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第二百十五話 銀髪の皇女

 

「それにしても、今後の予定って何だろうね?」

「楽しみだねぇ」


 孤児院の中をニーナと歩いていた。

 久しぶりにラウルと再会する。

 一体どういう話をされるのか期待に胸が膨らんだ。


「(けど……――)」


 チラリと横目に笑顔のニーナを見る。


「(――……まずニーナのことを聞かないといけないな)」


 ラウルが知っていればいいのだが、と今日起きた出来事を思い返した。

 そうして程なくして応接間のドアの前に着き、ガチャッとドアを押し開く。


「帰って来たか」

「はい。お久しぶりです」


 部屋の入り口からラウルの姿が視界に入り、一歩中に進んだ。


「えっ!?」


 同時に目に入って来た人物、ラウルの後ろに立っていた女性の姿を見て困惑した。

 そこには、気品のある白のローブ姿の女性、透き通る様な銀髪の美しい女性が立っている。


「うわぁ。アイシャちゃんの言っていた通りすっごい綺麗な人だねぇ。お姉ちゃんとエレナさん並みに綺麗だねぇ」


 ニーナは銀髪の女性を見るなり感嘆した。


「どうしてティアナさんがここに?」


 思わずその女性、路地裏で出会った女性のことを口にしたのだが、ラウルは疑問符を浮かべる。


「ティアナ?」

「え?」

「ん?」


 ラウルの後ろに立っているのだから間違いなく知り合いのはず。その女性の名前を知らない筈はない。

 女性は間違いなくティアナと名乗っていた。


「(……ふぅ。やっぱりこの子だったのね。もしかしたらと思ってたけど)」


 銀髪の女性は小さく首を振る。

 内心では苦笑いしているのだが、表情にはおくびにも出さない。


「どうした? お前ら知り合い……というわけでもなさそうだけど」


 ラウルは二人の様子を交互に見やった。


「申し訳ありませんお兄様」


 溜め息を吐きながら女性はラウルに声を掛ける。


「お兄様!?」

「少し黙って頂けますか?」

「は、はい」


 ティアナと名乗っていた女性にギンッと睨みつけられた。


「まぁそう邪険にするな。こいつが話していたヨハンだ」

「はい。存じております」


 ニコリと笑みを浮かべる。


「そうか。その話は後で聞くとして。ヨハン。紹介するよ。妹のカレンだ」


 ラウルに声を掛けられたことでカレンは小さく頭を下げた。


「初めまして……ではありませんが、改めて自己紹介させて頂きます」


 真っ直ぐに目を見られる。

 その印象は以前会った時とは打って変わって柔らかな物腰。


「カサンド帝国第一皇女、カレン・エルネライと申します。以後お見知りおきを」


 綺麗な姿勢でニコリと笑みを向けられた。


「あっ……はい……よろしくお願いします」


 呆気に取られて軽く頭を下げる。


「それで? どうしてヨハンと知り合いなんだ?」

「いえ、知り合いというほどではありません。この子とは、お兄様が今回帰還された際にわたしがお兄様を出迎えようと街に探しに行ったのですが、その時に暴漢から助けてくれただけです」

「ほぅ。そんなことが。それはすまなかったなヨハン」

「い、いえ、偶然ですよ」


 慌てて手を振るのだが、それよりも気になることがあった。


 今のやりとりで目の前の女性がラウルの妹だということはわかる。

 つまり皇族だということは。


「あのぉ?」

「はい」

「つかぬことをお聞きしますが、どうして偽名を?」

「別に深い理由はありません。見ず知らずの人に本名を名乗りたくなかっただけです」

「あー、そうですか」


 ぶっきらぼうに答えられるのでそれ以上質問しようがない。

 とはいえ、あの時の溌剌とした仕草や言動の一切も見られない。

 加えて装いや仕草も大きく違った。


「とりあえずこれでお互いの自己紹介は終わったようだな。で、早速だが今後のことを話したい」

「その前に僕からもラウルさんに聞きたいことがあります」


 真っ直ぐにはっきりと真剣な眼差しをラウルに向ける。


「聞きたいこと?」

「……はい」


 その様子、ヨハンの真剣さを受けたラウルは僅かに表情を引き締めた。


「……どうやら重要な話のようだな」

「そうですね」

「わかった。で、何が聞きたい?」


 ラウルの口調が一段階重くなる。


「ニーナのことです」

「ん?あたし?」


 唐突に自分の名前を出されたことでニーナは小首を傾げた。


「ニーナのことか……何があった?」


 まだ具体的な質問を何もしていないのだがラウルはどういうことなのかと尋ねずに内容を問い掛けて来る。


「(やっぱりラウルさんは何かを知ってるみたいだね)」


 突然ニーナのことを問い掛けたのにこの反応。

 つまり、ラウル自身も何らかの事態が発生したのだということを理解している様子を見せていた。


「えっと……――」


 すぐにでも話したいのだが、ニーナのこの事情をカレンに聞かせていいものかどうか悩む。


「(へぇー、こんなところにあんな種族がいるなんて珍しいわね)」

「(ティア?)」


 カレンの契約精霊であるセレティアナの声。


「(あんな種族って?)」


 セレティアナの声に応えるよう心の中で小さく返事を返した。


「(あの子のことよ。あの子、竜人族の血が混じってるね)」

「(竜人族!?)」


 バッとカレンは驚きニーナを見る。


「なに? どうしたの?」


 先程までと違う表情のニーナとヨハン。

 カレンは確かにニーナを見たのだが、そのニーナがきょとんと目を丸くさせているだけでなく、隣にいるヨハンも同じような顔をしていた。


「あた、しが、りゅうじん……ぞく?」

「い、いや、正確には混じっているって」


「えっ!?」


 まるでセレティアナとの会話をヨハンとニーナに聞かれていたのではないかと思われるようなその反応。


「どうしてあなたたち……」


 カレンは驚きに包まれる。

 一体何が起きているのか。


「……お兄ちゃん。あの人、何かに憑かれてるよ」


 カレンは疑問を向けてヨハン達を見るのだが、目が合うニーナは魔眼に魔力を込めてカレンを見ている。


「なにかって?悪霊?」

「だとしたら退治しないといけないかな?」


 ジッと二人に見つめられた。


「(ちょ、ちょっとぉ!ダレが悪霊よッ!そ、それに退治だなんて何物騒なこと言ってるのこの子ら!)」


「違うの?」

「違うみたいだね。だとしたら何なんだろうアレ」


「え?……聞こえ……てる?」


 両目に輪っかを作ってニーナはじーっとカレンを見る。


「カレン」


 ラウルが静かに声を掛けた。


「は、はい!」


 突然耳に入って来たラウルの声に思わずカレンは背筋を伸ばす。


「俺もセレティアナの声が聞こえた。恐らく二人もそうなのだろう」

「えっ!?そんなまさか!?」


 血縁者に精霊の声が聞こえることはある。

 そのため、城では聞かれないようになるべく気を付けて、誰もいないところでセレティアナと会話をしていた。


 セレティアナが実体化すれば見ることも話すこともできるようになるのだが、今の実体化していないこの状態で普通の人間にそんなことなどとてもできるはずがない。


 ――――それこそ、よっぽど魔力が強くない限りは。


「(ごめんねカレン。ボクも油断していたよ。どうやらこの二人はそれだけの魔力を持っているようだね)」

「(し、信じられないわ……)」


 まだ子どものこの二人にそれだけの魔力があるなどということは。

 いや、先程のティアの言葉が真実であるならば少女の方はまだわかる。竜人族の血が混じっているのだから。


 しかし、少年の方。

 ヨハンの方にもそれだけの魔力があるとはとても思えない。


「あの……――」


 訝し気な表情を浮かべながらヨハンに声を掛けられる。


「――……はぁ。いいわ。出ておいでティア」


 兄も認めている以上誤魔化すことなど無駄なこと。

 カレンが腕を伸ばして手の平を上に向けると、柔らかい光が包み込まれた。

 次の瞬間、ポムっと音を立てて姿を現したのは羽を生やして青い髪を結った小さな女の子。


「うわぁ」

「へぇ」


 初めて見るその状況にヨハンとニーナは目を奪われる。


「……もしかして、精霊?」

「かぁわいいっ!」


「ありがと。それとはじめまして。カレンの契約精霊のセレティアナといいます」


 セレティアナはカレンの手の平から浮かび上がり、後ろ手に組んで笑顔で挨拶をした。



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