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第 二百六話 押し付け

 

 ニーナの額を一筋の冷や汗が垂れる。


「何かに追われてるみたいだよっ!」

「わかった」


 何に追われているのかはっきりとわからないのは、魔眼ではそこまで正確に把握できない。

 同時に微かに何かを薙ぎ倒す様な物音と地響きが聞こえてきた。


「アッシュさん!」


 とにかくまずアッシュ達に伝える必要がある。


「ん?」

「気を付けてください!何か来ますッ!」

「何かって、どういうことだい?」


 腰に手を当て、不思議そうな目で見られた。


「それは――」

「お兄ちゃん!来るよッ!」


 説明する間もないまま、説明しようにも正体はわからないのだが、それよりも早く前方にある深い木々の奥、そこの草木が徐々にガサガサとした葉音がしだす。

 その音が大きくなったと思った瞬間、ガサッと姿を見せるのは見知った冒険者達四人。


「――はっ、ハァ、ハァ、ハァ…………」

「なんだ。何が来るかと思えば。脅かすなよ。ゼン達じゃないか」


 姿を見せたのはゼンたち四人。

 四人共に荒い息を切らせ、焦燥感に駆られていた。


「なんだお前ら?そんなに慌ててどうしたんだ?」


 小首を傾げるモーズなのだが、横に居たロロがパチンと指を鳴らす。


「あっ。わかったさ。こいつらあたいらがワーウルフ討伐の依頼を受けたのが悔しくてリベンジしに来たんだろ?」

「なるほどね。おいおい。横取りは良くないぜ横取りは。そもそもこの通りお前らが放棄した依頼を俺達が尻拭いしてやってるんだぜ?」


 踏ん反り返りながら嬉しそうにゼンたちに話し掛けるモーズとロロなのだが、ゼンたちの耳には全く入っていない様子で、キョロキョロと周囲を見渡した。

 この場にいる人間が誰なのかを正確に把握すると、途端に口角を上げてニタッと厭らしく笑みを浮かべる。


「はぁ、はぁ。お、おまえら!」


 尚も息を切らせながらゼンは背後にいる仲間に声を掛けた。


「は、はい?」

「いくぞっ!」

「えっ?押し付けるので?」


 後ろの仲間は目を丸くさせる。


「当たり前だろッ!」


 わけもわからないやりとりをしながら一目散に駆け出していった。


「なんだあいつら?」


 脇を通り抜けるゼンを見送りながら呆気に取られるモーズ。


「どうせ大方他のワーウルフに出くわして思わず逃げてきたんだろうさ」

「はっ。なっさけねぇなぁ」

「ならこの分だと俺達の勝ちかもね」

「ははは。ちげぇねぇ」


 ゼンたちの背中を見送りながらアッシュ達が笑う。


「……違う」

「うん」


 ヨハンとニーナはゼン達が現れた場所に注視していた。


「違うって、何がだい?」


 もうすぐそこに迫る脅威、もの凄い気配を感じる。

 ジッと見つめる方向はゼンたちが出てきた深い茂みの奥。


「あっちに何かあるのかよ?」


 ヨハン達の視線の方向に対して訝し気に思いながらモーズは茂みの中を覗き込もうとする。


「そっちにいっちゃダメ!」


 ニーナが慌てて声を掛けた。


「はあ?」


 直後、ドンっと大きく鈍い音を響かせたと思えば前方の草木が突然開かれ、大きな物体がそこから物凄い勢いで飛び出してくる。


「ごっ――」


 大きな物体、人影に見える黒い物体はモーズの側頭部に直撃すると同時に大きく弾き飛ばした。


「モーーズッ!」


 ロロが吹き飛んだモーズに慌てて駆け寄る。

 すぐに重傷を負わされる程の勢いなのだというのは見てすぐにわかった。


「な、なんだ?何が飛んできた?」


 モーズにぶつかった物体をアッシュは見下ろすように確認する。


「これは……ワーウルフ…………の死体?」


 既にこと切れているワーウルフの死骸がモーズにぶつかっていた。

 その姿はまるで壊れた人形のように、腕や足が色んな方向に曲がっており、顔面が何かに圧し潰されている。


「な、なんだ?」


「アッシュ!」

「えっ?」

「モーズのやつ首の骨が折れてる!これはあたいの治癒魔法じゃ治せないよっ!」


 ロロの悲壮感の漂う声が聞こえてきた。


「ヨハンくん!ロロと一緒にモーズを治してやってくれ!」

「えっ?でも……」


 ワーウルフの死体が飛んできた方角を見る。

 何もなければ死体が飛んで来る事など無い。それどころか先程のゼンたちの様子から見ても異常事態なのは感じ取るこの気配からしても明らか。


「頼む!きみとロロの二人ならまだ間に合うかもしれない!」


 アッシュに懇願される。


「くっ……――」


 チラリとモーズに目を向けた。

 確かに状況的に見ても、首の骨が折れているならすぐに高度な治癒魔法を必要とする。死んでしまっては治癒魔法の施しようがない。


「――……ニーナッ!」

「うん!」


 険しい顔をしているニーナ。


「少しだけ時間を稼いでおいて!」

「だいじょーぶ。あたし一人で十分だから」

「無茶したらダメだよ!」

「わーかってるって!」


 小気味良い返事をするニーナなのだが、表情を見れば警戒心を最大限に引き上げているのは十分にわかった。


「すぐに戻るから!」

「いいからこっちは任せておいて」

「頼んだよ」


 そうして倒れているモーズのところに駆け寄る。


「一体何が起きてるんだ?」


 ニーナに近付くアッシュは疑問を払拭できていない。


「危ない!」

「えっ?」


 横っ飛びでアッシュに飛びつき、二人してゴロゴロと地面を転がった。


 茂みの中から再び物体が物凄い勢いで飛び出してきたのをニーナが察知する。

 飛び出して来たのはもう一匹のワーウルフの死骸。


 それは誰に当たることもなく、ガンッと勢いよく背後の木に叩きつけられた。


「な、なんだいったい!?」


 起き上がりながら前方、茂みの方を見るアッシュ。


「ま、まさか……――」


 しかし、すぐさま何が姿を見せたのかを理解したアッシュは驚愕して顔面蒼白させる。


「ガアアアアアッ!」


 茂み奥、そこには背が高い赤黒い肌をした人影が姿を見せた。

 冷や汗を垂らすニーナは地面に転がっているワーウルフの死体をチラッと見る。


「こいつがその死体の理由、さっきの人達が逃げていた理由みたいだね」

「そ、そんな……どうしてこんなところに、お、オーガが…………」


 ニーナとアッシュの視線の先、そこにはワーウルフを遥かに上回る体躯をしている赤黒い体皮の魔物。

 その頭部、額には一本の角が生えており、威圧感を孕んだ青い眼はギロリとアッシュとニーナを視界に捉えていた。


「うーん。お兄ちゃんにああは言ったものの、これは結構ヤバいかも……」


 グッと剣を握る手に力が入ると同時に、これまで感じたことのない寒気を覚える。

 目の前の鬼、オーガから明らかな恐怖を感じていた。



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