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第百七十五話 旅の初日

 

「最初に見た時は子ども二人を連れ立っているからどんな奴かと――おっと、すいません。どんなお人なのかと思ったけど、あんた一人いればお釣りがきますぜ」

「そうか」


 ロブレンはラウルが何者なのかというのは知る由もないが、それでも相場の半額程度でまさかのA級冒険者を一発で引いていることに歓喜する。


『(これを幸先がいいと言わずになんという?)』


 子ども連れだという不思議な組み合わせに一切の疑問をいだくことなく、馬の手綱を握りながら口角を上げ、思わず笑みがこぼれていた。


「あとで報酬を上げろとか言わないでくださいよ?」


 念のために再確認をしておく。


「そんなに心配か?その辺は心配するな。あまりにも悪質な規定違反をすれば、ギルドから資格剥奪される。よっぽどのバカじゃない限りそんな心配は杞憂だ」

「ならいいんですけどね」


 ロブレンは軽く息を吐くと、そのまま視線を後ろ姿のヨハンとニーナに向けた。


「で? つかぬことをお聞きしますが、あの子等は使えるんですかい?」


 王都を出て数時間経った今、ようやくヨハンとニーナのこと、子ども連れに対して疑問をラウルに投げ掛ける。


「その辺も心配しなくてもいいぞ?あっちの子は詳しく知らないが、男の子の方は間違いなく使える。この間の飛竜討伐の噂を聞いていないか?」

「知ってますぜ旦那。とんでもなく強い学生が倒したっていう。生憎自分はその日いなかったんですけどね」


 それは村を出て王都に着く前日の出来事。

 ロブレンはへらへらと笑っていたのだが、内心では違うことを考えていた。


「(それがなんの関係があるんだ?まさか誘拐?いやでもそんな風にも見えないしな)」


 チラリと再びヨハン達を見る。


「もしかしたらその学生があの子って?」


 わざわざそんなことを言う理由を考えてみた。


「そうだ」

「ハハハ」


 即答されるのだが、自分で口にしておきながらもあまりにもバカバカしい話。


「んなわけないじゃないの。何言ってんすか。そもそも子どもに竜が倒せるわけないって」


 冗談にも程がある。


「どうせ大方冒険者学校の宣伝でしょ?そうやって学校に通えば強くなれるって、入学希望者を増やそうとしている王国の狙いがあるんじゃないのですかねぇ。ま、自分には関係のない話っすわ」

「……そうか」


 そんな学生がいるかどうかなどの真偽は自分にはどうでもいいというロブレンの見解。

 それはロブレンに限らず王都ではそういった意見はいくらか散見されていた。


「まぁあの子らがそんだけ強くなくたって別にいいでさぁ。あんた一人とあっちの子がそれなりに使えたらこっちとしては文句はないのでね」


 そこでロブレンは荷馬車を止める。


「着きましたぜ」


 話していると、遠くに見えていた町、カルがもう目の前に来ていた。


「自分はちょっと荷の手続きとかしてくるんでゆっくりしていてください」

「わかった」


 ロブレンは御者台から降りると町の中に歩いて行く。


「何を話していたんですか?」

「そうだな。護衛の時にお前たちが役に立つのかどうかって話だ」


 馬車を降りながらラウルに確認をした。


「えっ!?そんなの役に立つに決まってるじゃないの? ねぇお兄ちゃん」

「まぁ、そうだね。出来る限りの努力はするよ」


 いくらかの自信はあるが、まともな冒険者としての活動経験は実習である程度。


「でもニーナ?」

「うん?」

「あんまり油断していると足元すくわれるから自信も程々にするんだよ?」

「はーい。前お姉ちゃんに負けた時みたいになるのも恥ずかしいしね」


 自分に対する自戒の念を込めてニーナに伝える。

 だが笑顔で返事をするニーナの様子を見る限り、とてもそういう風には見えなかった。


「(大丈夫かな?)」


 思わず苦笑いする。


「お姉ちゃん?」

「うん。モニカお姉ちゃん」

「ほぅ」


 ニーナの言葉の中に違和感を得たラウルは疑問符を浮かべた。


「あっ。一応言っておきますと、僕もそうですけどモニカも本当のお姉さんじゃないですからね」

「いや、それはニーナの境遇でわかっている」

「そうですか」


 ではどうして聞き返したのか疑問を抱いてラウルを見る。


「(なるほど。あの時の娘がモニカだったな)」


 ラウルは会議の場で突っかかって来たモニカを思い出していた。

 そのまま横目にニーナの顔を見る。


「(まさかリシュエルの娘であるニーナに勝っていたのか。となるとあの勝気な発言も自信の裏打ちがあってのことだったわけだな)」


 気になっていたのはニーナ自身がモニカに負けたことを認めていたこと。

 ラウルには目の前の少女、ニーナにはそれなりの実力が備わっているのではという見解を抱いていた。


「お待たせしました。荷を預かってもらえる宿がありましたのでこのまま行きますね」


 そこへロブレンが戻って来て、町の中へ進んでいく。


「ここです」


 ロブレンに案内された先の宿は木造建ての小さな二階建ての宿。


「すいません、小さな宿なもんですので二人部屋を二つ取らせてもらいました」

「あっ、そうなんですね」


 何の気なしに返事をしたものの、すぐさま疑問が浮かぶのは部屋割りについて。


「じゃあ自分とラウルの旦那が一緒で、そっち二人が一緒ということで」

「んんっ?」


 そっち二人と言われて顔を向けるのはニーナへ。


「じゃ、いこっかお兄ちゃん」

「えっ?あっ、ちょっと……――」


 グイっと腕を引っ張られて部屋に向かう。

 どうしようかと悩むのだが、そのままずるずると引っ張られ部屋に着いた。


「どうしたの?」

「…………」


 疑問符を浮かべて小首を傾げるニーナ。


「……ううん。なんでもないよ」


 別にニーナと一緒の部屋だからといって何かあるわけじゃない。

 ロブレンが兄妹と思っているのならこういう部屋割りになるのにも納得できる。それをわざわざごたごた言う必要もない。


「ま、いっか」


 小さく息を吐いて部屋に入った。

 部屋は簡素な作りでベッドが二つ備え付けられている。


「普通だね」

「うん。普通だね」


 特に特徴があるわけでもないその部屋。


「せめてご飯、美味しいといいんだけどなぁ」

「そうだね」


 それからはラウルが呼びに来て食事に移動し、想定以上に食事は美味しかった。ニーナも満足そうに舌鼓を打っている。



「うーん。食べ過ぎたぁ」


 部屋に戻りドサッとベッドに倒れるように寝転がるニーナ。


「食べてすぐに横になったらダメじゃない」

「いいのいいの。そんなの気にしてたらゆっくりできないよお兄ちゃん。それよりもお兄ちゃん、マッサージしてよぉ」

「えっ?」

「いやぁ、ずっと馬車に乗っていたから身体が固くなっちゃってさ」

「なら身体を動かせばいいんじゃない?」

「お腹いっぱいで動けないよぉ」


 甘えるように声を発するニーナを見て思わず呆れてしまうのだが、チラチラと見られるので小さく息を吐く。


「しょうがないなニーナは。今日だけだよ?」

「やったっ!おねがーい」

「明日からはちゃんと配分を考えて食べること。それが約束できるならいいよ」

「わかったわかった約束するからぁ」


「(ほんとかなぁ?)」


 瞼を閉じてまったりと話すその様子を見る限り本当にわかっているのか疑問なのだが、仕方がない。


「じゃあいくよ」

「はーい」


 うつ伏せで寝転がるニーナの背に跨る。

 肩から背中、腰へ掛けて指に力を加えていった。


「ん……あっ……いい」

「ほんとに固くなってるね」

「んっ……でしょ、あっ……もう、ふぅ……疲れ、ちゃったの。あっ、そこ気持ち良い」

「こんなことで疲れちゃって、そんなんでこれから先どうするのさ」

「あっ……まぁ、んっ……なんとか、うんっ……なる、でしょ……」

「ラウルさんに迷惑かけないでよ?」

「わかってるって。んっ」


 トロトロの言葉の中にどれだけの真剣さを孕んでいるのか。

 それから数分間、マッサージを続けていく。


「もうこれぐらいでいいかな?」

「…………」


 いつの間にか声を発することのなくなっていたニーナに問い掛けるのだが返事がない。


「ニーナ?」


 疑問に思いながら顔を覗き込む。


「……すぅ……すぅ…………」

「あっ。寝ちゃってたんだ」


 ニーナは小さな寝息を立てて寝てしまっていた。

 ベッドから立ち上がり、ニーナを起こさないようにそっと毛布をその背に掛けて自分のベッドに腰掛ける。


「そういえば、ニーナって魔眼持ちなんだよね」


 なんとなく眺めるニーナの顔。

 魔力を見通せる魔眼があれば今後何かと助かることがあるかもしれない。


「明日にでもラウルさんに話しておこうか」


 ニーナ自身が隠しているわけではない。


「ふわぁあ。僕ももう寝ようっと」


 部屋の照明。

 魔灯石の照明器具の明かりを消してベッドに横になった。



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