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第二十一話 魔素溜まり

 

 マヌエルの丘は王都を出てしばらく南西に歩いた場所。

 丘は多少小高いだけであり、特に目立って何かあるようには見えなかった。


「おいおい、ここに何があるんだよ?何の変哲もない普通の丘じゃねぇかよ」


 ヨハン達がマヌエルの丘に着いた頃、周囲に人の姿は見当たらない。


「おかしいな。ミネルバのお父さんもここにいるはずなのに」


 誰か人がいないかと周囲をぐるっと見て回っていると、モニカが声を上げる。


「見て!あそこ誰か倒れているわ!」


 モニカが指差した方角に慌てて駆け寄ると、そこには血を流し倒れている人たちの姿があり、呻き声を上げていた。


「うぅ…………」

「どうしたんですか!?何があったんですか?」


 モニカは治癒魔法を施しながら問いかけるも返事がない。


「どうやら争ったあとみたいだけど」

「盗賊かなんかが出やがったのか?」

「いいえ、違うみたいですわ」


 エレナが拾い上げたのは男の荷物。そこにはエレナが確認したところ、何かが盗られているような様子はなかった。


「なら一体何が?」


「――うっ…………」

「気が付きましたか!?何があったのですか?」


 ヨハンが治癒魔法をかけていた男が微かに意識を取り戻すと僅かに腕を上げて遠くを指差す。


「あっちか?向こうに何があるっていうんだ?」


 レインが男の指差した方向に向かって歩いて行くと、荷馬車があった。

 荷台には植物がいくつも積み込まれている。


「なんでぃ、ただの花じゃねえか」

「ちょっと見せて下さいませ」


 エレナがレインの脇から荷台を覗き込む。


「これは……マスリオの花ですわね」

「知ってるの?」

「ええ。マスリオの花は観賞用の植物として採られるのですが、洞窟の中でしか咲かない珍しい花ですわ」

「これがどうかしたのか?」


 何故男はこの花を指差したのか疑問に思う。


「つまり、ここで採れるのがこの花ってことは、この近くにこれが咲いている洞窟があるってことだよね?」

「ええ」

「探してみよう」


 手分けして洞窟を探すと、その洞窟はすぐに見つかった。


「ここか」

「一体ここがなんだってんだ」

「とにかく入ってみよう」


 怪我をしている人たちの治療をして、洞窟の中に入る。

 洞窟に入るとすぐに薄暗くなった。


 少し歩いて行くと、奥に光が見える。


「……きれい」


 モニカがマスリオの花が咲き誇っているのを見て感嘆の声を上げるのだが、ヨハンは周囲をキョロキョロと見やる。


「ねぇ、なんだか空気がおかしくないかな?」

「そうか?まぁ確かにちょっと変な感じはするけど、洞窟なんて大体こんなもんじゃないか?」

「ううん、そうじゃなくて、なんだか息苦しいっていうか、空気が濁っているっていうか…………」

「ちょっと待ってくださいませ」


 ヨハンの発言を受けて、エレナは慌てて鞄から何かを取り出す。


「これを見て下さいませ」


 どうしたのかとエレナが持つ中央に針がある小さな円形の物を見ると、針は動き出していた。


「どうやらここには魔素が充満しているみたいですわね」

「魔素?魔素って確か授業で習ったよね?魔物が発生する要因になるっていう魔力の一部って」

「ええ、その通りですわ。これは魔素を測る為の道具で、これが示しているのは、まだ魔物が生まれるとまではいかなくても魔素が溜まりだしているということです」

「それがどうしたっていうんだ?」

「わかりませんが、もしかしたらこれが何らかの原因を生んでいるかもしれませんわね」

「とにかく一度出よう。ここにいたらよくないかもしれない」


 まだ何かが起きたわけではない。

 それでもヨハンは嫌な感じを払拭できないので洞窟を出ることにした。



 怪我人を荷馬車に乗せて王都に戻る。

 関係者を探し、怪我人を預けた後に冒険者ギルドに向かう。そしてアルバにマスリオの花の群生地と魔素が溜まり始めていることの報告をした。


 今回の件にそれがどれぐらい関係しているのかわからないが、無関係には思えなかった。



 ――――三日後。


 アルバから再び呼び出しがかかったので向かった。


「お前達の報告を受けて王国の研究機関に調べてもらったんだ」


 そうしてアルバはコトンと小さな花瓶に活けたマスリオの花を置く。


「お前達の危惧していた通り、やはりこれが原因だったな」


 ヨハン達はお互いに顔を見合わせる。

 マスリオの花が何かに関係しているかもしれないとは思っていたのだが、アルバが断定したことに理解はできない。


「あの?実際はどういう原因だったのですか?」


「うむ。魔素に関することは知っているな?」

「はい。授業で習いました」

「それで、この花に溜まっている魔素を調べてもらったところ、花からも微量の魔素が検出された。つまり、観賞用の花に溜まっている魔素を自宅に取り込んでしまっているということだな。どうやらそれが幻覚作用を引き起こしているという結果が研究所より報告があった。幻覚以外にも興奮しやすくなるなどの、まぁ魔素中毒による一種の禁断症状がでるみたいだな」


 なるほど、とエレナが小さく頷きながら納得したように口を開いた。


「つまり、あそこで働いていた人たちは他の人以上に魔素を多く取り込んでしまっていたということですわね?」

「ああ、その通りだ。そしてお前たちが行った少し前に何かをきっかけにして自我が決壊したのだろうな。症状が軽いものがその時の様子を話した」


 他にも、症状が重症の者は専用の施設に入院しているらしいという話を聞いた。幸いにもミネルバの父は軽症のようで既に自宅に戻っているのだという。


 現在、マスリオの花の群生地であった洞窟を始め、周囲は魔素の浄化作業に取り掛かっているらしい。


「それにしても、思っていた以上に早期解決したものだな。しばらくかかることは覚悟していたのだが」

「偶然同級生のお父さんがそこで働いていたから良かったのよね」

「いやいや、それに判断も早かった。魔素を感知して可能性に関連付けることも評価できる」


 アルバによれば、魔力探知に優れた魔導士がいれば魔道具を使わずとも魔素を感じ取れることができると言うのだが、それは経験豊富な魔導士のこと。


「(ふむ、エリザも優秀な魔導士だったからな)」


 照れるヨハンを見ながらアルバは考える。


「(あとは実力の方だが、ビーストタイガーを倒したほどだからそこも問題ないか。他の三人…………まぁ大丈夫だろうな。念のため王家には許可も取ったことだし。そもそもローファスが若い頃も無茶をしておったしな)」


 アルバはヨハンに視線を送ったあとに他の三人、モニカにエレナにレインを見る。


「――さて、今回は初依頼だったが、今後はもう少し危険が生じる案件も担ってもらう必要もあるのだが、頼めるか?」


「はい」

「ええ、当り前じゃない」

「もちろんですわ」


「お主は?」


 アルバがレインを見る。

 レインは少しばかり不安に思うのだが、ここまで来た以上引き下がれない。覚悟と怖気を同時に抱いて小さく喉を鳴らす。


「だ、大丈夫っす!」

「まぁそう案ずるな。なるべく命の危険は少ないように配慮はするさ」

「(……おいっ、なるべくなんかよ)」


 そうしてそれからはアルバからの依頼を何度となく頼まれることになった。



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