第十九話 魔道具店
「ここだここだ」
レインの案内で着いた魔道具店に着く。
魔道具店は崩れたレンガ調で壁に蔦が張ってあり外観がうっそうとした異様な感じがした。
「ここなの?なんだか重苦しい雰囲気ね」
「ああ、けどここは王都じゃ有名な魔道具店なんだ」
「そうですわね、私もここのことは聞いた事がありますわ。店主が少し変わっている方とも」
「そうなんだ。とにかく入ってみようよ」
「いらっしゃいませ~。あら~学生さん達かしらね~」
店内は薄暗くてはっきりと見えないのだが、店の奥のカウンターに女性が座っているのはわかった。
「こんにちは、キシリアさん」
レインにキシリアと呼ばれた女性は髪が紫色のロングで胸がかなりの大きさで露出していた。妖艶な感じを醸し出している。
「おやおやー、これはこれは、レインおぼっちゃんじゃありませんかー」
キシリアはレインを見るなりカウンターから身を乗り出しレインのことをおぼっちゃんと呼んだ。
「「レインおぼっちゃん?」」
ヨハンとモニカが同時に反応する。
「あぁ、まぁ俺の実家は商家で親父がこの店とも取引をしているんだ。それで何回か連れて来てもらったことがあってな」
「レインおぼっちゃんのお家にはお世話になっておりますー。それで、今日はどういったご用件ですかー?」
「いや、今日は買い物のついでだついで。学校の友達にこの店を紹介しに来たんだ。色々見せてもらうよ」
「どうぞどうぞー、ご自由に見ていって下さいな。何かありましたらお声掛けくださいー」
「ありがと」
一通りの挨拶を店主のキシリアに済ませたあと、店内を見て回る。
店内には魔道具が並べられており、魔力を感じる武器から何に使うかよくわからない金属製の物や魔物の皮を原料にしたような毛皮まであった。
「ねぇ、これは?」
ふと気になったのは羽根の付いたペン。手に取って質問をする。
「それはー特製のペンでございます。そのペンには魔力が込められておりましてー、書いた字がしばらくすると消えますー。ペンとリンクさせた特製のメガネを用いませんと字が読めないですー。こちらのメガネですー。密書や恋文に使用されますー」
キシリアがペンの効力について説明をしてくれた。
「へー、じゃあこれは?」
次にヨハンが手に取ったのは鍋だ。
「そちらはー、魔力を流し込みますとーいい感じで加熱しますー。料理が美味しくなりますー。冒険のお供ですー」
「ふぅん、そんなのもあるんだ。じゃあこれは?」
鍋を置き、手に取ったのは金属製の剣。
「それはー、水の魔法が込められていますー。水の魔法が苦手な方でもー剣に魔力を流す事で水魔法と同等の効果が得られますー。水属性が弱点の魔物にご使用下さいー。他属性の剣もございますー」
似たような効果で、剣にかけることで短時間だが特定の属性を付与させる魔法薬もある液体もあるという説明も受けた。
「まぁ全属性使えるヨハンにはあんまり関係ないけど普通の冒険者には重宝するよな。けどこういうの高いんだよなー」
レインが補足している。
「でも十分凄いと思うよ。でも荷物になっちゃうかー」
「そんな時にはこれですー」
そう言いながらキシリアは近くに置いてあった麻袋を持って来た。
「これは?」
麻袋に興味を示したモニカが質問する。
「こちらは魔法の袋でございますー。中は異空間でー物が見た目以上に入りますー。内容量は製造の際に使用された魔力量に左右されますー」
「へぇ、そんな便利な物があるんだ」
「ですが、それはかなり高価ですわよ。製造できるのがほんの一部の魔導技師に限られますし利便性に長けていますからね。もし仮にそれのもっと簡易な物でも世に出回れば世界は大きく変わるのでしょうけれども。ちなみに、特定の魔石を媒体にして操作をする必要がありますし、生き物は入れられないそうですわ」
横からエレナが補足説明をした。
「まぁこんなのを誰もが持っていたら密輸や窃盗なんかで世の中大混乱だっての。運搬には便利だけどな」
いかにも商家の息子らしいレインの意見。
「それもそうだね。その魔石を持っていないとどうなるの?」
「普通の麻袋らしいですわ。使用の際の魔石の魔力が関係するのでしょうね」
「そうなんだ…………」
だがこれだけ便利なものは手に入れておきたい。
「それで、これはいくらぐらいするのですか?」
「金貨100枚ですー」
「金貨100枚!?はぁ、なら当分は買えないなー残念。まぁこれだけ便利なものなら当然だよね」
最近確認した低ランクの冒険者の報酬でも銅貨10~15枚。
つまり、低ランクの依頼だと金貨を貯めることなんて生活費を差し引いたら一生分でも足りないということになる。
「うーん、すぐに買えないとなると、またお金を稼いだ時に考えようか」
それでもこれだけ便利なものは中々にないだろう。
「これ、置いておいてもらえませんか?」
「心配しなくてもー、こんなの普通は売れないわー、少し紹介しただけなのでー」
「そうですか。良かったです」
そうしてそれから他の魔道具を見ていると、店の入り口に人影があった。
「あら?あなた達は――」
「あっ、スフィアさん!」
人影の声に反応したのはモニカだった。
「えっと、確か……モニカさんでしたわよね?こんにちは」
店に現れたのは冒険者学校の学生代表を務めている水色の髪の美女だ。
「おい、モニカ!お前スフィアさんとお知り合いなのか」
「そうよ、何か悪い?」
レインが小声でモニカに話しかけるが、それがどうしたとばかりにモニカがやっつけに答える。
「どうかした?そっちの女の子はエレナさんですね?」
「……はい、初めまして。エレナと申します」
「そちらの男の子達は?」
「はい!自分はレインといいます!今年冒険者学校に入学しました!よろしくお願いします!」
「ふふっ、元気な子ね。はい、よろしくお願いします」
スフィアはレインに微笑みかけた。途端にレインの表情は明らかにゆるゆるに緩んでしまう。
「はぁあああ」
うっとりとスフィアに視線を奪われた。
「あとそっちの子は?」
「僕はヨハンといいます」
「……そう、あなたが」
「スフィアさん、ヨハンを知ってるんですか?」
「あっ、えぇ。ちょっと強い子がいるって聞いたから――――」
そこまで口にしてスフィアは口を噤む。少しの間を開けて「ま、いっか」と小さく呟いた。
「学生代表っていう立場だからビーストタイガーのことを教えてもらっているのよ」
「ビーストタイガーの件を!?」
それぞれが思わず驚愕する。
そんな中、キシリアは話に付いて行けず顔を左右にキョロキョロさせていた。
「えぇ、まぁ立場上少しばかり他の学生より情報に詳しいこともありますので。ですが、安心してください。この話は誰にもしていませんのでご安心してください。私は偶然ここに魔道具を見に来ただけですので」
そう言ってスフィアは並べられている魔道具を見て回る。
「スフィアさん、その剣は?」
ふとスフィアが腰に差している剣が目に留まり、気になった。
明らかに他の剣とは異なる鞘ごしらえに、どこか特徴的な存在感を放っている。
「えっ?あっ、これ?」
「あれはですねー、魔剣ですよー」
スフィアはどう答えようかと悩んでいたのだが、スフィアが答えるよりも早くキシリアが答えた。
「ちょっとキシリアさん、先に言わないでくれますか?どう驚かせようかと悩んでいたのに」
「あーすいませんー、ついー」
「えっ!?魔剣?その剣魔剣だったのですね!魔剣かぁ、本でなら見たことあるけど、確か魔剣って剣自体が持ち主を選ぶんのでしたのよね?」
「えぇその通りです。ですので、他の人が手にしても魔剣本来の力は使用できないのです」
「いいなぁ、私もいつか魔剣を手にしたいなぁ」
モニカが魔剣に思いを張り巡らせている。
「――じゃあ今日はこのぐらいでいいか?もう店の場所覚えただろうからいつでも来れるだろ?」
一通り見て回ったところでレインが声を掛ける。
「うん、楽しかったよ!レインありがとう。じゃあスフィアさん僕たちはこれで。キシリアさん、今日は何も買えなかったけど、今度絶対に何か買いに来ます!」
「いつでもおいで下さいませー」
そうしてキシリアの魔道具店を出た。




