第十八話 休日
「んー、疲れたぁ。明日は休みかー。ねぇエレナ、前に行っていた洋服屋さんに連れていってもらえない?」
「わかりましたわ。前に言っていた件ですわね。もちろん調べておきましたわよ。では明日行きましょう」
「おっ、明日買い物に行くのか?ならさ、俺たちも一緒に行こうぜ!」
「うん、いいよ」
モニカの提案により四人は翌日の休日に買い物をすることとなった。
―――翌日―――
ヨハンとレインは学生寮の門でモニカとエレナを待っていたところに遅れてモニカとエレナが姿を見せる。
「やっと来たか。遅いじゃねぇか」
レインが待ちくたびれたかとばかりにしている。
「女の子は何かと準備がいるものなのですわ。だからレインはモテないのよ」
レインはエレナに呆れられる。
「……うぐぐっ。だ、だが男は腕っぷしだ」
「でもあなたシェバンニ教頭先生の補習があるじゃない」
モニカが追い打ちをかける。
「う、うるっせい!今にみてろよ!俺の力はあんなもんじゃねえ!」
「はいはい」
「はぁ、くだらない言い訳を聞いている暇はありませんの。さ、行きますわよ」
エレナが呆れた様子で言い放つ。
「……くっそぉ」
ヨハンは苦笑いして見るしかなかった。どう介入したらいいのかわからない。
「――――ねぇ、そういえばどこに行くの?」
「今日は東地区にある商店街に行きますわ。私も調べただけでそれほど詳しいわけではありませんが、前に行ったギルドの西地区とは反対ですわね」
「ふぅん、そうなんだ。王都は広いからまだ全然道を覚えらんないや」
「そうだぞ、王都だとなんでも揃うからな」
「レインは詳しいの?」
「まぁ俺の実家は商家だからな。ある程度の物流は知っているしな」
「そうなんだ」
そうして四人で王都を歩きながら東地区に向かう。
王都に来てまだ間もないヨハンとモニカにとっては居並ぶ街並みは全てが新鮮に見えた。
入学してから学校関係で王都を歩くことは多少あったが、生活区がほとんどである。冒険者達が往来する周辺はこうして歩くと空気が違った。どこか殺伐とした雰囲気がある。
東地区が近付くにつれ、初めて王都に来たときのような賑やかさが広がっていった。
「やっぱり王都はすごい賑やかだね」
「ほんとね、これだけの人が毎日生活しているのだものね」
改めて王都の壮大さを感じて、それにモニカが同調する。
「そうね、国中の町や村もそれなりに特産品などがありますが、王都は国の最重要拠点ですから品揃えはもちろん、行き来する人たちも多いですわ。当然流通は最大規模ですし、街の人は安心して生活しているのではないかしら?」
「そうだとねぇ。……あのさ、そういえばちょっと気になったんだけど、王家の人達ってどういう人なの?」
「…………王家の人達ですか?そうですわね。聞いたところによりますと、貴族の方でも上級貴族の方しか謁見できないそうですわ。王様と王妃様は建国祭のパレードで拝顔することはできますが、王子と王女に関しては成人の際までは国民もほとんど顔を知らないのです」
「そうなの?どうして?」
「さぁ、そういう文化の国としかお答えできないですわ。一説には暗殺を回避するためとか建国の際の密命があったとか諸説ありますが、どちらにせよ幼子を守る為なのでしょうね」
「そうなんだ。まぁ王家の人がどんな人達だったとしても街の人達の笑顔を見ればここが幸せな国でちゃんと統治されてるんだって思うなぁ」
道行く人が笑顔で歩いている。それだけである程度納得出来た。
「ふふっ、ありがとうございます。自分の国をそう言ってくれる人がいると聞くと嬉しいですわね」
「そうなの?」
「――な、なぁ!そんなことよりエレナの言っていた洋服屋ってあれのことじゃないか!?」
どこか慌てた様子でレインが話に割って入る。
レインが指差したところには猫のシルエットの店の看板があり、王都で一番可愛いと書かれた洋服屋があった。
「どうやらここのようですわね」
「――――ねぇねぇ!この水玉の服すっごい可愛い!」
「そうですわね、ですがモニカにはこっちの花柄の方がいいのではないかしら」
「うわー、そっちもすっごい可愛い!」
モニカとエレナが数ある洋服をとっかえひっかえしている。その様子を少し離れたところでヨハンとレインが見ていた。
「ああいうところを見ていると普通の女の子なんだよなぁ。機能性よりも審美性を選んでいる辺り。なぁヨハン?ヨハンはどっちが好みだ?」
レインがにやにやしてヨハンに質問をする。
「うーん、そうだなぁ。僕はどっちも可愛いと思うよ」
ヨハンがあっけらかんとした様子で返答した。
「お前!そんなことじゃダメだろ!!どっちか決めろよ!」
「けど水玉も花柄もどっちもモニカに似合うと思うよ?」
「(…………可愛いってそっちかい!)」
レインが心の中で渾身のツッコミをするのは、レインが聞きたかったのは服の柄のことではなかったのだから。
「――ねぇ!ヨハンはどっちが良い?」
モニカが笑顔でヨハン達のところに走ってくる。手には水玉と花柄の服を持っている。
「(ムダムダ。こいつに聞いたところでどうせおんなじだって――――)」
「僕はどっちも似合うと思うよ」
「(ほらなっ)」
「もうっ!どっちを買うか悩んでいるのに!!」
レインの予想通り、聞いたところでどっちつかずな返答をされたことに対してモニカは少し怒る様子を見せてエレナの元に戻った。
「ほんとだね、どっちか決めておいた方が良かったね」
「な?だから言ったろ?ああいうのはどっちか決めるもんなんだって(っつか、俺が聞いたのは服のことなんかじゃなくて、モニカとエレナのことなんだが…………)」
レインはなんとなく話を合わせる。耳打ちをしながら反省の弁を述べられるのだが、聞きたいところはそこじゃなかった。
そこでヨハンはすくっと立ち上がり、モニカとエレナの下に歩いて行く。
「――――あのさ、じゃあこれならどうかな?
ヨハンの提案にモニカとエレナは不思議そうな顔をしながら耳を傾けた。
「今日のところは水玉をモニカが買って、花柄はエレナが買うっていうのは?」
「「えっ?」」
突然の提案に驚き二人とも目を丸くする。
「それでさ、今度受けているギルド長からの依頼報酬で僕がモニカには花柄の色違いを、エレナには水玉の色違いをそれぞれプレゼントするよ」
ヨハンは言葉を続け、更に提案を重ねる。
「(…………こいつは)」
レインは頭を抱えた。なんていうことを提案するんだと、半ば諦めていた。
「いいの!?嬉しい!!」
「ヨハンさん、ありがとうございます!」
突然の提案に対してレインの予想とは裏腹にモニカとエレナが喜ぶ。
「(なんだそれ!?そんなんでいいんかい!)」
レインが心の中で渾身のツッコミをする。
そうして買う物が決まったモニカとエレナは嬉しそうに洋服屋を出た。
手には水玉と花柄の服が入った紙袋をそれぞれ持っている。
「これで私たちの買い物は終わったけど?」
先を歩いていたモニカが振り返り「これからどうしよう?」と話す。
「それなんだが、せっかく商業地区に来たんだ。この近くの魔道具店を見に行かないか?」
「魔道具店?そんなのあるの!?」
ヨハンが目の色を変え、キラキラと輝かせた。
「ああ。王都は流通が盛んだって言っただろ?だから国中から様々な魔道具が入ってくるんだ。もちろん魔道具研究所で開発された汎用性の高い魔道具も売ってるし。だが結構値は張るがな。でも見ておいて損はないはずだ」
「行きたい!」
ヨハンがさらに目を輝かせる。
「そうね、私の町にも少しばかりの魔道具は置いてあったけど、王都の魔道具がどんなものなのかは気になるわね」
「よし、じゃあ決まりだな。確かこっからだとこっちの方に…………」
レインが魔道具店を見に行こうと提案して、魔道具店を目指し商店街を歩いて行った。




