第十三話 校長室にて(後編)
ヨハンのこととは一体どういうことなのか。それぞれ顔を見合わせ合う。
「――もしかして、基本属性を全て扱えることかしら?」
エレナが顎に手を当て思案して口にする。
それは確かに珍しい。極めて稀と言ってもいいほどに。
「それも含めて、だ――」
――――瞬間、突然ガルドフはギンッとその場に威圧的な気配を放つ。
それは明確な殺気だった。
「なにこれ…………怖い」
モニカが殺気に当てられガチガチと歯を鳴らす。
「や、やばいってもんじゃねぇぞこれ」
レインは座り込んでしまう。思わず死を覚悟するほどで気を失いそうになる。
「ダメですわ、今すぐ逃げ出したいですわね」
エレナも泣き出しそうになっていた。
「……校長、それぐらいで」
シェバンニがそう言うと校長は殺気を収める。
そんな中、ヨハンは平然と校長を見つめ返していた。
「お、おいヨハン!?お前よく平気でいられたな」
恐る恐る立ち上がったレインがヨハンを見る。
「うーん、確かに殺気は物凄かったけど、前にお父さんにも同じようなことされたことがあるから、そんなに、かな?」
「おいおい、お前の父ちゃん一体何者なんだよ」
「知らないけど、元冒険者だって言っていたよ?お母さんもだって」
ヨハンが聞いているのは両親が元冒険者だということだけ。
どういう活動をしていたのかまでは詳しくは聞かされていなかった。
「そりゃそうじゃろう。なんたってお前の両親は『スフィンクス』のメンバーじゃぞ?」
笑顔でワハハと笑いながらガルドフはヨハンの両親について答えた。
「「「スフィンクス!?」」」
「?」
ヨハン以外の三人が驚愕の表情をするのだが、ヨハン自身はピンときていない。
「ス、スフィンクスって、あの大陸最強の冒険者パーティーの?」
モニカがびっくりしながら質問をする。
「え?それって凄いの??」
ヨハンは三人の反応を見るからに恐らくそれなりに凄いのだろうということなのは思ったのだが、いまいちどれだけ凄いのかわからない。
「お前!凄いなんてもんじゃねぇぞ!スフィンクスってのは10年ほど前に解散したって噂だが、解散するまでにこなしたギルドの依頼のほとんどがS級ばかりなんだぞ!?中でも有名なのが、この大陸の竜と和平交渉にこぎつけたって話なんだが、それもただ交渉しただけじゃなく竜の親玉の漆黒竜グランケイオスがだした条件をこなしたんだ!その条件ってのが、人間と若竜との一騎打ちを3戦!それを全勝したんだからな!もうお伽話だよ!!他にも王家から直接依頼されているらしい!それだけのパーティーなのにその素性が一部にしか知られてないって話だ!これも噂なんだが、色々命を狙われることもあったり、メンバーが栄誉や名誉に興味がないとかいろんな憶測が飛び交っているような、なっ!」
「わ、わかったよ、近いよ」
レインが興奮気味にヨハンに説明をした。
「わっはっはっは。そうだな、あの時は大変だったわ。グランケイオスのやつが案外話のわかるやつで助かったが若竜は生意気なのが多いからな。エリザとアトムが結婚してヨハンを身籠ったから活動を休止しておるが別に解散はしておらんぞ?」
「「「――えっ!?」」」
再び三人はガルドフを見て固まる。
「ん?言っておらんかったか?儂もスフィンクスのメンバーじゃったんじゃぞ?」
「はぁ。校長先生もでしたか。なるほど、それなら先程の殺気の凄さにも納得がいきますわね」
エレナがふぅと一息つく。
「……ダメね、わかったわ。色々あり過ぎてもうこれ以上何が起きても驚かないわ。それで?校長先生。ヨハンの実力の高さの理由と両親のことは理解しましたが、本題はテストですよね?それはいつ行われるのですか」
モニカもどこか諦めたように納得する。
「シェバンニ、よいな??」
ガルドフがシェバンニ教頭に何かを確認している。
「えぇ、結構です。仕方ないですわね」
シェバンニも何かを諦めていた。
「そんな不思議そうな顔をしないでください。今から説明しますよ。実はですね、テストはもう終わっています」
テストが終わったとは一体どういうことなのだろうか。全く意味がわからない。
「つまり、先程校長が発せられた殺気を受けて正常でいられたら合格だったのです。四人とも平然とまではいかなくとも十分に意識を保てられました。普通の学生でしたらあの殺気を受けた時点で気を失います。従って、あの殺気が抜き打ちテストということです」
「なーんだ、ほっとしたぜ」
レインが話を聞いて、ほっとした様子で胸を撫で下ろす。
「女の子二人はまぁ大丈夫そうですね。ですが、あなたはもう少し磨かないといけません。今度私からの個人授業を受けてもらいます。よろしいですね?」
シェバンニがレインに対して苦言を呈した。
「なんで!?合格じゃないんかよ!」
「えぇ合格です。ですが、同じパーティー内であなただけ見劣りしてしまうと嫌でしょう?ですから、少しでも他の三人に追い付けるようにしないといけませんからね」
「うぐ、それは、確かに…………。わかったよ」
レインは渋々承諾するしかなかった。
「あの?僕たちはこれからどうしたらいいのでしょうか?」
「なに、そんなに変わらんよ。学生として授業を受けて合間にギルドに顔を出して依頼をこなしてくれればいい。今のうちにやっておくと卒業後も有利になることだしの。ギルド長には儂から手紙をだしておくから明日にでもギルドに行ってパーティー登録をしておいてくれ。もちろんそれまでにパーティー名も決めておくんじゃぞ?」
「えっと、モニカもエレナもそれでいいのかな?なんか話が勝手に進んでいるみたいだけど……」
校長が言っているとはいえ、それでいいのだろうか。
「私は問題ないわ。むしろこんなに早く冒険者として活動して良いってなると嬉しいじゃない」
「わたくしも大丈夫ですわ。ヨハンさんのことをもっと知りたくなりましたもの」
「うーん。でも僕もいまいち父さんと母さんが凄いと言われてもよくわからないんだけど、知るってなっても何も知らないよ?」
「ええ、それで構いませんわ」
「決まったようじゃの」
「はい、よろしくお願いします」
予定外の展開が起きて、予想外の話を聞かされたのだった。
そうして校長室を出る。
「――本当によろしかったのですね、ガルドフ?スフィンクスのことまで話してしまってますが」
「なぁに、あの子達なら大丈夫じゃろ。それに、どうせ遅かれ早かれあの子達なら辿り着いたと思うぞ」
「それには同感ですが、やはり早すぎる気も」
「相変わらずシェバンニは心配性じゃの。まぁこの先どうなるかをじっくりと見ようじゃないか」




