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第二百二十二話 閑話 帝都の催し①

 

 帝都を出る二日前。


「ちょっとヨハンくんとニーナちゃん!」


 部屋でニーナと一緒に寛いでいたところに慌てた様子で部屋に飛び込んで来たのはミモザ。


「どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもないわよ!早く行くわよ!」

「えっ?」


 グイッとニーナと共に強引に腕を引っ張られた。


 わけもわからず孤児院から連れ出されることになるのだが、疑問なのは孤児院を出る前、孤児院の子ども達に大きな声援を送られている。


「ヨハンさん!頑張ってねェ!」

「ニーナちゃんおねがーい!」

「お土産待ってるよぉ!」


 といった具合。


 そうして帝都の中、大通りまで引っ張られた。

 人通りのある大通りの中を掻い潜るようにしてミモザは勢い良くヨハンとニーナを引っ張っていく。


「ねぇ、どこにいくの?」

「早く行かないと始まっちゃうじゃない!」

「ちょ、ちょっと!ミモザさん!どういうことですか!?」

「えっ?そんなのもちろん決まってるじゃない!」


 そこでようやくミモザは立ち止まった。

 そこは帝都の広場。円形に象られた広大な広場であり、多くの人が立ち止まっている。


「お兄ちゃん、あれなに?」

「えっ?あれって確か……」


 中央にあるのは映像の魔道具。

 人が多く集まった際の、特定の場所や人を映し出し視点を共有するというもの。


「あんな珍しいものがあるなんて、さすが帝都だな。でもアレなんだろう?」


 感心すると同時に疑問に思うのは、そこに大きく映し出されているもの。

 どうにもそこには真下にある調理場のような物がいくつも映し出されていた。


「もう!ぎりぎりですよ!」

「あれ?アイシャ?」


 微妙に焦りを見せるアイシャが小走りで来る。


「ほらっ、早く行きますよ!」

「いや、だからどこに!?」


 次にアイシャに手を引かれて、立ち止まっている人の隙間を縫って行った。


「頑張ってね!」

「え? え?」


 手を振るミモザにも声援を送られる。

 わけもわからず人混みの中を潜り抜けるようにして連れていかれた先は広場の中央。

 そこは映像の魔道具に映し出されていた場所。


「おっ? 君たちが最後だね」

「はぁ、はぁ。すいません。お待たせしました」


 息を切らせながらアイシャは目の前の男に声を掛けた。


「大丈夫大丈夫。いやぁ、それにしても子ども達のみでの参加か。これはこれで面白い」


 ニヤリと笑みを浮かべる男は片手に拡声の魔道具を持ち、燕尾服に身を包んで口元に髭を生やしている。



 燕尾服の男はそのまま拡声の魔道具を口に持っていった。


「お待たせしました!」


 広場全体に向けて声を発す。


「さて、みなさま。本日の大食い大会に参加される方が出揃いました!」


 中央に立ち並ぶ数十人の人達に向けて手を広げた。


「待ってました!」

「いよっ!千両役者!」

「今日のテーマにその子達は大丈夫かー!?」


 途端に割れんばかりの歓声が響き渡る。


「えっ!?大食い大会!?」


 横にいるアイシャに目を向けるとニヤリと微笑まれた。


「なになに?何を食べさせてくれるの!?」


 大食いという単語に即座に反応したニーナは既に涎を垂らしそうになっている。


「ねぇアイシャ?どういうこと?」

「それは今から説明してくれますよ」


 シーっと指を口元に送るアイシャの視線の先には燕尾服の男。


「さて皆様。先ず、司会進行を務めさせて頂きますのはいつもの通りこのわたくし、カルロス・アセイドでございます」


 燕尾服の男、カルロス・アセイドはそのまま片手を大きく広げて頭を下げた。


「今回の参加者はテーマがテーマということもあり基本的に腕に自信のある方達ばかりなのはご覧の通り!」


 ヨハン達の方に向けて手を広げるカルロス。


「こちらの皆様って……――」


 横に目を向けると、ヨハン達と同じようにして立ち並ぶ数十人。

 さすが大食いだといわんばかりの太った人がいるのはもちろんのことなのだが、疑問に思うのはそのほとんどが金属製の装備を身に付けた冒険者や戦士風の人達が多い。


「えっと?どういうこと?」


 意味がわからずその姿を見ていると、カルロスが言葉を続ける。


「では今回のルールを改めてご説明させて頂きます。先ず、今回の大食いは三人一組のチーム戦! その役割は調達担当と調理担当、それと食事担当でございます!」


 声高に発するのと同時に歓声が沸き起こった。


「よっしゃあ!」

「待ってました!」

「ちっさいの頑張れよぉ!」


「そして、それぞれの担当にはポイントが割り振られていますが、なんといっても食事担当が全体の半分を占めますのはご存知の通り」


 同時にヨハン達と同じようにして並ぶ面々もガシッと拳を合わせるなどして気合の入り様を見せている。


「えっと。調理担当と食事担当はわかるけど、調達担当って?」


 調理場は設けられているのだが、大食い大会の割には周囲に食材らしきものが見当たらない。


「頼りにしていますね。ヨハンさん」

「え?」


 満面の笑みのアイシャ。

 どこかから調達してくるのだろうかと考えていたところに掛けられるその言葉。

 どういうことなのだろうかと考えるのだが、次にカルロスが告げる言葉でそれを理解した。


「では皆様。ここで今大会の協賛をご紹介致します。先ずは商業ギルド長のロレンテ・マッシラーモ様。そして冒険者ギルド長のアリエル・カッツォ様のお二方です」


 手を振りながら壇上に上がるのは、商業ギルドと冒険者ギルドの長。

 アリエルはもちろん知っており、初めて見るロレンテの方は背の高い眼鏡を掛けた男。


「あっ。アリエルさんだ」


 壇上に上がるアリエルにカルロスは拡声の魔道具を手渡す。


「さて、今回の調達場所にはそれなりのヤツを用意させてもらった。もちろん食べられるのは商業ギルドのお墨付きだ」


 そうしてそのままアリエルの口から語られたのは、調達場所である広場の脇にある地下に続く階段。

 地下に当たるそこは入り組んだ構造をしており、そこに百の獣、シャドウドッグを放っているのだと。それを調達担当が捕獲した後、調理担当に引き渡し調理し、最終的に食事担当がそれをたいらげるといった主旨の内容だった。


「もちろん危険なことが起きようものなら、私自身がそれに対応しようじゃないか」


 アリエルのその一言で今日一番の歓声が沸き起こる。


「マジか!?」

「爆撃のアリエルを直接見れるのか!?」

「見に来た甲斐があるってもんだぜッ!」


 そこでアリエルがカルロスに拡声の魔道具を返した。


「皆様お聞きになられましたね? 冒険者ギルドの現マスターであるアリエル・カッツォ、かつてS級冒険者として名を馳せた元冒険者、爆撃のアリエルが皆様の安全を保障させて頂きます」


「えっ?アリエルさんって、元冒険者だったんだ……」


 それを聞いていくらか納得する。

 冒険者ギルドの長であるアリエルがその若さでギルド長になったのは元冒険者だったのだと。それもただの冒険者ではなく、二つ名持ちのS級冒険者だった。


「そういうことですので調理担当は私が、もちろん食事担当はニーナさんでヨハンさんは調達担当。よろしくお願いしますね」

「そういうことかぁ。まぁわかったよ」


 主旨は大体理解する。


「最後になりましたが、今回の優勝商品のご案内をさせて頂きます! これも協賛である商業ギルドに準備して頂きました!」


 映像の魔道具の画面が切り替わった。

 そこに大きく映し出されたのは多くの武具や食料の山。他にも高級そうな衣類に家具や装飾品など。


「この中から好きなものを一つ選ぶことができます!」


「えっ?あれって……――」


 その中で一際異彩を放つのは、縄で縛られた見知った男。


「あっ。あれって、ロブレンさんじゃない?」

「――……だよね」


 ニーナの言葉通り、そこにはシクシクと涙を流している見習い商人、ロブレンの姿があった。



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