表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/746

第百八十五話 帝都での拠点

 

「(アトムさんも孤児だって理由でここに来ていたものね)」


 懐かしそうに目の前に座っているヨハンにアトムの面影を重ねる。


「まぁそれでこの子があの人達の子だってことはいいとして、それがどうしてあなたと一緒にいるのよ」

「いやまぁそれには色々と複雑な事情があってだな……」


 言い淀むラウルに対して、ミモザの表情は笑顔なのだが目が笑っていない。


「複雑な理由ってなにかしら?言ってみてください」

「うぐっ。い、いや、それがだな……――」


 ミモザのなんとも言えない迫力に押されるラウルはそれからシグラム王国の出来事、ヨハンを師事した事、巨大飛竜を討伐させた事、結果大事を招いてしまった事を話して聞かせた。


「――……はぁー」


 聞き終えたミモザは大きく溜め息を吐く。


「なるほどね。この子に見込みがあるのはわかったわ。でもそれに至るまでのあなたの行動は問題ね。だから考えなしにあれこれ行動するなっていつも言っているのに」


 と頭を抱えた。


「いい? 孤児を考えなしにここに連れてくるのはあなたの良いところよ? それで私も救われたし、他に何人も救われているわ。でもあなたの行動一つで他の人達の人生が大きく変わると言うことをあなたはもっと自覚するべきよ」

「……わ、わかってる」

「本当にわかっていたらもっと思慮深くなるものよ。そんなことだから評判が悪いんでしょ」


 とラウルに対してくどくどと説教しだす。


「あれ?ラウルさんって評判が悪いのですか?」


 シグラム王国ではその評判はすこぶる良い。それは学生達の反応を見ても明らか。

 ヨハンの問いにミモザはきょとんとした。


「ああ、ごめんなさい。こっちの話よ。っていってもこれだとあなたも疑問に思うからちょっとだけ教えておくと、この人いつもふらふらしているでしょ?」

「はい。そういう風に聞いています」

「だから一部の人に疎まれているってことよ。もっと国政に関与しなさいって」

「あっ。なるほど」


 ミモザのその答えで納得する。誰もかれもがラウルの放浪癖を良しとしていないのだと。


「それで?あなた達はこれからどうするの?またすぐにどっか旅にでも行くの?」

「いや、俺はこれから城に行かなければいけない」

「じゃあこの子達はどうするのよ?いくらあなたでも見ず知らずの子をお城になんて一緒に入れないのじゃないの?」


 疑問符を浮かべてラウルを見る。


「ああ。だから預かってもらうのはアイシャだけなんだが、とりあえずしばらくの間はヨハンとニーナもここに泊めてやってくれないか?」

「はあ!?なら結局一緒じゃないの!どうしてそれをもっと早く言わないのよ!」


 ミモザは勢いよく立ち上がりラウルを睨みつけた。


「もうっ!一人ぐらいなら別にいいかと思っていたけど、三人分も用意していないわよ!」

「すいませんミモザさん。僕とニーナは別に街の宿にでも泊まりに行きますので大丈夫ですよ?」

「えっ?」


 すぐさまヨハンに対しては笑顔を向けるミモザ。


「ああいいのいいの。ヨハン君達は悪くないから謝らないで。悪いのは何の連絡もなしに来たこいつ一人」

「(こいつって……)」


 帝位継承者であり剣聖でもあるラウルをこいつ呼ばわりすることで苦笑いしかできない。


「それに泊まるのだっていいのよ。部屋も空き部屋はまだあるし。ただね、ほら、食材の用意とかしなければいけないじゃない?食べ盛りの子がお腹いっぱい食べられないのも可哀想だし」


 小さく溜め息を吐くミモザ。

 孤児院の経営は公費からいくらか賄われているのだが、贅沢ができるほどあるわけではない。その日に食べる物はその日に用意していた。


「それにアイシャちゃんからすれば、右も左もわからないこんなところに急に置いて行かれるより、少しでも知っている君達が一晩でも多くいた方がいいだろうしね」


 確かにアイシャの精神面に配慮するのならそれも理解出来る。


「だから帝都にいる間はここに泊まっていっていいわ」

「話はまとまったようだな」


 そこでラウルも立ち上がった。


「な・に・を、他人事の様に言っているのよ!」

「他人事ではない。ミモザを信じてるからこそ、こうして任せられるんじゃないか」

「なっ!?」


 ラウルの言葉を受けたミモザは徐に視線を彷徨わせる。


「な、なによ、そんな急に褒めたところで何もでないわよ!ほんとあなたはいつもいつも突然色んなことを言いだすから……――」


 突然もじもじとしだすミモザを横目にラウルが耳打ちして来た。


「では後は頼んだ」

「えっ?」


 もしかしてこのままほったらかしていくつもりなのかと疑問に思う。


「あ、あの……」

「とりあえずここで待っていてくれたらいい。待っている間は帝都観光でもして楽しんだらいいから」

「い、いえ、そういうことじゃなくて――」

「それとだな、ちゃんと鍛錬はサボるんじゃないぞ」

「はい、それは大丈夫ですが……」

「まあお前にそんな心配は杞憂だな。ではまた連絡する」


 そっと静かに応接間を出て行った。


 その場に残されたことでどうしようかと悩ませる。


「――あなたはもう少し落ち着いて、そうね、そろそろ色々と落ち着いた方がいいのじゃないかしら?」


 ラウルの方に視線を向けるのだが、もう既にラウルはそこにはいない。


「ってラウルはどこに行ったの?」

「あっ、いえ。もう、その……」


 半開きになっている部屋のドアを指差した。


「ああーッ!?またやられたっ!」


 またということからしてこのやりとりは一度や二度ではないのだろう。


「……はぁ。まぁいいわ。とにかく買い物に行きますか。ヨハン君は私が帰って来るまで自由にしていて」


 腕を組みながら応接間を出て行こうとするミモザ。


「あの?」

「ん?なに?どうしたの?」


 応接間を出ようとするミモザは振り返り疑問符を浮かべながらヨハンを見た。


「いえ、ただお世話になるわけにはいかないので、買い物は僕が行って来てもいいですか?」

「えっ!?そんなの別にいいわよ。長旅で疲れているでしょうからゆっくりしていていいわよ」


 ニコリと微笑まれる。


「疲れは全然大丈夫です。それに、初めて来た帝都になので、帝都の中も色々と見て回りたいのですが、ダメですか?」

「んー……」


 ミモザは顎に手の平を当て、僅かに考え込む様子を見せた。


「まぁ……そうね。簡単な買い物だし。いっか」

「ありがとうございます」

「ちょっと待ってね。それなら今から地図と買って来て欲しい物を書き出すわ」

「はい」

「あっ、外で待っていていいわよ」

「わかりました」


 そうしてミモザは応接間を出て行く。


 建物を出ると、ニーナが子ども達に小さい魔法を披露している。アイシャも含めた子ども達が目をキラキラとさせてみていた。


「良かった。この分だと上手くやれそうかな」


 隣にいる女の子に話し掛けられ笑顔で受け答えしているアイシャを見ていくらか安堵する。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ