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第 二百十話 帰路にて

 

『お父さん、どこいくの?』


 蒼い鎧を着込んで旅支度をしている男に桃色の髪の少女が疑問符を浮かべて問い掛ける。


『ちょっとな。もしかしたらしばらく帰って来ることができないかもしれない』


 床に置いていた荷物を拾い上げて肩に背負うと桃色の少女に男は申し訳なさそうな表情を向けた。


『えっ?そうなの?』

『ああ。食事は問題ないな?』

『うん。山で獲って食べるから大丈夫だよ』


 元気よく返事をする桃色の髪の女の子。


『そうか。それと、前から言っているが、もし俺が半年以上帰って来ないようならアトムのところ、イリナ村に行くように。俺に代わってあいつらが家族になってくれる』

『うん。わかった』

『あと、確か息子がヨハンという名で歳が一つ上だったはず。あいつらの息子だから魔力は相当あるはずだが、その辺は視ればわかるな?』

『うん。わかった。ヨハンさんだね』

『会えば今は兄代わりにして良い』

『今は?』

『ああ。今は、な。では行って来る』

『いってらっしゃーい』


 ドアを押し開いて出て行く男に向かって軽く手を振る。



「――……う、うぅ……ん」

「あっ。起きた?」

「(あっ、夢……かぁ)」


 ニーナは少しばかりの振動、胸の辺りに得る感触から背負われているのはわかった。

 ゆっくりと目を開けると、すぐそこ目の前には親しみを覚える男の子、ヨハンの横顔があり、周囲は森の中なのだとわかる。


「ふわぁぁぁ。お、はよぅ、おにいちゃん」


 大きな欠伸。

 起きることには起きたのだが、まだ眠気があった。


「大丈夫? どこか痛いところはない?」


 ニーナが寝ている間に治癒魔法をかけておいたのだが念のために確認する。


「なにがぁ?」


 寝ぼけ眼で目を擦る。


「おいおい。どんだけ呑気なんだこの嬢ちゃんは」


 反対側から聞こえる声。


「んー? モーズさん? おはよぅ」


 頭だけ振り返ると、そこにはモーズが呆れながら歩いていた。


「はいはい。おはようさん」


 いくらか不機嫌そうな様子を見せている。


「あんだけ熟睡してたのが起きたんだから仕方ないさね」


 後ろを歩くロロ。隣にはアッシュの姿。


「ちっ。みんなして嬢ちゃんにあめぇんだって」


「……どしたの?」


 状況が全く理解できないでいた。


「いいよ。詳しい事はあとで話すから、今はゆっくりと休んでたら?」

「んー、ありがとっ。お兄ちゃん大好き!」

「こ、こらっ、苦しいよニーナ」


 首に手を回してギュッと抱きしめる。


「こうして見てる分には普通に仲の良い兄妹にしか見えないね」

「まったくさね」


 じゃれる二人を見て、アッシュとロロは溜め息を吐いていた。


「っていうか、んなことがほんとにあったのか?」


 後頭部に両の手の平を当てるモーズはヨハンとニーナを横目に懐疑的な眼差しを向ける。


「あんたは死にかけてたから知らないのさ。あの圧倒的な力を」

「ああ。危うく俺まで殺されるところだったのだからね。今思い出すだけでもゾッとするよ」

「んなこと言ったってよぉ。しょうがねぇじゃねぇか」


 ボリボリと頭を掻いた。

 不甲斐無いという感情を抱くどころか、記憶がゼン達に出会ったところで途切れている。


「ソレがなければ信じろって言っても信じられねぇけどな」


 帰路の途中までアッシュに背負われていたので、ロロが持っている麻袋、素材を回収する用の袋に目を向けるのは、オーガの角がそこに入っていた。


「とにかく今は帰ってせめて報告だけでもしよう」


 アッシュはヨハンとニーナ、二人の背中を見る。


「(それにしても、いったいどういう子達なのだ?)」


 改めて抱く疑問。

 ニーナの豹変ぶりはもちろんのこと、そのニーナの強烈な一撃を押し負けることなく払い除けたヨハンの技量。

 得も知れぬ感情を抱きながらも帝都への帰還を果たすことになった。




 ◇ ◆ ◇



「いやぁ、にしても助かりましたね」


 ギルドの酒場で食べ物や酒を広げて高笑いを上げているゼン達四人。


「ああ。危うく死にかけたが、丁度良い所にアイツらがいやがったからな」

「ほんとだぜ。あいつらに依頼を達成されると色々と面倒だったんだが、これならあの話は俺達に回って来るな」

「ハハハッ!ちげぇねぇ!」


「しっかし、まさかオーガなんてのが飛び出してきやがるとはな。一体何がどうなってやがんだ?」


 ゼンの仲間の男が酒をテーブルに置いて、ふと考えに耽る。


「最近の帝国はなんか不思議な事ばっかっすねぇ」


 帝国内で小さな村が焼き討ちにあっているという噂はゼン達に限らず多くの冒険者達も耳にしていた。


「まぁどうでもいいじゃねぇか。これで忌々しいアッシュも死にやがったことだし、あの話も俺達のもんだ」

「だな」


 抱いた疑問もさもどうでもいい様子で、再び高笑いを上げる。


 そこでギルドのドアがギィッと音を立てて開かれた。

 気持ち良く酒を飲み続けていたゼンたちのところへギルドに入って来た者が歩いて来る。


「お、おいゼンっ!」

「あん? なんだよ?」


 ゼンの仲間の男が驚愕の表情を浮かべながらゼンの背後を震える指で差した。


「やぁゼン」

「なっ!? て、テメェ、アッシュ!?」

「さっきはどうも」


 その表情は対照的。

 笑みを浮かべるアッシュに対して、思わず口をあんぐりと開けるゼン。

 アッシュの後ろにはヨハン達の姿。全員、誰一人欠けることなく揃っている。


「一体、どうやって!?」


 あの状況から逃げて来られたのかと、まるで信じられないものを見ているとばかりに問い掛けた。



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