第十四話 パーティー結成
校長室を出た四人は突然の話をまとめることにする。
とりあえず腰を落ち着かせて話をするために学内の食堂に向かった。
食堂は多くの学生が利用するのだが、今の時間はそれほど人の姿は見られなかった。
「あのさ、そういやヨハンはどうやってを『あれ』を倒したんだ?」
レインは忘れてたとばかりにヨハンに確認する。
ビーストタイガーのことなのはみんなわかっていたのだが、『あれ』と例えたのも、普通は新入生がビーストタイガーを倒したといっても信じられないので念のため。
「あー、あれ?(まぁ別に隠すことでもないかな?) えっとね、あの魔物って身体に魔力の膜があって、普通に攻撃しても突破できなかったんだよね。それで、闘気を纏った攻撃を試してみたら魔力膜を突破できたから、だから…………」
「えっ!?ヨハンってもう闘気を扱えるの??あれ魔力の変換でかなり魔力コントロールが必要になるはずよ!」
思わずモニカが声を上げる。
「うん、お父さんに教えてもらったんだ。でもお父さんほどの練度はないけどね。お父さんのはもっと滑らかだったなぁ」
まだまだ未熟だとばかりに話す。
「(そらお前の父ちゃんスフィンクスだったじゃん!それと比べるなんて何言ってんだ?)」
レインが心の中で叫ぶ。声に出して叫びたい。
「ヨハンさんって……凄いのですわね」
「そう……なのかなぁ?」
「うん、ヨハンってこんなに凄かったのね。闘気を扱えて、それに両親がスフィンクスのメンバーって、そんなことがあるのね…………最初会った時は何言ってるのって思ったけど、納得したわ」
エレナとモニカに感心したように見られる。
「うーん、確かにお父さんとお母さんに色々教えてもらっていたなぁ。でもお父さんもお母さんもそんな伝説になるようなほど凄くはないよ?」
天井を見ながら王都に来るまで過ごしていた実家と共に両親の顔を思い出す。あの少し天然交じりの母と少しドジな父の姿を。
あれのどこに伝説たらしめる要素があるのだろうか。
「自覚がなくてもあのスフィンクスのメンバーの息子なんだぞ!すげぇことだって」
レインはほとんど知られていないスフィンクスの秘密に触れることが出来たことで未だ興奮冷めやらぬ様子を見せる。
「そのことですが、スフィンクスはこれまで素性がほとんど明らかにされていませんでしたわ。あまり公にせずにいましょう」
対して努めて冷静なのはエレナだった。
現在の状況を努めて冷静に分析して他の三人に提案する。
「うーん、まぁそうか。わかったよ!あーぁ、それにしても俺だけ補習かぁ。ったく、なんで俺だけ」
レインだけが補修だということはガルドフの殺気に当てられた反応からなので、それだけでモニカとエレナのある程度の実力の高さは窺えた。
――しかし、それでも。
「何を言っているの?私たちもヨハンに負けないように強くなるんだからね!」
モニカもヨハンの出生に驚きを禁じえなかったが、それとこれとは別とばかりにヨハンに負けないように張り合おうとする。
そこにはただの同級生だけではなく、ライバルとしての感情も生まれ始めていた。
「そうですわ、あなたは更に差が開かないように頑張ってくださいな。(はぁ、それにしてもこれは予想以上の展開だったのは確かですわね)」
「レイン、頑張って!」
「はぁ……呑気だよな、お前は」
ヨハンの無邪気な笑顔に呆れてしまう。
「――――ヨハン?」
突然後ろから声を掛けられる。振り向くとユーリとサナがいた。
「ユーリ!?元気そうだね!」
「あぁおかげさまでな。この間は助かったよ。結局びーす――――おっと、内密だったな。しかし、それにしても悔しいな。俺たちはともかく、ヨハン達の実習評価が低いのには納得がいかないぞ。なぁサナ?」
横のサナにユーリが話し掛けるのだが、サナの方は赤面しながらもじもじしてヨハンを見つめている。
「? サナ??どうしたの?」
まだサナとはそれほど会話をしていない。実習終わりにお礼を言われるのに少し話した程度。
ヨハンはまだ何も話さないサナに対して、どうしたのかとばかりに疑問符を浮かべながら話しかける。
「――――はぅぁ!?」
ビクッとした反応をしてサナがユーリの後ろに隠れた。
「ん?ん??」
サナに怖がられる様な事を何かしたっけと考えるのだが覚えがない。
わけもわからずヨハンが困惑して周囲を見渡すとモニカとエレナがどこか不機嫌そうにしていてレインがにやにやしていた。
「サナぁ、もう一度お礼をちゃんとしようって言い出したのはサナの方じゃないかよ」
ユーリが後ろを覗きながらサナに話し掛ける。
「うぅ………。あ、あの、この間は…………その、ほ、本当にあ、ありがとうございました!」
やっと顔を出したサナが一大決心するかのように大きくお辞儀をして思い切って言い切った。
「いえいえ、そんなこと――――」
気にしないでいいと言おうとしたところで――――。
「こちらも申し訳ありませんでしたわね。ほっぺた引っ叩いちゃって――」
エレナがサナとヨハンの間に割り込んで来たところでサナがハッとなる。
我に返ったサナが周囲に視線を配らせた。
「こ、こちらこそ、あぁでもしてもらわなければ助からなかったと思います」
俯いてあの時の出来事を思い出す。
思い出すだけで震えに襲われる。
「それで?あとの二人は?大丈夫なのよね?」
モニカがユーリに質問した。
「あぁ、アキとケントはおかげさまで無事に助かったよ。ただ、まだ完全ではないのでな。でも近々復帰できると思う。またその時にお礼を言いに来るよ」
「そう、良かったぁ」
モニカが安堵して息を吐くのも彼らの初期治療に大きく関与しているためだった。
「じゃあ用も済んだし、帰るか。ではまた」
「ヨハン君、またね!」
ユーリは感謝の気持ちを込めて、サナはヨハンをジッと見つめて挨拶をする。
手を振りながらその場をあとにした。
「とにかく、みんな無事で良かったね――――ん?」
手を振られたので振り返しただけなのだが、それまで穏やかだった空気が何故だか緊張が走る。
どう見てもモニカとエレナが怒っているように見える。
「(……えっと、どうしたんだろ?)」
「くくくっ、これから楽しくなりそうだな、ヨハン?」
レインがヨハンに肩を組みながら嬉しそうにしていた。
「そうだね、明日にはギルドに行くんだもんね。そういえばギルドの依頼ってどんなのがあるんだろう?」
「(……ダメだこいつ、なんも気付いていねぇ)」
ヨハンが見当違いの発言をしているがレインは華麗に聞き流した。
「(このニブちんが!)」
「(これは長期戦ですかね)そうですわね、そういえば今回ギルドに登録するパーティーのことですけれども。登録名何にしますの?」
「うーん、私は特にないかな。そういうの難しそうだし。ヨハンが決めたら?」
「どうして僕が!?」
「だってヨハンが俺達のリーダーだろ?」
「いつからそうなっているの!?」
初耳である。そういった話し合いをした事実も記憶も一切ない。
もちろん他の三人も初耳である。
「わたくしもそれでいいと思いますわよ?ヨハンさんが適任かと」
「私もヨハンがリーダーでいいと思うわ」
女性陣がレインに同調する。
「えー!?僕がリーダー?…………うーん、よくわかんないけど、まぁ、みんながそう言うなら…………けど、僕がリーダーだからって物事を一方的に決めるのとかじゃなく、お互いを尊重し合えて対等な立場で活動できたらいいって思うんだけど?」
「うん、やっぱりヨハンがリーダーで決まりね!」
「はぁ……わかったよ。とりあえずするから。それで、名前なんだけど、みんなが良ければ『キズナ』とかはどうかな?みんなと知り合えた絆を大事にするって意味で」
「なんかこっ恥ずかしいな」
「ならレインが何か考えてよ!」
「やだよ、そういうのを考えるのもリーダーの仕事だっての」
「そんなわけないよ」
こうなると体よく押し付けられた感じもしなくもない。
「……キズナかぁ。私はいいと思うよ?」
「そうですわね。それで問題ありませんわ」
「まぁ別に俺もそれでいいよ。そのうち慣れるだろ。よしっ、キズナでいこう」
こうしてヨハン達は翌日ギルドに冒険者としての登録に向かうことになった。




