隷や奴隷紛いのことはいくらか散見されるのだが、帝都で奴隷を堂々と見せびらかすなど以ての外。


「ご安心ください。彼は奴隷ではありません」


 カルロスはニタリと笑みを浮かべた。


「さて、皆様が抱いた疑問。彼のことで補足説明させて頂きます。彼の名前はロブレン。実は彼、シグラム王国から一攫千金を夢見てこのカサンド帝国にやって来ました。そこで商人として活動をしていたのですが、立て続けに失敗を重ね、商業ギルドから多額の借金を背負うことになったのです」


「ロブレンさん、上手くいかなかったんだ」

「まぁ商才なさそうだったもんね。ってかこの短期間でどれだけ失敗したんだろう?」

「……確かに」


 まだ帝都に来てそれほど時が経っていない。一ヵ月程度。思わず呆れてしまう。

 帝都に着いて別れたロブレンのその後を、まさかこんな形で知ることになるとは思ってもみなかった。


「そんな彼ですが、当然借金は返済して頂かないと困ります。ですので、予め交わしていた契約に基づいて借金の返済を終えるまで彼は商業ギルドにて無償で働く事になりました」


 ロブレンの言葉を聞いて会場はいくらか納得するのだが、それでもどうしてここにいるのかが理解できない。


「さて、ここからが彼の運命を左右するかもしれない転機になるやもしれません! 彼を無償で働かせても良かったのですが、しかしながら商業ギルドも鬼ではありませんでした。彼に最後のチャンスを与えることになったのです。 それがこの場! もし仮にですが、優勝者がその権利を行使して彼を賞品に選ぶことがあれば、その時点で彼の処遇に関しては商業ギルドの手元を離れます。つまり、交わされていた契約が無効となるので、彼の借金はなくなります。あとは煮るなり焼くなり小間使いにするなりは選ばれた方の好きにしてください。もちろん私達はそれについて一切の関与も責任ももちません。彼に同情して無条件で解放することも自由であります」


 そうしてカルロスが一通りの説明を終えた。

 しかし、その話は扱いようによっては実質的に奴隷のようなものも含まれている。


「ねぇお兄ちゃん?」


 一連の話を聞いたニーナが真顔を向けて来た。


「なに?」

「優勝したらあの人選ぶの?」

「えっ? あぁ……いやぁ…………」


 問い掛けに対してすぐに返答できない。


「うーん。確かに知っている人があんな状態なのはちょっと気が引けるよね」

「そっか。でもね、あたしとしては大会でいっぱい食べられるのは嬉しいけど、あの人の為に食べるってなるとなんか違うんだよねぇ。お兄ちゃんのためなら喜んで食べるけど!」

「……あっ、そう」


 となるとどうしようかと頭を悩ませる。

 そのまま隣にいるアイシャをチラリと見た。


「ダメですよ。ヨハンさん」


 問い掛けるまでもなくアイシャも真顔で答える。


「どうして?」

「私達はミモザさんから優勝してあの大量の食料を持ち帰るように言われているのですから」

「あっ、そうなんだ……」


 元々はミモザとアイシャの二人で買い物に出ていたはず。それがどうなってこうなったのだろうかと思っていたのだがようやく理解した。

 だからミモザはあれだけ急いで自分とニーナを連れに孤児院に戻って来ていたのだと。


 ――――どちらかというと大食いなのだからニーナの方をより重要視して。


「そっか。でもそうなるとロブレンさんもちょっと可哀想だよね」

「それはそうですけど、失敗したのはロブレンさん自身の責任であって、私達のせいではありませんよ。仮に他の誰かが優勝してロブレンさんを選ばなくたってロブレンさんは商業ギルドで住み込みで働くだけじゃないですか? 贅沢はできないでしょうけど生きることはできます。そうなると私とそう変わらないですよ?」

「確かにそうだけど……」


 アイシャの言い分にも一定の納得はできる。


「そんなことよりなにより!あれだけの食料があれば私もいっぱい料理できますし、みんな喜んでくれますよ!」


 目をキラキラとさせているアイシャはもう優勝する気で、食材にしか目がいっていない。


「そんなことって……。まぁわかったよ。とにかく僕は食材をいっぱい獲ってくればいいんだね?」

「はい!よろしくお願いします!」


 もし優勝できなかったとしても、数ある豪華商品の中から失敗続きで使えない男の烙印を堂々と押されている男を誰かが、他の参加者が選ぶなどとは到底思えない。

 となると、よっぽどロブレンに何かしらの興味が湧かない限り身の安全は保障出来た。


 考えても仕方ないかと見切りをつけて小さく息を吐く。


「じゃあ早速行って来るね」


「いってらっしゃーい」

「気を付けてくださいね」

「大丈夫。任せといて」


 それに、商品どうこうは優勝しなければどうにもならない。

 先ずしなければいけないこと、任された食材調達のため地下に潜る出発地点に向かった。



「けっ。子どもが混じっていやがるかと思ったらコイツかよ」


 歩きながらふと耳に聞こえる声。

 振り返ると、そこには見覚えのある顔。


「えっと、確かゼンさん?」


 ゼンは忌々しげな視線をヨハンに向けている。


「おい小僧。アッシュの野郎はどうしたよ? アイツも参加してやがんのか?」

「いえ、今日は別行動をしていますよ?」

「へぇ……そうかい」


 ゼンはヨハンの言葉を聞いてニヤリと厭らしく笑みを浮かべた。


「ハッ! ならお前もツイてないなぁ」

「何がですか?」

「いや、なんだ。これから地下に潜るんだ」

「はい。そうですね。ルールですから」

「中には獰猛な獣がいるらしいじゃねぇかよ。十分に気を付けるんだな。事故が起きるとも限らないんだぜ?」

「え? はい。ありがとうございます」


 ゼンがわざわざヨハンの身の安全を心配してくれたことで礼を返す。


「(それがツイてないのとどういう関係があるんだろう?)」


 ただその言葉の意味がもう一つ理解できなかった。

 事故と言われてもまだ何も始まっていない。


「チッ!……まぁいい。これでアッシュの野郎に一泡吹かせられるぜ」


 ヨハンの反応が面白くなかったのだが、それ以上言葉を交わすことなくゼンは地下に向かう階段の一番先頭に立つ。


 その後ろ姿を見ながら一体なんだったんだろうと首を傾げた。


「まぁいっか」


 周囲を見渡し、会場の熱気に目を送る。


「なんかこういうのも楽しいかもしれないね」


 声援が飛び交う中、こういった趣の催しには参加したことがなかったので妙に気分が高揚していた。


「では参りましょう!」


 そうしてカルロスの合図で大食い大会が幕を開ける。



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