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第百八十八話 路地裏の出会い(前編)

 

 声と共に複数の走る足音が聞こえてきたかと思えばその声と足音はヨハンが今いる場所に近付いて来ている。


「誰か追われてる?」


 どうしようかと思いその場に立ち止まっていたのだが、目の前の角から白いローブでフードを目深に被り、銀髪が微かに見える女性が一人飛び出してきた。


「あっ!」


 女性はヨハンに目もくれずに目の前が行き止まりだとわかると立ち止まる。


「こっちにいったぞ!」


 すぐさま後を追う様にして複数の男達が現れた。

 その数五人。そのどれもがガタイの良い男達。


「おっ?」

「へっへ。どうやら行き止まりのようだな」


 五人の男たちは下卑た笑いを上げ女性の前に立ち塞がる。

 どう見ても強面の男達。


「なんなのよあんた達!しつこいわね!」


 大きな声を発するローブの女性。


「んだとテメェ!」


 女性の言葉に反応して青筋を立てる男。


「あの?」

「えっ?」


 どう見ても男達に追われている若い女性の構図。

 どちらが悪いのかは一般的に見れば一目でわかる。


 女性は肩越しにチラリとヨハンを見た。


「きみは? 何してるのよこんなところで」

「僕ですか?」

「きみ以外に誰がいるのよ」

「えっと、僕は……――」


 何をしているかと言われても決まっている。


「――……迷子?」

「はぁ?」


 質問に答えただけなのに、女性はキョトンと目を丸くさせた。


「あんだてめぇ?」

「じゃまだ!」


 突然割って入ったヨハンに対して威嚇する。


「てめぇこいつの知り合いか?」

「いえ。全く知りません」

「ならどいてな」


 男の一人がずいっと前に出てきた。


「ちょ、ちょっと!」


 合わせて女性も一歩後ろに下がる。


「どういう関係か知りませんけど、女性に対してそんなに声を荒げなくてもいいんじゃないですか?」

「あん?何言ってやがんだてめぇ?ぶっとばすぞっ!」


 前に出てきた男がヨハンを突き飛ばそうと腕を伸ばしてきた。

 無意識にその腕を躱す。


「って、てめぇ何避けてやがんだ?」

「ちょ、ちょっと待って下さい」


 突き出しを躱して声を掛けるのだが、男は躱されたことに腹を立てて腕を大きく振りかぶった。


「うっせえッ!」

「(はぁ)」


 理不尽な暴力を受けるわけにもいかないので思わず溜め息を吐きが出る。男の拳に対して身体を捻って躱した。

 続けざまに足を出して、男の足を引っ掛ける。


「あだっ!」


 男は勢いよく倒れて地面に顔を打ち付けた。


「うわぁ、痛そう」

「て、てめぇ……」


 男は鼻血を出す鼻を押さえてすぐさま立ち上がりヨハンを睨みつける。


「先に手を出してきたのはそっちですよ?」


 回避したついでに足を引っ掛けただけ。

 多少の文句は受け付けるが、必要以上の暴力を受けるつもりはない。


「小僧。どうやら痛い目に遭いたいようだな」

「そんなわけないじゃないですか。好き好んで痛い目に遭いたい人なんかいませんよ?」

「――プッ。それもそうよね」


 受け答えしているのを聞いて背後の女性が小さく吹きだした。

 その様子を見た男はカアッと顔を紅潮させ肩をわなわなと震わせる。


「こ、この小僧もふざけてやがるぞッ! 覚悟しやがれッ!」


 明らかに怒りの矛先を女性からヨハンに変えた。


「(しょうがないか)」


 殴りかかろうと迫りくる男の動きはどう見ても雑な動き。

 先程の拳にしてもそうなのだが、洗練されたものとは真逆である程に単調な動き。


「ぐえっ!」


 男の拳を見切って顔の横を通り過ぎる様に躱し、腹部に拳を突き立てた。


「っと」


 ずるずると崩れ落ちるのを抱きかかえる。


「すいません。僕も痛いのは嫌なので」


 そのまま地面にそっと寝かせた。


「な、なんだてめぇ!?」


 残っていた四人の男たちがヨハンを取り囲むようにして回り込む。


「だから。話を聞こうとしたのに、そっちから先に手を出して来たんですよ?」

「う、うるせぇっ!」


 拳を振りかぶり、一斉に殴りかかって来た。


「話を聞いてください」

「こ、こいつ、なにもんだ!?」


 ひょいひょいと身体を動かしながら四人の拳や蹴りを躱す。


「……へぇ。この子、なかなかやるわね」


 その様子をローブの女性は感心する様に見ていた。



「い、いい加減くらいやがれッ!」

「いやですよ」

「……はぁ……はぁ、こ、この野郎ッ!」

「ほ、ほんと、なにもんなんだ、こいつ」

「僕が何者とか、そんなことよりも、何があったんですか?」


 拳と蹴りを躱し続けながら問いかけた。


「う、うるせえ!テメェは黙って殴られればいいんだよ!」

「嫌ですって」


 まるで会話にならない。


「ふぅ、仕方ないなぁ。こんなところで魔法を撃つわけにもいかないしね」


 小さく呟き、腰の剣を手に掛けて鞘を抜かずに持つ。


「ごめんなさい。ちょっと寝てもらいますね」


「あぐっ」

「ごえっ」


 鞘で全員の首筋に一太刀ずつ浴びせた。

 直後、バタバタと全員ともにその場で白目を剥いて倒れる。


「――……あの子、すげぇな」


 呟いているのは路地裏の角からヨハン達を覗いている人影。


「にしてもあんな子帝都にいたかな? あれほどの腕前ならそれなりに有名になっていそうだけど」


 男達を倒した手際の良さに驚嘆していた。


「にしても声が聞こえて来たから駆け付けたけど、こうなると飛び出すタイミングを見失っちまったな。せっかく女性を助け出せるチャンスだったのにな。チッ、仕方ねぇか」


 そのまま様子を見守っている。



「えーっと。どうしようかな、この人たち…………」


 聞く耳を持ってもらえなかったのでとりあえず気絶させたのはいいものの対応に困る。

 このままにしておくわけにもいかない。


「そんなの放っておけばいいのよ」

「えっ?」


 背後から声を掛けられた。

 振り返ると、声を発したのは先程追われていたローブの女性。


「ありがと。助かったわ。君、とっても強いのね」


 お礼を言われるのと同時にローブの女性はフードを脱ぎ、その顔を見せる。


「いえ」


 助けたのは結果的に偶然。

 そこでその女性の顔を初めてしっかりと見た。


「(綺麗な人だなぁ)」


 女性はヨハンよりも背が僅かに高く、身を包んでいる白を基調とした布製のローブ姿。

 それはどこか気品があり、高級品だというのはすぐにわかる。


 なにより目を惹かれるのは、見惚れるほどに綺麗な銀色の長い髪。まるで透き通る程なのだがはっきりとわかるその艶のある銀髪。それを耳にかきあげる仕草はなんとも大人びていた。

 その銀髪がはっきりと似合うと断言出来る端麗な容姿は大人のような顔立ちをしながらもどこか幼さも感じさせる。


 目の前に立っているのは、そんなどこか不思議な感覚に陥るような女性だった。



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