第十五話 冒険者ギルド
――――翌日、四人はパーティー登録のためにギルドを訪れていた。
「なんだかどきどきするわね」
初めてのギルド。
モニカは冒険者登録することに対してそわそわしていた。
「えっと…………、受付はこっちみたいだね」
きょろきょろしながらヨハンが確認する。
王都西地区にあるギルドはレインが場所を知っていたことと建物自体がそれなりに大きなこともあってすぐに見つかった。
そうして入ってすぐの右手には依頼が貼られている掲示板があり、掲示板の右側から左側に向かっていくほどおおよその依頼難度が高くなっていく。
向かって左側にはカウンターがあり、ギルドの依頼や新規登録などの事務手続きは全てそこで行われているとのこと。
奥にはいくつかのテーブルと椅子が並んでおり、パーティーの待ち合わせや依頼達成後の打ち上げなどが行われる酒場になっており、その更に奥に二階に上がる階段があった。
「こんにちは」
新規登録を行うためにカウンターに向かい、目線を落としていた女性に話しかける。
「はい、こんにちは」
「あの、すいません。僕たちパーティー登録に来たんですけれど、ここでいいんですよね?」
「はい、登録はこちらでかまいませんが、未成年の方はギルド長又はAランク以上のパーティーからの推薦書が必要になります。冒険者学校の学生でありましたら学校からの推薦書が必要になります。それ以外でしたら保護者の同意書と必要に応じてテストが必要になります」
受付の女性がヨハン達を一通り見渡して恐らく未成年だろうと判断して推薦書の有無を確認した。
「推薦書のことでしたら、恐らく冒険者学校の校長先生から直接ギルド長にお渡ししているはずですわ」と、エレナが横から受付嬢に説明する。
「わかりました。確認しますので少々お待ちください。確認が取れた後、冒険者学校の学生でしたら登録のため学生証の提示が必要になりますのでご準備下さい」
「わかりました」
そうして受付嬢が事務所の奥に入っていく。
「おいおい、大丈夫なんだろうな?」
レインが校長から話は通っているのかと不安そうにする。
「なんだぁ、この小僧たちは?」
突然後ろから声が聞こえた。
「おいおい、ここはガキどもの遊ぶところじゃねぇぞ。遊ぶなら余所で遊びな」
振り返ると大柄で毛皮を羽織った男が立っていた。顔には縦に大きく傷を負った跡が残っている。
「お頭、こいつら冒険者学校の生徒かもしれませんぜ」
大柄の男をお頭と呼んでいるのは小柄で前歯の長い男だ。
「はん、冒険者学校なんかでお勉強しているおぼっちゃん達かよ。命がなくなる前におうちに帰んな。おい、この依頼頼むわ」
そう言いながら大柄の男はヨハン達をしっしと手で払いながら受付に依頼の紙を渡す。
依頼の紙はどうやらBランクの依頼のようだ。
「はい。こちらはジャイアントベアの討伐ですね。ではギルドカードの提示を――」
受付嬢が依頼内容の確認をする。
大柄の男はカードを提示して手慣れた様子で受付を始めた。
「ジャイアントベアだって!?」
途端にレインが大きな声をだす。
「ああん?あぁそうだ。最近魔物の動きが活発になってこの地域には存在しなかった魔物が確認されてんだよ。だからさっきも言ったじゃねぇか、命が惜しけりゃ帰れって。お前ら冒険者学校の出で何人もおっ死んでんの見てきたんだよ。温室育ちのぼっちゃん」
「なんだっ――!」
「レイン」
レインが食って掛かろうとしたところにヨハンがレインの肩に手を掛けて止める。
「なんだよヨハン!止めんなよ!」
「今の僕たちが何を言っても説得力はないよ」
「ははっ、そっちのガキの言うとおりだ。まぁいいや、せいぜい死なねぇ程度に頑張んな。おい、いくぞ」
「へい、お頭」
そう言うと大柄の男と小柄の男はどかどかと酒場の方に歩いて行った。
「ちっ、なんだよあいつ!」
レインがバカにされたことを悔しそうにしている。
「けどヨハンの言う通りよ。まだ私たちは何も成し遂げていないわ」
「ちぇっ、ビーストタイガーの件さえ話せれば」
「それは言わない約束ですわ。それに言ったところで信じてもらえないどころかさっき以上にバカにされて終わりですわよ?」
「――お待たせしました」
モニカとエレナがレインに言い聞かせているところにヨハン達の推薦書の確認に行っていた受付嬢が戻って来た。
「確かにヨハン様、レイン様、モニカ様、エレナ様の推薦書はギルド長が預かっていました。ではこれから手続きの方を行っていただきますので、各自学生証のご提示をお願いします」
受付嬢の指示の通りにそれぞれが学生証を渡すと、魔法陣が描かれた台の上に学生証が置かれる。
「ではこれから登録を行います。リーダーはどなたが行いますか?又登録するパーティー名は既にお決まりでしょうか?お決まりでないようでしたら十日間の登録猶予期間がございます」
「リーダーはこっちのヨハンで。パーティー名は『キズナ』でお願いします」
モニカが即座に返答した。
「ヨハン様はそれでよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「わかりました。ではリーダーがヨハン様でパーティー名がキズナでございますね」
受付嬢が反芻する。すると学生証を置いた台が青白く光りを放つ。
「――――登録の方は完了致しました。ではこれからいくつか注意事項をお伝え致します。少々長くなりますがお聞きくださいませ。まず、皆様学生で初めてのパーティー登録でございますのでEランクからになります。ランクの昇格は依頼をこなした達成率や各依頼のポイントにより昇格致します。個人でのランクとパーティーランクは別途区分けされておりますが、パーティー登録者は基本的にはパーティーランク準拠になります。ですが、依頼達成により個人にもいくらかのポイントの配分はございます。依頼に関しましては各ギルドに依頼内容が明記されている掲示版がございますのでそれぞれご確認くださいませ。依頼に関してですが、原則依頼人数問わずの依頼でありましたら依頼を受理されたのち、成功報告をこちらでされるまでの間は先に報告された方を優先されます。その際個人・パーティー問わず依頼達成条件の横取りは禁止されております。もし発覚すればギルド資格が剥奪されますのでご注意くださいませ。複数のパーティーが依頼を受けられている場合に依頼を先に達成された場合は依頼失敗とはなりませんのでご安心下さい。ですが、依頼特定数が個人又は1パーティーに絞られている依頼に関しましては期間内に依頼達成報告がなされなければ依頼失敗となり減点となります。それと、最後になりますが、現在は冒険者学校の学生としてパーティー登録を行っておりますが、卒業後にパーティー解散又は継続の手続きを行って頂きます。今回発行致しますギルド証は学生証とリンクしておりますが、卒業後はギルド証に変換されます。その他わからないことがございましたらいつでもこちらにお尋ねくださいませ」
説明が終わると受付嬢からそれぞれ学生証が返却される。
「学生証に魔力を流してみてください」
受付嬢に言われるがままそれぞれが疑問符を浮かべながら学生証に魔力を流し込む。
すると文字が浮かび上がり、そこには――。
【 ヨハン E 】
【 キズナ 】
【 ランク E 】
といった感じで映し出された。
「へぇー、これが冒険者の証明になるんだね」
ヨハンが嬉しそうに学生証を掲げながら見つめる。
「ねぇ、せっかくだから早速何か依頼を受けてみない?」
「そうですわね、わたくし達でも受けられる依頼で何か良いのがあればいいですわね」
モニカも嬉しそうにして、早く依頼を受けてみたい様子を見せ、エレナも乗り気だった。
「どうせEランクなんだからそんなに大したもん受けらんないだろ」
レインはやれやれといった感じを見せている。
「皆様、それとですが――――」
四人が初めての依頼を探しに、さぁ行こうとしたところ、受付嬢に再度呼び止められる。
「はい」
まだ何かあるのだろうかと疑問符を浮かべる。
「盛り上がっているところ申し訳ありませんが、受付を終えられたら自分のところまで来て欲しいとギルド長より言付かっております」
「ギルド長?」
「「「?」」」
どういうことなのか、それぞれ顔を見合わせる。
「はい、ギルド長は二階にいらっしゃいます。お時間の方はまだよろしいでしょうか?」
「はい、それは大丈夫ですが…………」
そこまで言って他の三人に視線を配る。三人とも頷き、ヨハンの判断に委ねることにした。
「お願いします」
ヨハンも三人に頷き返し受付嬢に返事する。
「ではご案内致しますのでこちらへ――」
不思議に思いながらも受付嬢に案内されながら、ギルドの奥にある酒場を通り過ぎ、二階のギルド長室へ向かった。




