第十二話 校長室にて(前編)
―――数日後―――
ヨハンとレインにモニカとエレナはいつものように一緒に過ごして学内を歩き、今回の野外実習評価について話していた。
入学してからというもの、クラスが一緒になったということもあって行動を共にすることが必然的に多くなっている。
「あーあ、全っ然納得いかねぇな。何で俺達のパーティーが最下位なんだよ!」
「厳密にいうと下から2番目ですわね。最下位は棄権となったユーリ達ですわ」
「しょうがないじゃない。ビーストタイガー騒動でウルフ討伐の戦利品ほとんど置いてきちゃったんだから」
「なんかごめんねみんな」
「あらっ?ヨハンさんが謝ることではないですわよ?ヨハンさんがああしていなければユーリやサナ達は死んでいたでしょうから」
「そうだぜ。それが評価されれば俺たちは一番のはずなんだ!」
「いつまでもぐちぐち女々しいこといわないでよ、みっともない」
「そうだね。だからまたみんなで頑張ろうよ」
「ヨハンさんの言うとおりですわ。また頑張りましょう」
レインだけは未だに不満を抱えているのだが、こればかりはこれ以上どうしようもない。
「ヨハン、校長先生が呼んでいます」
そんな話をしながらいつものように四人でいたところ、教師より声がかかる。
「校長先生が?なんだろう?」
「それとあなたたち三人も来るようにとのことです」
ヨハンに声をかけた教師はあとの三人にも声をかける。
「「「?」」」
突然何故校長先生に呼ばれたのだろうかと不思議に思いながらも四人は校長室に向かう。
「――お前何したんだ?」
レインが不思議そうに尋ねる。最初に声を掛けられたのはヨハンなのだから、ヨハンが呼び出されたことの中心なのだろう。
「さぁ、僕もわからないよ。それにレイン達も呼ばれているじゃないか」
「私たちはヨハンが呼ばれたついでみたいだったわよ?」
「確かにそんな感じでしたわね」
校舎内を歩いて、校内の一番奥にある校長室に着いた。
校長室の観音開きのドアは校長室というだけあって他の扉とは異なりそれなりに豪華さを見せている。
「――失礼します」
「わっはっは。よく来たな」
校長室に入った四人は正面に校長を迎える。
しかし、何故この人はいつも上半身裸なのだろう。みなそう思っていた。
「校長先生は何故服を着ないのですか?」
「(すげぇなモニカ、直接聞いたぞ!?)」
誰もが思っている疑問をモニカが代表して聞いてくれた。
「わっはっは。それはな…………意味はない!だが、あえて言うなら、かっこいいからだ!」
「(かっこ……いいか?)」
想定外の返しに上手く言葉を返せない。レインは脳内で呆れてしまう。
「ちなみに、今のはかっこいいからとかっこいい体をかけているんだぞ?」
校長のガルドフが更に畳み掛けに来た。
「……そう、ですか」
絶句するしかない。何をどう返したらいいのかわからない。
「校長先生!お身体の自慢はそれぐらいにしてくださいな。この子達への要件はそんなことではありませんでしょ」
「そんなこととはひどいな、シェバンニ」
ガルドフ校長にシェバンニと呼ばれたのは教頭先生だった。
シェバンニはメガネをかけた長髪に白髪混じりの女性で、この冒険者学校では校長に次ぐ実力の持ち主であり、かつ魔法のみなら学校随一であるとうのは既に周知の事実。
「さて、あなたたち、特にヨハンに来てもらったのは、この学校には授業の一環で魔物討伐及びダンジョン探索があるのはご存じですよね?」
「はい。ですが、私達新入生には授業以外でそれらに関しての許可はまだ下りていませんのでは?」
シェバンニの問いにエレナが疑問を投げかける。
「ええ、ですからこれからあなたたちのテストを行うことになりました。この間のビーストタイガー討伐の件に関してもそうですが、見たところあなたたちは新入生の中でも特に秀でているようですので、許可を出してもいいと校長先生がおっしゃられました。ただ、あなたの言う通り通常は一年の学年末にテストを行い、二年で本格的な実習なのですが」
「じゃあどうしてこんなに早くから?」
モニカも不思議に思う。
「それはじゃな。ここのところ魔物の動きが活発になっており、これまで出なかった場所にも現れるようになったのじゃ。それに数も多い。少しでも人手を増やそうと思ってな」
ガルドフが悩まし気に答える。
「僕とモニカも王都に来るまでの間に魔物に遭遇しました。行商人の人が言うには、そこには今まで魔物なんて出た事がない場所みたいでした」
「そうだ、そういったことが今多発しておる。儂はお主たちならすぐに許可を出しても良いと言ったのじゃが、シェバンニが渋りおってな」
「渋るとはなんですかっ!?当たり前のことを言っているまでです。この子達はまだ入学して間もないのですよ。いくら今回の魔物討伐の実績があっても、特例を出すかどうかについて、それとこれとは別です」
「テストはわかったけど、じゃあヨハンを呼んで俺たちはついでみたいだったのは?」
レインが当初の疑問を口にする。
この話の内容であるのならヨハンのついでではなく、四人同時に呼んでもいいのではと考える。
「ああ、それについても話しておかんとな」
それとは一体どういうことなのだろうか。当のヨハンも身に覚えがない。
「お前たち四人はいつも一緒におるようじゃが、ヨハンのことをどれくらい知っておるのかの?」
「ヨハンのこと?」
三人はヨハンの方に顔を向ける。
「?」
わけがわからない。
ヨハンも覚えのないことを言われきょとんとする。ブンブンと顔を横に振った。




