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第二百二十一話 帝都出発

 

 五日後、ヨハンとニーナは帝都から外に出ていた。

 前方、北に向かうその街道には、装備を整えた帝国兵何百人もの姿が遠くに見える。


「まさか護衛対象がラウルさんの弟さんだったなんてね」


 アリエルが語った皇族の護衛依頼。

 外交視察を行うのは、ルーシュ・エルネライ。

 つまり、帝位継承権第三位に当たる人物のことだった。


『そうか。ルーシュの護衛に入るのか』

『ああ。だからラウル達とも無関係というわけでもないのだよ』


 護衛とはいっても所詮末端。

 近辺の護衛は帝国兵団とより上級の冒険者が務める。


『ヨハン、ニーナ。すまなかったな』

『いえ、大丈夫ですよ。というわけで向こうでもよろしくお願いします』

『ああ。むしろ俺達としてはその方が助かるからな』


『まぁその方が都合の良いこともあるか』


 メイデント領への道中、目的地は同じになったとはいえアッシュ達が任務を受けたルーシュの護衛団とラウルは別行動をすることになっていた。

 ルーシュ・エルネライは公務として赴くことになっているのだが、ラウルは個別に極秘裏にメイデント領に向かうことになっている。


「それにしても、アイシャ、大丈夫かな?」

「まぁあの様子なら大丈夫でしょ」

「そう……だね」


 後ろを振り返り帝都の奥、見えはしない孤児院の方角を見た。



 ◇ ◆ ◇


 孤児院を出る前にアイシャに別れの挨拶を済ませている。

 玄関でアイシャは俯いてもじもじとしていた


「ほら、頑張って」


 ミモザが小さく声を掛けるとアイシャは顔を上げ、そこで口を開く。


「あ、あの? ヨハンさん、ニーナさん。帝都から出て旅に出るんですよね?」

「うん。ごめんね、ずっと一緒に居てあげられなくて」

「ううん、いいの。私はただ助けてもらっただけじゃなく、ここまで連れて来てもらっただけでも十分だし友達もできたし」


 顔を上げたアイシャは満面の笑みを浮かべた。


「あー、でも順調に行けばまた一か月後には戻って来るからさ」

「武闘大会のことですよね?」

「うん。まぁ上手く帰って来れればの話だけどね」

「……そうですか」


 ラウルには話のついでに武闘大会のことを相談している。

 今回の遠征が無事に終われば帝都に戻って大会に出た後にシグラムに戻るという許可をもらっていた。


「また帝都に来た時はアイシャちゃんの美味しいご飯食べさせてね!」

「もちろんですニーナさん! その時はミモザさんより美味しいの作れるようになっていますね!」

「あっ!言ったなー!じゃあ今度ニーナちゃん達が来たときはどっちが美味しいか料理勝負よ!」

「えへへっ」


 目尻の涙を拭って、ヨハンとニーナとの別れを惜しみながらもそうして見送られた。



 ◇ ◆ ◇



「(それにしても、こんなところでシトラスの名前を聞くなんて……)」


 考えに耽るのは、アッシュ達との話を終えたその後のこと。

 ラウルがメイデント領を目指すその理由が、ヨハンがもたらした魔族シトラスと魔物を召喚する魔道具の情報。


 帝国内部に謀反者がいることを想定した上で暗部に情報収集をさせた結果、それがどうにも今回の外交視察に関係しているのだという。



「待たせたな」


 後ろからラウルの声が聞こえた。


「えっ!?」


 振り返ると、ラウルの隣にいる人物に驚く。


「あれ?このお姉ちゃんも行くの?」

「ええ。それがなにか?」


 ラウルの隣にはカレン・エルネライの姿があった。

 その姿は白のローブ姿は変わらないのだが、どう見ても旅支度をしている。


「カレンもルーシュに付いていくことになっているのでな」

「ええ。わたしはルーシュの補助をする必要もあるのです。それに、今城に残っていてもアイゼン兄様に邪魔者扱いされるだけですので」


 帝位継承権を持たないカレンが持てる役割は限られていた。

 実弟であるルーシュとは歳も七つ離れているのだが、継承権のあるルーシュの方が立場としては上。


「(まぁ、おまけみたいなものだけどね)」



 ◇ ◆ ◇


 数日前、帝国城にて。


「ラウル様、密書が届いております」

「ん。わかった」

「では失礼します」


 ラウルの私室を訪れた臣下によって手渡されるその封筒。

 臣下から封筒を受け取り、クルっと見渡して見ても封筒には何も書かれていなかった。


「俺が帝都にいるかどうかもわからないのにわざわざ送ってくるなんてな。一体誰からだ?」


 ラウルは懐から羽ペンを取り出し、羽ペンに魔力を流し込む。

 極秘文書の際に用いられるその魔道具は、魔力により閉じられていた。

 瞬間、羽ペンと封筒が光ったかと思えば封筒は自動で開かれる。


「どれどれ?」


 中から紙を取り出し、目を通すと同時にラウルは驚愕に目を見開いた。


「帝国の宝珠を持って来いだと!?」


 手紙の差出人はローファス王であり、内容の詳細は直接伝えるのだが、ヨハンを連れて帰る際に合わせて帝国の赤の宝珠を持ち出して欲しいという内容。


「どういうことだ?あれは門外不出の宝珠、それを持ち出せなどということは俺にもおいそれとできることではないぞ?そんなこと青の宝珠を管理しているシグラムも同じだろうに…………」


 しばし思考を巡らせる。


「だが、これは間違いなくローファスからのもの」


 字体や密書の構造上、偽造とは思えない。


「このタイミングで意味もなくこんなものが送られてくるとは考え難いか……」


 となると何らかの理由でそれが必要になるということなのだが、その理由は直接話すという。


「むぅ……。仕方ないな……――」


 どうしようかと悩ませた結果、どちらにせよ持ち出すならば皇帝の許可が必要になるという結論に至った。


 そうして皇帝の私室を訪れる。


「――……なるほど。理由はわからないのだな?」

「はい」

「ふぅむ。どうしたものか。あの小僧は楽観的な部分はあるが、一国の王としては十分弁えておるからの」

「はい。如何致しますか?」


 ラウルの言葉を受けてマーガス・エルネライ皇帝は僅かに考え込んだ。


「そうだな。どちらにせよそう長くない時を以て皇帝の座は明け渡すことになる。ならば今回の件、その件を解決したのならば次代が誰になろうとも我が名を以て持ち出しを許可しよう。もちろん一筆したためておく」

「ありがとうございます」

「だが、本当にそれでいいのか? 魔族の関与もまだ下調べ段階なのだろう?」

「ええ。ですが、間違いないと思われます」

「勘か?」

「ええ。勘です」


 シンバ達暗部の調べによると、メイデント領において不穏な噂が立ち込めているのだと。

 どうにも魔道具の出所がその領地だと思えてならない。


「そうか。お前の勘は当たるからな。それとだ。報告にあったオーガを倒したというそのアトムの子の顔だけでもせめて見れたら良かったのだがな」

「さすがにそれは今の皇帝に会わせるのは難しいかと」

「それも仕方ないか……ゴホッ、ゴホッ!」

「皇帝、そろそろお休みになられた方が良いかと」

「あ、あぁ」


 ベッドに横になり、マーガス皇帝は天井を見上げる。


「仮にこれが上手くいけば、あと残るはカレンのことだけだな」

「上手くいけば、ですが」

「そこはお前がなんとかするのだろう?」

「最善は尽くします」

「ははは。頼んだぞ」

「かしこまりました」


 目を閉じるマーガスに向かってラウルは深々と頭を下げた。



 ◇ ◆ ◇


「どうかしましたかお兄様?珍しく上の空でしたけど?」


 目線を下ろした先には小首を傾げている妹、カレンの姿。


「いや、なんでもない」


 視線の先のカレンを見て思案に耽る。


「(カレンの将来を見据えると、やはり今回の件を上手く片付けないことにはな)」


 目の前のカレンは疑問符を浮かべながら小首を傾げた。


「そうですか?」

「それよりも、気を引き締めておくことだな。向こうで何が起きるのか想像もつかない」

「もちろんです。あの子達よりわたしの方が役に立つのだということを証明してみせます」

「あまり張り切り過ぎて空回りしないことだな」

「問題ありません」


 カレンは帝国兵団に合流しようと前を歩いているヨハンとニーナを見る。


「カレンさん。行きますよ?」

「わかってるわよ! では兄様もお気を付けて」

「ああ」


 カレンはラウルに頭を下げて小走りでヨハンとニーナを追いかけた。


「さて。では俺も行くとするか」


 ラウルは後ろを振り向き、再び帝都の中に戻っていく。

 そうしてヨハン達はカサンド帝国北方にあるメイデント領を目指した。



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