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第百九十四話 帝都での活動

 

「それで、明日からどうするの?」


 夕食を食べ終えた後、ミモザに問い掛けられた。


「今日買い物に出た時に知り合った冒険者の人がいて、明日はその人に付いてギルドに行こうと思っています」

「あっ、へぇ。そうなんだ」


 何の気なしに返答するヨハンの態度を見てミモザは内心で考える。


「(この子結構活発に行動するのね)」


 と、帝都に着いた当日に知り合った冒険者。

 どんな人物なのかわからないが、それと共に行動することを決めた決断力に呆れと感心を同時に抱いた。


「あっ、でもラウルさんにはどうやって伝えよう……」


 冒険者としての活動をするなら孤児院にいないことが増える。


「いいわ。わかったわ。あなた達がいない時にラウルが来たら私から伝えておくわ」

「ありがとうございます」


 そうして帝都での初日を終えることになった。


「明日から帝都で冒険者かぁ。どんななのかな?」


 孤児院のベッドに横になり、窓の外に広がる暗い夜空に目を向ける。

 早く次の日が来るのを待ち遠しくて仕方ない。


「そういえばあの人、ティアナさん。まるで人形みたいに綺麗だったなぁ。性格はモニカみたいにサバサバしてたけど……」


 と路地裏で出会った女性。

 ティアナの外見の綺麗さと裏腹な気の強いその性格にモニカを重ねる。


「まぁでもいくらなんでもモニカほど強くはないだろうね。みんなどうしてるかなぁ」


 モニカ達の学校生活は今頃どうしているのかと想像を膨らませながら眠りについた。




 ◇ ◆ ◇



 朝、孤児院の庭で木剣を振り、闘気の流れの確認をしている。


「うーん。やっぱり闘気を飛ばすのって難しいなぁ」


 魔法が一般的に属性を付与して放つのに対して、闘気は身体強化。

 それを放つということがどうにも難しかった。


 しかし、闘気を飛ばすことにも十分利がある。

 魔道士と違って遠距離攻撃の手段に乏しい剣士にとって少ない魔力で離れた相手を攻撃できるのだから。加えて魔法障壁を貫通するというのも利点。


「お兄ちゃんも真面目よねぇ」


 長椅子に腰掛け、退屈そうにしているニーナ。


「ニーナこそ、しっかり鍛錬しといた方がいいよ」

「あたしは魔法が使えるからいいの」


 欠伸をしながらニーナはヨハンの鍛錬の様子を見ていた。


「そんなこと言って、危ない目に遭っても知らないよ?」

「その時はお兄ちゃんが助けてくれるのでしょ?」


 ニカっと笑顔で問い掛けられる。


「それはもちろん、近くに居ればそうするけど」


 とはいえ、通常の冒険者であるならばニーナはその必要がない程に強い。

 よっぽどの事態に陥らなければ危機に瀕することなどない。


「(まぁ本人にやる気がないなら無理に鍛錬させるわけにもいかないしね)」


 空を流れる雲を見つめながら脚をゆらゆらとさせているニーナに対して呆れ混じりに溜め息を吐いた。


「おっ。早いな。もう外にいたのか」

「あっ、おはようございます。アッシュさん」


 そこに木々の間からアッシュが姿を見せる。


「その子がヨハン君の妹かい?」


 椅子に座っていた見知らぬ少女、ニーナを見て問い掛けられた。


「はい」

「おはようございまぁす。はじめまして。ニーナといいます。よろしくお願いします」


 ニーナは立ち上がり笑顔で手を挙げ返事をする。


「ニーナちゃんだね。それにしても、思っていた以上に似ていないんだね」


 並ぶヨハンとニーナを見比べる。

 お世辞にも似ているとは言えないその見た目。実際本当の姉妹ではないので似てなくて当たり前。


「ええ、まぁ……――」

「だけど仲はとってもいいよ」


 どう伝えようかと迷ったところで笑顔のニーナからグッと腕を組まれた。


「(別にわざわざ毎回訂正しなくてもいっか)」


 これだけ慕われているのだから敢えてそんな必要もないと考える。


「うん。堂々とした良い感じだね。ただし、まだきみの実力がわからないから、危なくなったら身の安全を最優先にして逃げるんだよ?」

「むっ?大丈夫ですよ」


 ニーナは微妙に膨れっ面になりアッシュに返事を返した。


「そろそろご飯ですよ」


 そこにミモザが姿を見せる。


「あら?あなたがヨハンくんと知り合ったっていう冒険者の方ですか?」


 小首を傾げながらアッシュに問い掛けた。


「…………」

「アッシュさん?」


 ジッとミモザを見つめながら固まるアッシュを見て疑問符を浮かべ声を掛けるのだが聞こえていないのか返事が返って来ない。


「(すっげぇ綺麗な人だな)」


 ぽーっとしているアッシュにミモザは覗き込むようにして近寄る。


「もし?聞いていますか?」

「えっ?あっはい!」


 近付いたところで我に返ったアッシュは半歩後下がった。


「しっかりしてくださいよ?」

「えっ?」


 ミモザはアッシュを妙にきつく睨みつける。


「話はヨハンくんから聞きました。ですが、そんな調子では困ります」

「えっ?いや、あの……」

「ヨハンくんとニーナちゃんはうちの大事なお客さんですのでそんな調子だと任せられません」


 ぼーっとするアッシュが頼りなく見えていた。


「い、いや、大丈夫です!任せてください!」


 グッと力強く胸の辺りを叩く。


「ごほっごほっ」


 思わず力を込め過ぎたせいでアッシュが咳き込んだ。


「(本当に大丈夫かしらこの人)」


 ミモザが不安そうにする中、出掛ける準備を始め、その頃にはアイシャも起きて来る。



「じゃあ行ってきます」


 準備が出来たところでミモザとアイシャに声を掛けた。


「ほんとうに気を付けてよね」

「はい」

「じゃあアイシャちゃん、帰ったらまた遊ぼうね!」

「うん。待ってる」


 ミモザとアイシャへ手を振りながら、アッシュと大通りの方角、ギルドに向かうことになる。


「うーん。本当に大丈夫かしら?」


 腕組みをしながら顎に手の平を当てるミモザは未だに不安を拭いきれない。


「お姉ちゃん達、危ない目に遭うの?」


 ミモザの独り言を聞いてアイシャは不安そうに見上げた。


「あっ、ごめんなさい。あの子達は大丈夫よ。とっても強いのだから」


 アイシャの目線に合うように屈みながら答えるミモザ。


「そっか。良かったぁ」


 アイシャを不安がらせらないように答えただけなのだが、ミモザの見解としてもただ不安を拭っただけではない。


「(まぁラウルがあれだけ認めているのだし、それだけの子達みたいなのよね)」


 自身を納得させるように言い聞かせ、もう姿の見えなくなったヨハン達が向かって行った方角を見た。



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