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第百四十一話 王立騎士団(中編)

 

「あの?」

「ん?」


 アマルガスが一通り話終えたところで別の学生が手を挙げた。


「すいません、僕も質問をいいですか?」

「ああ。どんな質問でも受け付けるよ。言ってみなさい」


 既に満足しているアマルガスは学生に笑顔を向け――。


「その……騎士団に所属していれば強くなれるのでしょうか?」


 学生は強さに関する疑問を問う。


「強く……?」


 質問を受けたアマルガスは思わず拍子抜けをして学生を見つめ返した。


「ハハハ。なるほど、そういう類の質問か」


 アマルガスが質問をした学生をジッと見るので学生は困惑する。


「それに関しては個人の才能に左右されることがあるのは騎士だろうと冒険者だろうと特に変わりはないだろうな。だが騎士団は同じ思想を持つ者が多くいる。それらと同じ目的を持って切磋琢磨すれば自ずと強くなれるだろう。もちろんそこに向上心は必要だがね」


 笑顔のまま学生に答えた。


「おい!」

「「ハッ!」」


 アマルガスはそこで振り返り後ろにいる騎士に声を掛けると二人の騎士が前に出る。

 一人は上背のある騎士でもう一人はそれほどでもない。


 一体今から何が始まるのかと学生達は騎士の動きを目で追うと、即座に騎士の二人は互いに向き合い、訓練用の剣である木剣を構えた。


「始め!」


 アマルガスが大きく声を掛けると二人の騎士は互いに踏み込んで剣を交差し合う。

 二人の騎士の剣捌きはとても綺麗で、お互いの実力が拮抗しているのは見ていてよくわかった。


「おおー!」

「すげぇ!」


 と声を発しているのは学生達。

 学生達にとってその二人の騎士が行っている模擬戦はかなりのレベルにある。


「まぁ確かに二人ともそれなりに強いかな?」


 そんな感想を小さく呟くのはレイン。


「そうね。でも私の方が強いわよ」

「それはそうですが、ほとんどの学生にとってはあれだけの剣技を見せられれば魅了されても仕方ないかと」


 実際に目の前で繰り出される剣技の応酬はレイン達にとっても見応えのあるものだった。


「(うーん…………そうかなぁ?)」


 しかし、その中でヨハンだけは違う感想を持つ。

 確かに綺麗な剣筋をしているし、強いのだろうというのは見ていてわかるのだが、歓声を上げる程かと言われるとそうは思わない。


「ラウルさんの方がずっと……」

「えっ?何か言いましたか?」

「ううん、なんでもないよ」


 騎士団の授業のあった今朝もラウルとの鍛錬は行われていた。それに比べれば、ラウルの剣技、ソレに比べれば騎士達の剣速は遥かに遅く、そして動きも固い。


「よしッ! いいぞ!」


 アマルガスが再び大きく声を発すると騎士の二人は剣を止める。

 騎士二人は僅かに息を乱している程度。


「さて、見ての通りだ。ある程度の実力者を連れては来たが、彼らは君達と同じように学校を卒業してその力を騎士団に入って磨いてきた者達だ。これがさっきの質問に対する答えに代えさせてもらうよ」


 そこで学生達からは歓声と共に大きな拍手が巻き起こった。

 歓声と拍手が鳴り止むのと同時にアマルガスが再び口を開く。


「ただここまではあくまでも模擬戦による剣術。君達も知っての通り実際の戦場では魔法も飛び交うので強さの指標としては参考程度のものだがね」


 そこで静まり返る学生達を見渡し、その様子を見てアマルガスは満足そうに頷いた。


「実はだな。この二人は学校に通っていた当時、成績はそれほど良くはなかったんだ」


 その言葉を聞いた学生達がひそひそと話し出す。


「あれで成績が良くないだって?」

「だとしたら騎士団に入れば相当強くなれるんじゃないのか?」


 学生達の反応だけで聞こえなくともアマルガスには話の内容は予想できた。


「つまり、騎士団に入団して鍛錬に励めばこれほど強くもなれるということだ。まぁあくまでも可能性の話だがな」


 そこで強さに対して質問をした学生をアマルガスが見る。


「とまぁこんな感じなのが、満足してもらえたかな?」

「は、はいっ! ありがとうございます!」


 質問をした学生は満足そうに笑顔を浮かべていた。

 その様子を見たアマルガスは意地悪く笑みを浮かべる。


 実際的には、先程模擬戦を行った騎士達の学生時の成績は平凡だったなんていうことはない。むしろ優秀な方であった。

 一連のやり取りを見届けているシェバンニは尚も苦笑いを浮かべていたのは、アマルガスの思惑を理解しているのだが騎士団に入りたいという学生がいるのであるならば決めるのは学生達自身。その意思は尊重するつもりでいる。しかしそれでも些かやり方がズルいのでは、とも。


「さて、せっかくなのでこれから後ろにいる騎士と君たちの代表者に模擬戦をしてもらおうと思うのだが、シェバンニ先生如何ですかな?」

「えっ? アマルガスさん、それは…………」


 さらに困るのは、シェバンニのその様子から見てもそれは予定になかったのだということ。


 実際、予定していた騎士団の授業はここまで。

 しかし、アマルガスからすればここで騎士団の強さをより示せば強さに憧れる学生達を大勢囲えるという目算があった。


「いえ、さすがに騎士の方達とこの子らに模擬戦をさせるだなんていうのは荷が勝ちすぎますかと」

「そうですな。先生の言われることもわかります。ですが、冒険者とは突然危険に巻き込まれることが騎士以上に多いのではありませんか?」

「それは……」


 それはいつもシェバンニが口を酸っぱくして話している内容そのもの。

 いつ何時であれど突発的な出来事に対して柔軟な対応を心掛けなさいと常々言っている。


「で、ですが……」

「いや、やはりそうですな。いくら彼らが学生時代に平凡な成績だったとはいえ、磨き上げられた実力のある騎士と一学生が模擬戦を行うというのは無理があるというもの。いやいや、私としたことが配慮に欠けていたことを謝罪します。申し訳ありません」

「ぐっ……――」


 返す言葉がないシェバンニはグッと言葉を飲み込んだのだが、その直前にヨハン達を見ていた。


「(先生?)」


 目が合ったヨハンはどうして目が合ったのか不思議に思う。

 しかし、目が合った直後にシェバンニは自問するように小さく首を振った。


「先生、どうしたんだろう?」

「恐らく、あそこまで言われたことで多少腹を立てたのですわね」


 エレナの見解。

 それは間違っていない。加えて予定外のことをいくつも入れられたことも含まれている。


「それで思わずヨハンさんを見たのですが踏みとどまったのでしょう」

「僕?」

「ま、ヨハンの実力を知ってたらその気持ちもわからなくもないわな」


 一泡吹かせたい気にもなるのはレイン達も理解出来た。

 仮にそうなればエレナも止めるつもりはない。


「どうしますか?」

「僕は別に……」


 やってもいいとは考えたのだが、そこでエレナがスフィアと目が合うと苦笑いしながら小さく首を振られ――。


「スフィア……?」


 それにはやめておけという意思が込められていた。


「別に私が行ってもいいわよ?」

「いえ、やはりやめておきましょうか。スフィアも大人しくしていなさいって言っていますわ。だからモニカも今日のところは大人しくしていてください」

「えー? うーん、そっかぁ。まぁスフィアさんに迷惑かけるわけにはいかないもんね」


 微妙にうずうずしていたモニカもかろうじて我慢し残念そうに肩を落としている。


「では立候補者もないようならこれで終わることに――――ん?」


 アマルガスが学生達をジッと見渡しながら締めようとしたところで手を挙げている学生が目に付いた。



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